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肥満



体脂肪の過度の蓄積。


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 伝統的に,肥満は,標準身長-体重表に基づく理想あるいは妥当な体重を30%以上上回る体重として定義されてきた(表1-5参照)。現在,肥満は通常BMI(肥満指数)の公式で定義される――体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割った数値。


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疫学
 米国における肥満の罹患率は高く,そしてますます高くなっている。過去10年で,全体的な罹患率は25%から33%に上昇し,1/3となった。罹患率は,性,年齢,社会経済的地位 ,人種によって大きく異なる(275章の「肥満」参照)。罹患率は,女性では35%,男性では31%であり,20歳と55歳の間では2倍以上になる。女性の間では,肥満は社会経済的地位に強く関係しており,社会経済的地位の高い女性に比べて,比較的地位の低い女性には2倍も多くみられる。黒人男性と白人男性の間では,罹患率に明白な違いがないにもかかわらず,肥満は白人女性よりも黒人女性により多くみられ,白人女性の33%に対して,中年黒人女性では60%が肥満である。


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病因
 ある意味で,肥満の原因は単純――摂取エネルギーより消費エネルギーの方が少ない――である。しかし肥満は,別の意味では,体重,主に体脂肪の調節と関係する,とらえどころがないものでもある。どのようにして調節されているのか,まだ完全にわかっていない。
 体重は非常に精密に調節されている。例えば,一生を通して,平均的な人は少なくとも6000万kcalを摂取する。20ポンド(9.072kg)の増加あるいは減少は72,000kcalに相当し,0.001%以上の誤差はない。体重の調節は,正常体重の人々においてだけでなく,体重調節の設定値の上昇が原因となっている,多くの肥満の人々においても行われていると信じられている。肥満の決定因子は,遺伝的,環境的および調節的なものに分けられる。
 遺伝的決定因子:最近の発見は,遺伝子がどのように肥満を促し,どのように体重調節に影響を及ぼすのかを解明する一助となっている。例えば,ob遺伝子の変異は,マウスの肥満に大きな働きをした。ob遺伝子のクローン化は,この遺伝子にコードされた蛋白レプチンの同定につながり;レプチンは脂肪組織細胞で産生され,体脂肪の調節作用を行っている。レプチンの存在は,体重が調節されているという認識を裏付ける。なぜなら,レプチンは,脂肪細胞とエネルギー代謝を制御する脳の領域との間のシグナルとして働き,体重に影響を及ぼすからである。
 ヒトの肥満に対する遺伝的影響の程度は,双生児,養子および家族の研究によって評価されている。双生児に関する最初の研究では,BMIの遺伝の可能性は約80%と非常に高く見積もられており,この数値はしばしば引用されている。養子と家族の研究の結果は,遺伝の可能性は約33%で一致したが,これは双生児の研究結果に比べて,一般的により妥当な結果だと考えられている。しかし,遺伝的な影響は,全体脂肪に比べて,部分的な脂肪分布,特に危険な内臓貯蔵脂肪に関する決定にとってより重要である(後述参照)。
 環境的決定因子:遺伝的影響が体重変化の原因のわずか33%しか占めていないという事実は,環境が及ぼす莫大な影響を意味している。こうした影響は,過去10年間における肥満罹患率の著しい増加によって,劇的に例証されている。
 社会経済的地位は,特に女性の間で,肥満に対する重要な影響を与える。社会経済的地位と肥満の間の,負の相関関係は,根元的原因を反映している。長期的な研究により,比較的低い社会経済的地位に育つことが,肥満の強力な危険因子であることが明らかになった。社会経済的因子は,エネルギー摂取とエネルギー消費のどちらに対しても大きな影響力をもっている。
 大量の食物摂取は肥満と関係がある。長年,よく知られていない代謝障害が肥満を引き起こし,食物摂取は正常と考えられてきた。しかし,水素と酸素の安定したアイソトープを使った二重標識水法は,肥満の人のエネルギー消費が大きいこと,それによって大量の食物摂取もまた必要とされることを示している。さらに,こうした大量の食物摂取には,通常,それだけで肥満の素因をつくる,大量の脂肪も含まれている。
 西洋社会に非常に一般的にみられる座りがちのライフスタイルは,肥満を促進するもう1つの環境的影響である。肉体的活動はエネルギーを消費するだけでなく,食物摂取制御の一助ともなる。動物研究は,肉体的無活動が,食物摂取に対する矛盾した効果により,肥満の原因となることを示唆している。エネルギー消費量の増加につれて食物摂取量は増加するが,肉体的活動が最小限のレベル以下に低下しても,食物摂取量は比例して減少しないので;一部の人にとって,活動の制限は,実質的に食物摂取量が増加したことになる。
 調節的決定因子:妊娠は,一部の女性における肥満の主な決定因子である。ほとんどの女性は出産後1年にごくわずかに体重が増えるだけだが,約15%の女性は1回妊娠するごとに20ポンド(9.072kg)ずつ体重が増える。
 乳児期と小児期における――一部重度の肥満の人にとっては成人期においても――脂肪細胞と脂肪組織量の増加は,肥満の素因をつくる。これらの増加により,正常体重の人に比べ,肥満の人の脂肪細胞が5倍になることがある。ダイエットでは脂肪細胞のサイズしか減少せず,脂肪細胞の数は減少しない。その結果,細胞過多の脂肪組織をもつ人の場合,各々の細胞の脂質含有量を著しく枯渇させることによってのみ,正常体重への減量が可能になる。こうした枯渇,これに関連して細胞膜に起こっている事象により,体重の減少能力には生物学的限界が据えられており,こうした人にとって正常体重にまで体重を減少させることの難しさを証明するものといえる。
 腫瘍(特に頭蓋咽頭腫),あるいは感染(特に視床下部に影響するもの)による脳の損傷は,非常に少数の人に肥満を起こす。その他の決定因子が何であれ,カロリー収支の最終共通経路は,CNS(中枢神経系)を介した行動にある。
 薬物療法の導入増加により,薬物は最近肥満の決定因子のリストに付け加えられた。ステロイドホルモンおよび主な4種類の精神活性薬――伝統的な抗うつ薬(三環系抗うつ薬,四環系抗うつ薬,モノアミンオキシダーゼ阻害薬),ベンゾジアゼピン,リチウムおよび抗精神病薬によって体重増加が起こりうる。体重増加防止のために薬物治療を制限することは,深刻な治療上のジレンマを生じる。
 内分泌性の要因は,伝統的に肥満の重要な決定因子とみられてきた。膵臓の腫瘍による高インスリン血症,クッシング症候群による副腎皮質機能亢進症,多嚢包性卵巣症候群による卵巣機能不全,甲状腺機能亢進症は,どれも肥満の一部症例に関わっているが,内分泌性決定因子が影響を与えるのはごく少数の肥満の人に過ぎない。
 心理学的要因は,以前は肥満の重要な決定因子とみられていたが,現在では大きく2つの偏食的な食事パターンに限定されると考えられている。むちゃ食い性障害は,短時間に大量の食物を消費し,むちゃ食いしている間はコントロールを無くしているという自覚があり,後で悩む,というのがその特徴である(196章)。神経性過食症の患者とは異なり,これらの患者は,嘔吐などの代償行為を行わない;したがって,むちゃ食いは過剰なカロリー摂取の原因となる。むちゃ食い性障害は,減量プログラムに加入している人の10~20%に起こるとみられている。夜食症候群は,朝の食欲不振,晩の過食,そして不眠から成る。これは,肥満の治療を求めている人の約10%に起こる。


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症状と徴候
 肥満の症状と徴候は,脂肪組織の量が多いことに直接関係する。それらの中でも顕著なのは,十分に診断されない深刻な病気である睡眠時無呼吸で,睡眠中に呼吸が止まる瞬間が1晩に何百回も頻繁に起こるのがその特徴である(173章の「睡眠時無呼吸症候群」参照)。
 肥満低喚気症候群(ピックウィック症候群)における呼吸障害は,高炭酸ガス血症,CO2の呼吸刺激としての効果の減少,低酸素血症,肺性心および早死の危険性をもたらす。
 肥満は,体重のかかる関節にも,かからない関節にも整形外科的障害をもたらす。皮膚の異常は特によくみられる;汗と皮膚の分泌物が厚い皮膚層に閉じこめられ,菌や微生物の成長と感染を引き起こす培養媒質を作り出すためである。
 心理テストによって評価される一般的な精神病理学的レベルは,肥満の人もそうでない人も変わらない。しかし,比較的高い,あるいは中間の社会経済的集団に属する一部の若い女性にとって,心理的問題は肥満と関連づけられている。最近では,肥満の人に向けられる強い偏見や差別が,こうした問題の原因ではないかと考えられている。前述の摂食性疾患に加えて,これらの問題に含まれるのは,体型への非難,すなわち自分の身体がグロテスクで忌まわしいと感じてしまうことである。これらの女性は,他人が敵意と軽蔑をもって自分を見ていると信じ込むので,自意識が強くなり,社会生活を営む能力が阻害される。


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診断
 肥満は,生理学的に定義された境界点のない,体脂肪分布曲線の一端として表される。実際的な目的には,視認検査で十分である:人が肥っているようにみえれば,その人は肥っている。より量的な肥満の測定には,BMIが使われる。肥満は,BMIが男性では27.8以上,女性では27.3以上と独断的に定義されている。
 体脂肪の特殊な分布は,特定の病気の診断に重要な場合がある――例えば,副腎皮質機能亢進症におけるバッファローハンプ,甲状腺機能低下症における特異な体液の蓄積などである。
 体脂肪分布の重要性に対する認識,特に内臓貯蔵脂肪の重要性に対しては,肥満に関する理解に,はっきりした進歩がみられる。臨床的に,こうした分布はウエスト/ヒップ比で評価される。すなわち,ハイリスクの上半身肥満と定義されるのは,この比が,男性では1.0以上,女性では0.8以上である。しかし,リスクは性別に関係なく,この比の大きさに直接比例する;男性におけるより高い死亡率および罹患率は,より大きいウエスト/ヒップ比の相関関係そのものである。


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合併症
 肥満がもたらす心身への有害な影響は重要である。最近の統計は,米国において,1年に280,000人が「栄養過多」で死亡していると推定している。これは,死亡原因として喫煙に次ぐものである。
 肥満による多くの代謝性疾患は,腹部の内臓脂肪によって起こると考えられている。この脂肪は門脈内の遊離脂肪酸濃度を増加させ,その結果,肝によるインスリン除去の減少,インスリン抵抗性,高インスリン血症および高血圧症を起こす。こうした事象の因果的連鎖として糖尿病,異脂肪血症が発症し,最終的に冠状動脈疾患が起こる。
 肥満の合併症には皮肉な現象がみられる。肥満治療を受けている人の大半は,男性と比べて肥満の合併症の影響がずっと少ないと思われる女性である。治療を必要とする男性は治療を受けていない。


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予後と治療
 肥満の予後は悪い;治療しなければ,進行する傾向がある。大半の治療形式において,体重は減少するが,ほとんどの人は5年以内に治療前の体重に戻る。
 近年,肥満治療の目標と方法は,2つの事象によって根本的に変化した。第1は,体重の10%,またはおそらくたとえ5%というわずかな体重減少であっても,肥満における大半の合併症をコントロールしたり,少なくとも改善するのには十分だという事実である。したがって,めったに達成できず,また達成したとしてもまれにしか維持できない理想体重の達成という,従来の目標を目指す理由はなくなった。「10%の解決法」がほとんどの治療プログラムの目標となっている。
 第2の事象は,治療中に体重の減少が十分に維持されないことからもたらされたものである。この事象はすなわち,体重の減少から体重の管理へと目標が移行したことであり,総合的な健康状態における最良で達成可能な体重を目指すというものである。
 体重の管理プログラムは主に3種類に分けられる。
 自分たちで行うプログラムは,助けを求めているほとんどの肥満の人にとっての情報供給源である。医師は,これらのプログラムを熟知することによって肥満患者を手助けすることができる。このプログラムに含まれるのは,Overeaters AnonymousおよびTake Off Pounds Sensibly(TOPS)といった,自助グループ;地域ベースのプログラムや職場のプログラム;本や雑誌の記事;および,食事に代わる調整食などの,減量のための製品である。
 非臨床プログラムとは,民間企業によって組織された一般によく知られた商業目的の企画で,毎週のミーティングは不特定の熟練したカウンセラーによって行われ,ヘルスケアの専門家の協力によって作った指示や指導の補足資料を提供してくれる。これらのプログラムは,通常1年以上の治療は行わず,費用はWeight Watchersの約$12/週から,一部の治療プログラムの$3000/6カ月まで様々である。商業的プログラムの有効性は,統計が発表されないことと,非常に落伍率が高いために評価するのが難しい。それにもかかわらず,その利便性がそうしたプログラムの人気を高めている。医師は,実際的な低脂肪食や肉体的活動を強調するプログラム選びを手伝うことにより,患者を支援できる。
 臨床的プログラムは,資格をもつヘルスケア専門家が提供するもので,しばしば商業的な減量プログラムの一部となることもあるが,個人あるいはグループでの個別の診療ともなる。
 体重の管理プログラムでは4つの方法を使う:ダイエットと栄養についてのカウンセリング,行動療法,薬物および外科手術である。
 ダイエット:伝統的なダイエットは現在まれにしか処方されない;それに代わって,長期間にわたる習慣の変更が力説される。大半のプログラムでは,どのように安全に,実際的に,ゆっくりと,食パターンを変えていったらいいのかを指導する。変化に含まれるのは,複合炭水化物(果物,野菜,パン,穀類,パスタ)の摂取の増加と,脂肪や単糖類の摂取の減少である。400~800kcal/日を摂取する超低カロリーのダイエットは,患者が大幅に減量できてもすぐに再び元に戻ってしまうことが明らかになったため,人気がなくなっている。
 行動療法:大半の非臨床的(商業的)体重減量プログラムの基礎は行動療法である。行動療法は,食行動の解析に基礎をおき,変えるべき行動,行動に先立つ行為およびその行動による結果を熟考するというものである。変えるべき第1の行動は,ゆっくりとした速度で食べる努力をすることである。次に,食事から比較的離れた行為(例,食物の購入)から,比較的近い行為(例,家の中ですぐ食べられる高カロリーのスナック類の摂食)に至るまで,食事に先立つ行為を変える努力である。第3段階はこれらの行動を強化することである。詳細な記録をつける自己モニターは,どの行動が変更され,強化されるべきかを判断するのに使われる。栄養の教育は,肉体的活動を増加させる方法と同様,こうしたプログラムにおいて次第に重要になってきている。認識療法は,肥満の人に共通する減量に対する自滅的で,順応不良な態度を克服するためと,体重管理のどんなプログラムでも発生するわずかな過失による逆戻り防止の訓練のために使われる。
 薬物:わずかでも減量によってもたらされる多くの利点と,減量を維持する難しさは,肥満における薬物治療への興味を再燃させる。特に,1970年代に比べて,より新しい薬物には濫用の可能性が少ないことがその理由である。しかしながら,フェンフルラミンを単独で,あるいはフェンテルミン(たいていfen-phenとして言及される)と組み合わせて投与された肥満患者に広く弁膜性心疾患がみられたという最近の発見が,肥満の薬物治療に影を落としている。フェンフルラミンはもはや使うべきではないが,食欲抑制薬の処方に関する不利な発表によってどのような影響が生じるのかは不明である。シブトラミンは最近,食欲抑制薬として承認されたが,その経験は限られたものである。市販薬は,一般に無害であるが,効果については疑わしいので,避けたほうがよい。
 外科手術:非常に重症の肥満の人(BMIが40以上)および比較的重症ではないが深刻なあるいは生命を脅かす合併症を伴う人には,外科手術が最良の治療法である。それによって大幅な体重減少がもたらされ,これは通常5年以上は良好に維持される。最もよくみられる手術――縦にしばる胃形成手術および胃バイパス手術――は極端に胃の容積を減少させ,容量が25mL以下の胃袋をつくるというものである。
 手術後の体重減少は,始めは急激で,2年にわたって次第に遅くなる。それは肥満の程度に直接比例し,通常40~60kgの間で変化する。体重の減少には,気分,自尊心,体型,活動レベル,そして人間関係上,職業上の有効性などはもちろん,医学上の合併症の著しい改善を伴う。熟練者であれば,手術前および手術による死亡率は,通常1%未満であり,手術による合併症は10%未満である。



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