国家試験の試験監督員業務
厚生労働省が行う保健師国家試験のある会場で試験監督員をしてきました。 受験生を前に試験の注意事項の説明、解答用紙、問題集の配布を行い、試験時間中は不正が行われないよう監視(あまりいい言葉ではない)するのが役目です。私のほかに2人、合計3名でその試験会場を担当しました。 保健師の試験だけに受験者は若い女性が圧倒的に多い。でも男性受験者も2%くらいいます。勉強したことを精一杯答案用紙に書きなさい。自分が選んだ道に進めるかどうかこの試験にかかるのだから。そう心の中で皆に問いかける。一心不乱に問題に目をやり真剣に考えれば考えるほど、机に肘をついて顎を支えるポーズになっていく。択一問題ではあるがやはり考えなければ正しい答えを見つけられない。 私は多くの人を前に講演をすることがよくあります。仕事柄、遺言や相続の講演が多いため聴衆は高齢者の方ばかり。ところが今日目の前にいる100人に近い人々は若い娘さんばかり。年ごろからすれば自分の子ども。選別するための高校、大学受験と違い、国家試験の場合は基準点以上であれば受験者全員が合格しておかしくない。保健師を志し、人を助けるために働こうという心は崇高なものである。是非とも全員が合格してもらいたいものです。 そう思いつつも自分の責務はなんであるか。試験を間違いなく実施し、不正が行われないよう注意しなければなりません。ともすれば監督員というものは、不正を見つけたら摘発するという心を持ちがちなもの。正義感をもつことはよいことであるが、不正をする目的で会場に来て、計画した手段通り回答を作成しようとする者はそういないはず。だから摘発よりも「不正の防止」に力を入れるべきです。その予防とは、事前の注意(これは警告)、個々の行動の注視、見回りが中心になる。顔つきも不正は許さんと鬼の形相をするのではなく、微笑みをもって行動する。「あなたたちの良心を信じます」そう表情で訴え続けました。 人間みんな楽をしたいのです。試験だけでなく人生においても楽をしたいがために不正をする人間は数多い。それは否定できない事実である。それを若いうちに、ことに自分の一生を決める試験に実行してはなりません。正々堂々戦ってほしい。スポーツでいえばフェアプレーです。ファウルばかりしていてはなりません。あなた方は保健師になるためにルール(法律)を勉強してきたのでしょう、だったら資格を得る試験でもルールを守らなければなりません。 全員に不正と思われる行動すら見られず試験時間が終了し、解答用紙を集めその回収枚数も受験者数と整合した。試験が終了したことを宣した後、別れ際にこの部屋全員の合格を祈ります、と監督員に定められた発言マニュアルにない言葉で締めくくった。緊張から解き放たれたのでしょう、娘さんたちは一斉に笑顔を見せてくれた。中には「はい」と返事をしてくれた人もいました。みんないい顔です。力を出し切った、精一杯やった人間が見せる安堵の表情でした。 いつもおじいちゃんおばあちゃんが聴衆なので、たまにはこういうのもいいです。私も彼女たちから「若い力」を少しいただきました。(勘違いかな)