madamkaseのトルコ行進曲

2017/04/29(土)14:25

「トルコ料理大全」

コーディネーターとして働く(72)

【4月22日・土曜日】  「トルコ料理大全」は、最初に企画された頃から、2年がかりで完成した本格的なトルコ料理のグラビア誌で、B5判 208ページ、東京麻布のトルコ料理店ブルガズアダのオーナーシェフ、メフメット・ディキメン氏の手になる100の料理とレシピが中心である。  そして去年の今頃、ライターの矢口晴美さんと、フォトグラファー蜂巣文香さんの女性コンビによる、郷土料理店の圧倒的に多いファーティヒ区、トルコ随一の繁華街を持つベイオール区、食材の野菜、肉、鶏、鮮魚、伝統的なトルコ・コーヒーの店の多いアジア側の繁華街カドゥキョイ区などにまたがる現地取材で、丹念に足で集めたトルコの魅力を満載している。  トルコの古今の文化や食事情などにも触れた「郷土料理コーナー」や「B級グルメ」、チーズやヨーグルトなど、トルコのお家芸的な乳製品の製造過程ルポや、トルコ・コーヒー、チャイなどに関するインサート記事も楽しく、愛蔵版としても実用版としても、あるいは1ページずつ眺めているだけでも楽しい料理本と言えそうだ。   B5判、207ページ、オールカラー、ソフトカバー付き、本文:日本語  現地取材をアテンドしたコーディネーターとしては、日本にもトルコ・ファンはたくさんいるのに、トルコ旅行をすることが危険とみなされて、ツアー・グループも個人旅行もほとんどない状態が長くなったのは、残念の極みと言うしかないが、こうした本を通じてトルコはいいところだったなあと、もう一度思い出してほしいと切に願っている。  昨年の3月、この仕事のアレンジをしているエージェンシーからオファーを受けた時、大まかなスケジュールを知らされた私は、スタッフのお2人の限られた滞在日数からすると、取材したい項目が物理的に多過ぎ、移動用のチャーター車は使わず、公共交通機関を利用して移動する、という必須条件がついていて、しかも事前調査のための日数が全然考慮されていない点で、「いくらなんでも到底無理」と言う代わりに、却ってやる気をあおられた。  こうした取材は、コーディネーターなりリサーチャーなりが事前調査に出て、来店の主旨を告げ、協力して貰えるかどうかを打診し、本番取材の時、気持ちよく取材させてくれそうな店を選び出すことから始まる。日本から記者とカメラマンが来る、と言っただけで大喜びしてくれるところがあるかと思えば、暖簾に胡坐をかいているかのように、けんもほろろに追い返されんばかりの目に遭うこともある。  いずれにしても取材者側の立場になって、短時間でいかに効率よく取材させて貰えるかを第一義に、次への移動に時間がかからないよう順番に回るために、地区を限定して同じ方面ごとにまとめられるようシュミレーションし、スタッフの来る10日前くらいからイスタンブール市内の3地区を選び、物理的にコーディネーター1人ではこなし切れないと判断した。  友人の美保子さんにヘルプを頼み、彼女も快く都合を付けてくれたので、2人態勢で、ファーティヒ区に住んでいる美保子さんと共に、リストアップした店々を訪ねて約束を取り付けて歩いたのだった。例えば、本番の時、写真を撮影している間に美保子さんに通訳として残って貰い、次なる店に私が先乗りして、取材の準備をお願いする、と言うようなやり方が必要だ。思った通り美保子さんがまた非常に気働きの出来る人なので、大いに助けられた。  さて、本文中の「家庭での食事」の3ペー分(p.36,37,38)は、イスタンブールの庶民的な一般家庭の朝食と夕食の様子を、家族ぐるみの古い友人アイシェ・アイテキンさんの家に事前調査のとき頼みに行き、本番では夫君のファイクさん、近所に住む娘・息子・嫁・孫達、下の階に住む隣人のおばあちゃんも加わってくれたので、昔ながらの丸い卓袱台を広げて、みんなが車座に料理を囲む光景は、この本にトルコの家庭の温かみと彩を添えている。  なお、アイシェさんと夫のファイクさんは、スルタンアフメットで長年、日本人バックパッカーの集まるペンションで、管理人として昼夜の別なく働き、その並びにあった古いビルを買い取って改築、マルマラ・ゲストハウスを開業、10年ほど前にはそこから少し南に下ったクムカプ地区に、新築のサルハン・ホテルを開業、この働き物の夫婦には日本人の友人も数多く、「若い頃、ずいぶんお世話になりましたよ」と懐かしく思い出す人々もたくさんいると思う。   アイシェさんの料理で卓袱台を囲む伝統的な家族の団欒。日本も昔、こうでした。   トルコのスタンダードな朝食の用意をするアイシェさん。いつも朗らか。   トルコの野菜は安くて新鮮、みずみずしい色が食欲をそそります。   フルン(パン屋さん)は、年中無休で頑張っています。トプハーネの有名なシミット屋さん。   骨董屋の街として知られたチュクルジュマ通りの光景。   人口1400万のイスタンブールには実に沢山の郷土料理店があります。   カテゴリーを区切る扉もお洒落なデザインです。   料理とレシピの著者 メフメット・ディキメン氏  トルコがこの取材の時期から既に1年経った今は、もっともっと経済不安や貧富の格差が広がり、緊迫するシリア情勢など、そして何度も何度もひどいテロやクーデター未遂などが勃発、無辜の市民や国境を守る兵士達に大変な数の殉職者を出している。そんな不幸な状況の中でも、多くの市民はそれぞれ節約の工夫をし、互いに助け合いながら日々を暮らしている。  この本からトルコの食文化や、街角の光景を通じて、いつの時代にも周囲の事情に負けず、トルコ国民は逞しく生きていることを、読む人々に汲み取っていただければ幸いである。  編集者の矢口晴美さんが出版元に交渉、取材に協力してくれたイスタンブールの店々に配るために、あと8冊送ってくれることになったので、それらの店に配って挨拶して歩くにも、これだけの本を持参出来るからには大いに張り合いがある。     madamkaseのトルコ本 「犬と三日月 イスタンブールの7年」(新宿書房) 「チュクルジュマ猫会」 海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店   アントニーナ・アウグスタ    

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