カテゴリ:虫歯の電気化学説
前回のつづき
https://plaza.rakuten.co.jp/mabo400dc/diary/202201190000/ 2009/06/04の記事を再掲しようと思っているのだが、これは歯根面う蝕に関する記事だ。読み返してみると隣接面カリエスなどの他の形態の虫歯にも当然使えると思う。当時はまだ甘いものが虫歯の直接的原因と思っていたようだが、今は直接的原因ではなく、歯磨きの巧拙と同じく増悪因子の1つだと考えている。そもそも甘いものを食べまくっている人でも虫歯がない人もいますからね? この記事で一番重要なことは、「水素発生型の腐食」と「酸素消費型の腐食」の違いだ。 一般に酸で溶けると言っても2種類の機序があるという認識はあまりないようだ。いわゆる酸で溶けるというのは「水素発生型の腐食」の方だと思う。これは歯牙をお酢に漬けると溶けるとか、コーラに漬けても溶けないとか、そういう話に出てくる方だ。この腐食の場合、結構な低pHでないと歯牙は溶けない。実際問題としてpH2〜3のお酢でもコーラでも数日〜数週間も口中に含んでおくことはできはしないし、虫歯の穴の中でもそのような低pHの状態が持続的に発生しているとは考え難い。 ところが「酸素消費型の腐食」の場合、それほどの低pHは必要ない。これらのイオン式を見ると酸素消費型の方が電子の数は4倍と酸化力は強い。また発生した水酸イオン:OH-は環境中の水素イオン:H+で中和され水となるので分極作用により反応が遅くなることがない。水素発生型の方は水素ガスにより反応が阻害されやすい。 そして重要なのが、基本的な酸素濃度差があれば持続的に反応が進むということだ。これは酸素濃淡電池、通気差電池、バイオフィルム電池として工業界では広く知られているし、隙間腐食として問題になっている。 口腔内でも同じで、歯に何らかの隙間やくぼみがあると、その酸素が相対的に少ない隙間やくぼみの奥の方が虫歯になりやすいのは誰でも経験することだ。口腔内での隙間やくぼみというのは、クラックや修復物と歯牙との隙間、虫歯の穴の中などいくらでもある。 1本の歯でも手前側と奥側では奥側の方が圧倒的に虫歯は多い。これは口腔内の酸素濃度は手前側の方が高く、奥の方が低いというのは容易に考えられる。 では2006/06/04の「ほんとうの虫歯の発生メカニズム2」と題した記事の再掲だ。 ーーーここから引用開始ーーー 虫歯は金属腐食の一種だよ、という観点で見れば 実際の虫歯がどうしてできるのか良く理解できます。 今日は歯根面う蝕とよばれ、 歯周病にかかった人によく見られる虫歯の画像です。 口腔内に露出した象牙質(歯根)が、 リンゴをかじったみたいにグルっと虫歯になりますので厄介です。 充填処置も難しい、というか出来ない。。 中高年の虫歯の多くはこれで、 子供の虫歯が減っても全年齢の虫歯が減らないわけは、 高齢になるほど、この歯根面う蝕が増えるからです。 若い人の虫歯は歯医者が削らなければ増えません!? 通常この場合、象牙質だけがやられエナメル質は大丈夫です。 このことから、 これは異種金属接触腐食ではないか、というお話はしました。 接触している2つの金属のうち自然電位の低い方が溶解します。 歯の場合、象牙質の方が溶けると言うことです。 また、象牙質が虫歯になりやすい原因としては すき間腐食が考えられます。 これらの腐食の原因は象牙質の構造にあります。 この図は象牙質の表面の顕微鏡像ですが、 無数の穴が開いています。 かろうじて細菌が入れる程の せいぜい2~3μm位の小さな穴なのですが、 歯髄(神経)まで管状に続いていて、 ものすごく深い穴というかすき間になっているのです。 これを象牙細管とよんでいますが、 イオンレベルで象牙質を見ると、 その表面積は非常に大きい、 それだけ溶出しやすい構造をしてるということです。 この穴の中は酸素が少なく外は酸素が多い、 酸素の濃度の差ができると通気差電池が形成され、 腐食する。 酸素が少ない方が溶けるのですが、 その化学的な理由は、下図の右側を参照してください。 酸素が反応する過程で電子を奪い、対極の金属が溶出する。 酸だけで溶けるのは左側の図。 もちろん細菌が歯根面に張り付いていれば、 細菌が呼吸の過程(解糖系)で酸素を消費するので、 酸素濃度勾配はさらに大きくなり、 腐食を助長する。 これを微生物腐食と言います。 こう考えると歯根面う蝕予防の方策も思いつきますね、 それは象牙細管を埋めればよい! マイクロ・ハイドロキシアパタイトは歯の成分と同じもので、 再石灰化の原材料となり、虫歯予防に効果があるとされていますが、 高濃度のマイクロ・ハイドロキシアパタイトは 象牙細管を埋める効果もあることが確認されています。 マイクロ・ハイドロキシアパタイトの歯磨剤、効くかも。。 特許成分、薬用ハイドロキシアパタイト(mHAP)で、虫歯予防。低発泡。研磨剤もフッ素も無配合。医薬部外品。アパガード キッズ ラムネ味 60gです。 参考文献:1、金属の腐食と摩擦磨耗 2、亜鉛による防食 3、口腔病理カラーアトラス 石川梧朗編 医歯薬出版 4、丹治研究室 Tanji Laboratory ホームページ 東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生物プロセス専攻 生物機能工学講座 生物化学工学分野 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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奥歯ほど虫歯になりやすいのも噛み締めで力が掛かりやすいからですかね?
「きィィ…悔しい…!」みたいな時って奥歯ギリギリしちゃいますもの (2022/01/29 11:49:30 PM)
アパガードリメナルと重曹うがいを始めたから全く虫歯ができなくなり、知覚過敏も完治しましたが、こういうことだったのですね。。。
先生の幅広い知見素晴らしいです。 (2022/02/20 12:27:41 PM)
saitoさんへ
マイクロアパタイトとかナノアパタイトとか最近はいろんなメーカーから出ているようですね。 でも知覚過敏は咬合性外傷が直接的原因と思われますので、象牙細管を埋めるのは対症療法でしかありません。お気をつけください。 (2022/02/20 08:44:03 PM) |
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