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2013年11月02日
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        『詩的リズム』ー音数律に関するノートー 菅谷規矩雄 著 大和書房

 本書は、ユリイカに1972年~1975年の間に9回にわたり音数律に関するノートと副題して断続的に掲載されたものを改訂加筆したもので、1975年書店の棚に並ぶと同時にタイトルにひかれて買い求め、息せききって読みだしたのはよかったが、第一章の音数の定義づけに始まる詩的リズムの章で早くも挫折、お蔵入りになっていたものだ。

 このたび必要に迫られて繙いてみてびっくり、詩的リズムのほんの数ページを我慢すれば、吉本の「言語にとって美とはなにか」をベースにして、すべての詩人が避けてきた和語の韻律に正面から向き合い、前人未踏の境地を切り拓き、加えて、時代・社会の中で詩が生み出されるということはどういうことかについて、わが国の漢詩、和歌による成立時点より骨肉化されてきた和語の音数律の桎梏から近代自由詩、俳句、短歌がどのように抜きんでるかにもがき続けてきたその成立現場に深く降り立ち、考察を加えた画期的な書であることが判明、一晩で読み終えてしまった。もちろん、読みたてでその骨子が理解できただけにとどまり、これから幾度も立ち戻る必要のある書物のひとつではあるが・・・。

 僕は、ポップミュージックの世界にユーミンや中島みゆきが登場して以来、21世紀のこのかたまで、わが国に詩は失われて久しいと思ってきた。言葉、いや、言霊がこれほど先細りしてしまった時代というのはいまだかって経験したことがなく、ほとんどなすすべをしらない。

 そんな僕にとって、月に1度の<夜の顔不思議な俳句会>はとても貴重な経験となりつつある。リズムが2部構成とならざるをえない最少の音数値を示す俳句は、日本語というものの特殊性に気づくもっとも近道であり、定型という器に盛ればざれ言も詩語として取り扱うという約束は、元来詩に無縁である庶民が、世代や年齢差を超えてこだわりを持たず普段着のままに語り合え、ちょっと背伸びしていくための恰好のフレームだと考えている。

 もちろん、ここでやりとりされている作品は、おしなべて菅谷の見つめている詩性が既成の形式を破壊することでかろうじて成り立つ<詩>というものの宿命的な言語芸術からは隔絶したものではあるが、老若男女入り混じって、それぞれの持ち来たった断片作品を和気藹々と自由に罵倒し合い、時には共感したりしながら合評する中で、それぞれが、言葉にまつわる奇想天外な思い込みを正し、その言葉たちの本来持てる力に気づくためのかけがえのない時間となりはじめていることはとても貴重である。

 世の中には実にさまざまな職業があるが、言葉で時代の画期を拓く詩人という職業だけは誰にでもなれるものではない。しかし、買わなくては当たらない宝くじと同じで、常日頃から言葉にかかわる習慣を身につけていれば、大情況の変化の中である日突然、詩人としての蘇生を果たすかもしれないのである。1日5作品を自らに課している画伯はいうまでもなく、1ケ月5作品であっても作り続け言葉で考え続けることがなによりも肝要なのである。継続こそが僕たちにとって唯一の力であるのだから。

 今回の<夜の顔>では、冒頭の書<詩的リズム>に触発された課題を提出しておいた。

 癇癪玉ひとつで潰えさる平和8.15の線香花火 マダラ

   かんしゃくだまひとつでついえさるへいわはってんいちごのせんこうはなび

      ○○○●/ ○○○○/ ○○○●/○○○○/○○○○/   ●は無音の拍。

 6・7・5・8・7 33音の字余り短歌だが、等時拍にすれば無音の拍を入れて4拍子5小節の音に還元される。

 これは本来外国語のように強弱アクセントを持たない等時的拍音形式の日本語が中世から近世にかけて、口語音韻の中に定着した促音(ッ)と撥音(ン)とが日本語の拍=音を強弱律に近づける根源的な変化をもたらしたことに加えて、日本語の等時拍には無音の拍があり、それが言葉と言葉の間に見えざる間(ま)を生み出すことに成功した結果だ。この<間>こそが、わが国のあらゆる文化の根幹をなすものであるのは言うまでもない。

 これらの日本語に固有な音律の特色を念頭に置いて、あらためてわが国の古今の作品を見てみると、音楽でいうワルツ形式の3拍子の詩はまず、全くといってよいほど見出すことができない。これも本書では、明治になって西洋音楽を移入した際に音符に言葉を対応させる過程で逆照射された和語に関するもっとも新鮮な発見だったという。菅谷によれば、近代詩人たちの中では、中原中也がもっとも詩作の際に3拍子を意識した詩人だとし、独自の韻律を生み出した詩人としては宮沢賢治をあげ詳細に解読している。

 そこで、課題としてワルツの3拍でつづる17音、24音、31音のいずれでも良いから短詩を作ってみてくださいと二次会の席でお願いした次第である。

 この伝でいけば、きのこポエムと総称される未来の17音の俳句、31音の短歌、24音のきのこポエム(仮称)と、よりどりみどりの詩形で表出する当会のポエムは、いずれの定型のフレームからも自由になり2ビート、4ビート、8ビートポエムなどなど、ビート数で詩形を決定する可能性がみえてきたことになる。

 さて、新たな展開は可能か?!。いよいよ僕の中では何かが音をたててころがりはじめた。記紀にちりばめられた古代初期歌謡にはじまり、室町期における七七七七型、中世から近世にかけての七七七五型などさまざまな小唄、和歌、俳諧、和讃、ご詠歌などの律歌を従来と異なる視点で再検討しなければならない。

 しかし、詩形としての考察は以上で足るが、詩因・詩情の問題はまた別の問題である。短詩で重要なファクターを成す季語、詩語と作家の詩精神のかかわりを検討すべく三好達治などの四季派の詩人たちを筆頭に近代詩作品をも俎上にのせる必要がありそうだ。 






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最終更新日  2013年11月03日 00時49分15秒
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