〈私〉時代のデモクラシー 宇野重規
〈私〉時代のデモクラシー価格:756円(税込、送料別)フランスの政治思想家、トクヴィルの考え方「平等化」を紹介しつつ、現代日本にあるべきデモクラシーの形を模索している。平等化はグローバルな規模で広がっているけれど、日本の場合、それまで個人を包み込んでいた業界などの中間集団が弱体化して、閉じた空間の外部にあるより大きな不平等が可視化してきたという。また、平等化が進むことで他者を自分の同類とみなすゆえに、自他の違いにますます敏感になってきているという現代。〈私〉のかけがえのなさにこだわると同時に、大勢のうちの一人でしかない自分の小ささを実感せざるをえないなかで、「個人主義」が否定的様相を呈してきたとか。社会的なシステムの問題も、個人の問題に転化され、リスクが個人の運命として受け止められがちになり、社会的行動には移らない。もちろんこれはデモクラシーが弱体化しているということ。政治の世界でも、〈私〉と〈公〉を無媒介に直結させる志向が政治家と有権者の両方にあるという。福祉の充実は求めて、でも消費税には反対。これが大多数の意見だと思うけれども、現在の困難を乗り越えるためにいかなる見通しを持ち、そのために何を耐えなければならないか、説得力をもって語ることばなしに政治の力が回復することはないと著者は言う。〈私〉の尊重がエゴイズムではなく他者の尊重へとつながること、自分が大切にされていると思うからこそ他者を尊重し社会を発展させていくのだと思えること、このような倫理的感覚の定着が心の習慣になってこそ、平等社会のモラルも可能になるとか。もうすぐ選挙。消費税のことばかりが取りざたされているけれど、ほかに論点は?参議院だし、イマイチ盛り上がりにも欠ける。しかし、「あるべき社会」について説得力のある言葉を聴きたいものです。本は他にも「なるほど…」と思う箇所がたくさん。久しぶりにちょっとオカタイ本を読んで楽しかったです。入試問題にも頻出の予感です。