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カテゴリ:きのこ星雲圏 (俳句メモランダム)
個々の作品に関しては次回またこの続報として報告するが、マダラーノフが選んだ5句を中心に解説する。 小生の出句は 掬(すく)う掌(て)の形とどめよ春の水 草を抜く指ふと止まるすみれ草 地震(ない)走る列島いのちうつつにて 4点句 落椿パンドラの函動き初む 享 東北関東大震災を詠んだもので、パンドラの函が開かれたという把握に新しみはないが、こう云うほかないほどの悲惨な現実を前に自然と口を突いて出たという感があり、ボタっと不意をつくように花ごと落ち黒々とした地面に散り敷く椿のいさぎよい華麗さと相まって心打つ作品となっている。具体的なことは何ひとつ書かれてはいないが、何か取り返しのつかないようなとてつもなく大きな得体のしれないものがうごきだしたことが伝わってくる。 3点句 雨垂れの言い訳ゆるすほぐれ梅 タ―ラ― 上5中7の見事な表出が下5のほぐれで平凡になってしまった。連発する言い訳がほぐれと受けてしまってはただ事でしかなくなる。詩が生まれる瞬間まで緊張が持続できなかったことがせっかくの作品を中途半端なものにしてしまっている。しかし下5が決まればすごく素敵な作品になるので、諦めず完成させること。 2点句 カダフィーどうなるオオイヌフグリふみつけて 輝彦 マスメディアが列島弧の未曾有の惨劇に集中する間もアメリカはリビアに空爆をつづけており、世界はまさに狂気のるつぼと化しつつある。 パンジーをマイクロミリ単位に縮小したような微細で青い花をつける野草になぜか犬の睾丸にまだ大をつけた違和感を伴う和名の花を踏みつけたとき、天啓のようにカダフィーのことを思ったというのだ。時事的な内容を取り扱ってなお、季語との詩的連関が感じられる秀逸である。親父ギャグの天才の短詩デビュー作である。 1点句 父の背がわずかに縮む春の雪 タカ女 この句も、雨垂れの句同様、せっかくの絶妙の把握が下5での言葉の葛藤に耐えきれず安易に収めてしまった感がある。娘にとって厳格そのものの父があわれに見える日とは子が親を超えるときに共通の感慨である。その決定的な思いが春の雪では台無しになってしまう。とても素晴らしい作品になるので再考すべし。 さっきの雲がいまはない タ―ラ― 誤記によりさつき(陰暦5月、現行暦の6月頃)の雲が今はないというふうになっていたので、選句した。なにか皐月にまつわる出来事が失われてしまった喪失感を書き留めたものと感じたからだ。しかし、作者によれば「ついさっきあった雲が今はない」が原作品だと言うことで、それなら詩として自立したものではないので選しなかったと言った次第である。 この作品はモチーフだけのもので、ここから思索がはじまり詩神の宿る言葉が生まれるスタート地点の言葉たちで成り立っている。ここが終着点ではなくはじまりなのだ。 ぜひこのモチーフをふくらませて完成させてほしいものだ。 この夜、初顔あわせの汲(くみ)さんは初学にもかかわらずとてもセンスあふれる作品を持参して皆を驚かせていた。またタ―ラ―さんは、同じく初対面のSさんと話し合っている間にお父さんが彼にとてもお世話になったことが分かり実に奇遇だと語っていた。 !WANTED! レトロ襟巻き怪盗パンサり―ナ 涼子 は、当夜話題をさらった作品だが、パンサリ―ナはテングダケ(Amanita pantherina)のラテン名パンテリ―ナの米語読みのことだろう。しかし、この作品はきのこ好きにもなかなか通じないところがあり、句意はレトロな襟巻きを巻いたようなパンサ―・マッシュルーム!指名手配!(求む)くらいの意味だ。きのこを詠み込む場合は、そのきのこがどれほど一般に認知されているかを考慮にいれて作句するひつようがある。 続報で紹介する予定の「アミガサ模様」もきのこ好きの間なら好意的に解釈してアミガサ茸と理解するだろうが、一般的ではない。きのこを季語として再発見し、認知させることも私たち言葉を大切にするメンバーの課題であるので、これで懲りずに益々のご健吟のほど。 写真は能勢高代寺のアマニタ・パンテリ―ナの幼菌。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011年03月25日 22時22分10秒
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