まだまだ短い法律がございまして
前回、わずか2条の短い法律をご紹介しました。今日はそれより短い法律をご紹介しましょう。この法律の条文はたった1条です。「失火ノ責任ニ関スル法律」 民法第七百九条 ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス うわ、なんでこんなにカタカナ使うの?それもそのはずです。明治32年3月8日法律第40号というのですから、古い表記のままになっております。これを今風に書き直しましょう。 民法709条の規定は、失火の場合にはこれを適用せず。ただし、失火者に重大なる過失ありたるときはこの限りにあらず。 これで少しはわかりやすくなったでしょうか。本当に1条しかありません。でもこれが奥深い法律であることだけは間違いありません。 条文先頭の「民法709条」は故意・過失により損害を与えた者は、損害賠償義務を負ぅといものです。しかし、上記の条文をよく見れば「失火の場合は損害賠償請求ができない」のだということなのです。おわかりでしょうか、もらい火にあっても焼け損になるということです。出火した相手に弁償してよと言っても賠償はなされません。逆に言うと自分が火を出しても類焼した相手の補償をしなくともよいと言うことなのです。 しかしながら、条文後段には「重大なる過失があるときはこの限りでない」とあります。この通常でない重大な過失とはどのようなものがあるのでしょうか。過去の判例では◆天ぷら油を火に掛けていながら、目を離し油に引火したケース◆火のついたヒーターに灯油を給油していたケース◆寝たばこが布団に引火したケースなどがあります。この重大な過失に該当するか否かは裁判を起こさない限り決まりません。だから火災保険に入っておくべきなのです。 借家ですと少し話しが変わります。 借家の場合は、借家人が過失で同じ敷地内にある数件の借家を燃やしてしまった場合、他の借家人(被災者)には損害賠償をしなくてもよいのです。しかし、借家人として普通の注意(善良な管理者の注意)をもって借家を管理する義務があります。建物を燃やしてしまった場合、借家人は建物を元どおりの状態で返還できない(債務不履行)ということで、家主に対し損害賠償しなければならないことになります。 借家人が酒癖が悪く、タバコの火の不始末その他で何回かぼやを出しているにも関わらず、家主は借家契約を解除して出て行ってもらうことをしなかったような場合。他の借家人(被災者)は、家主に対し、安全義務違反になるとして債務不履行に基づく損害賠償請求ができます。 最近はマンションでのガス爆発事故など、火災の形態も多種多様になっていますので、重大な過失に該当するかしないか裁判の数も多くなっているそうです。 明治生まれの1条しかない短い法律でも、深~い意味を持って今でも生き続けているのです。明治32年って、1899年ですよ。前世紀です。日清事変(日清戦争)の1年前!すなわち109年前。109年一度も改正がなく生き続けてきた法律に脱帽。・・・たった1条の法律にずいぶん長くなりました