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私の気にいったことば

私の気にいったことば

鬼と月と赤い砂漠10

鬼と月と赤い砂漠10

こ鬼、ちいさな夜と子守歌

 ほぅほぅ。ほぅほぅ。

 こ鬼の家の庭にふくろうがやってきている

ようです。ふくろうはおおきな茶色のつばさ

でばさりと、おおいかぶさるように土におり

ました。こ鬼のみみがびくりとすると、ちゅ

うちゅうきいきいというさけびごえがきこえ

ました。

 こ鬼とフグリがはじめてけんかをした、お

おきな夜がやってきたのです。こ鬼は夜ごは

んを、いつもよりげんきよくさんばいもおか

わりしました。

 木の梢が窓をたたいて、まどべがかたかた

となっています。

 こ鬼はまたもや、みみをびくりとしました。

 よるの風がやってきているのでしょう。

 おやすみのじかんは、とんとんとかけあし

でやってきました。こ鬼はそのあいだ、にん

げんがでてくる絵本をなんどもよみかえして

いました。

 やがて、おかあさんとおとうさんがやって

きて、こ鬼の部屋でごうごうともえるおにゆ

りの花のかたちをしたランプをふきけすと、

こ鬼のベッドのそばのちいさなたんぽぽのか

たちをしたランプに火をともしました。

 「ぼうや、きょうもフグリちゃんのところ

にいっていたの」

 こ鬼はねむったふりをしました。鬼のおか

あさんは、「あら、もうねむっているわ」

おとうさんにいいながら「つかれているんだ

よきっと」そんな声がきこえました。鬼のお

かあさんはお布団をこ鬼のかたがしっかりか

くれるようにかぶせると、こ鬼の額にキスを

しました。

 「おとうさん、あの絵本よんで、おにの

こおにのこ」

 こ鬼はうとうとしながらいいました。「眠

れ、眠れ」鬼のおとうさんはやれやれという

顔をしながらつづきました。


 おそらに浮かぶは真っ赤ッか

 こ鬼「なにが、真っ赤ッか」

 とうさん「さあ、なんだろうね」


 月はかちかち歯をならし、

 こ鬼「なにをそんなに怖がった」

 とうさん「いや、寒かったのかもしれない

よ」


 こんこんわかでる、ちいさな泉

 ごほんごほんと、きつねがないた。

 こ鬼 「なにが、そんなに悲しかった」

 とうさん「いや、たぶん風邪をひかないように

しないといけないね」

 真っ赤なかおできつねがないた。

 こ鬼「やっぱり、きつねはないたんだ弱虫

だから。ぼくはなかないもの」

 とうさん「さあさあ」

 おにのこ、おにのこ、ねむレ、ねむレ

 おそらに浮かぶは真っ青ボタン

 「なにが青く浮かんだだろう。きっと」

 ちいさなおひさまてんてんついた

 まんまるてんで毬のよう「ちきゅうかも

しれない。青い青いちきゅう」

 ぼうでつついた。ちいさなねずみ
 
 こほん、こほんと、かぜをひいた

 「・・・」

 ねなさい、ねなさい

 お月のように

 「・・・」

 
 こ鬼はおとうさんにいつものように、たく

 さんしつもんをしながら、うとうととしてい

 きました。くらり、くらり、とおとうさんの

 顔がぼんやらしたりして、いつのまにか、お

とうさんの顔は輝く赤い月になっていました。

 そして、蒼く蒼くかがやく空の上にぼっか

りと、真っ赤な月が風船球のようにういてい

ました。おかあさんはにこにこしながらたん

ぽぽランプの火をふきけしました。そしてこ

鬼をおこさないように扉からそとにぱたんと

でていきました、ぱたぱたぱた、スリッ

パの音がとても遠くにきこえて、その音とと

もにとても真っ白いかがやく白い雲が波の飛

沫のようにこ鬼のまそらに広がっていました。

つづく


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