マックの文弊録

2006/08/15(火)14:33

旧盆迎え火の日に

◇ 8月13日(日曜日):旧文月二十日(甲戌):旧盆迎え火 昨日の土曜日はこちらでは午後になって黒雲に覆われた。貧乏会社の社長は土曜日になって書類仕事をする。神保町の地下鉄の駅を出るべく階段を上りながら見上げた外界の空は、黄色っぽい地に墨絵のような濃淡が入り乱れて、真昼間なのに夜のような暗さであった。 会社に着いて程なく、雷鳴一発驟雨となった。 近年東京の夏はこういう天候の日が多くなったようだ。以前、仕事の都合で頻繁に台北に行く用事があったが、夏にあちらへ行くと大抵午後にはこんな様子だった。 後のニュースで知ったのだが、都内では方々に落雷があり、JRも一時不通になった。羽田も飛行機のダイヤに遅れが出たとの事だ。 今日13日は旧盆の迎え火。それで12日の土曜日は帰省ラッシュの最初のピークになった。お盆に合せて郷里に戻り、ゆとりのある者は18日の週末まで休暇を取る。そうでなくても、皆さん概ね16日まではお休みになるようである。何も混んでいる時にわざわざこぞって移動しなくても良いじゃないかと思うけれど、都会の雑踏を離れて帰郷すれば、懐かしい顔に会うことが出来、幼い頃に親しんだ風土・環境に戻れるのだから、かような意見はそれに参加を許されない者の僻みでしかない。 道路が渋滞するのは例年のことだが、昨日はこれに落雷による、公共交通機関や航空ダイヤの乱れも加わった。僕は今年もお盆休みは取れない。毎日がカレンダー通りに仕事である。こういう時に会社に出てくると、電車も道も空いているし、取引先の大半はお休みだから、静かに中長期に考えを廻らせることもできる。それは良いのだが、放課後気晴らしにビールでもと思っても、行きつけの店は皆お休みだ。旧盆の期間は河岸も休んでしまうので、ちょっとした小料理屋は連動して休んでしまうのだ。 だから僻みだろうがなんだろうが、数十キロにわたって頭尾を接してノロノロ進むミミズのような車列や、大混雑の駅や列車に難渋する皆さんを想像して、密かにしかし大いに溜飲を下げたことではある。 僕が旧盆にも帰省しないのは、郷里に住む母の状態の所為もある。 母は旧来好奇心旺盛で、あちらこちら出掛けるのが好きな人だから、僕の会社がなんとかなって、ある程度のゆとりが出来るまでは、元気でいてくれるだろうと高を括っていた。しかし、昨年末に玄関先で転んでから、急速に出不精になり、それと共にボケが進んでしまった。どうも転んだのも、軽い脳梗塞であったらしい。最初は「まだらボケ」程度であったのが、まだらの暗の部分が増えてきて、一人で暮らすのは端から見て覚束なくなってきた。それで、近くに住む妹の計らいで、グループホームという介護施設に入ってもらったのだ。 妹のお蔭で、こういう状況でも僕は東京で自転車を漕いでいられるのだが、折に触れて彼女がメールで伝えてくる状況は決して楽観的どころではない。最近では僕のことも時に同定不能になるようで、こないだなんかはどういうわけか「北陸で会社をやっている親類」と云うことになってしまった。そうなると、故郷に戻っても実質地縁のみで、血縁は相当薄くなってしまう。お盆で帰ることも、情けない話だが、何だか会社を切り盛りしていく気力が沮喪してしまうような恐怖が沸いてくるのである。 その母は、ボケ以外は健康なようで、その点は未だ良いのだが、最近はとっくの昔に物故者になっている兄弟家族、親類、昔のご近所さんまでが、彼女の頭の中ではどんどん生き返っているようなのだ。今日の妹のメールでも、そういう連中から「つい最近挨拶状を貰った」という話であったそうだ。まぁ現実を直視するよりは、そういう仮想に浸っていられる方が、本人としては幸せなのかもしれない。盆の迎え火は、彼女にとっては現実なのかもしれない。 妹は今朝ほど、今や誰も住まぬ母の家に風を通し、亡父の位牌にお線香を上げてくれた。地元にある墓所にも詣でてくれるそうだが、「お母さんの云うとおりだと、お墓は誰もいなくて留守よね」などと書いてきた。 なるほどねぇ。確かにそれはそうだ。 ♪♪今回の厚木語辞書♪♪ 『お馬が時』 - 夕方のこと。そろそろ暮れて来ようとする頃、畑や田圃で仕事を終えたお百姓が馬を引いて帰ってくることから。 【対応する日本語】 逢魔が時 『嘘も方便』 - 事実を曲げた嘘でも、時には方便のように役に立つことがあること。「方便」とは、遊牧民が牛糞を四角い枠に入れて乾燥させ、家の壁にしたり、燃料にしたものを云う。 【対応する日本語】 嘘も方便 『上前をはねる』 - 和服の打ち合わせの前の部分を撥ね上げる。された方が「きゃっ」と驚いてうろたえている間に、小銭をくすねて逃げること。転じて、代金や口銭の一部を掠め取ることを云う。但しあくまでも掠め取るのは一部だけである。全部を奪うことは「ガメる」という。 【対応する日本語】 上前をはねる

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