2年前の「ギャラリズム」大阪でアーティストでもあるこの画廊オーナーの存在感ある大作に出会った時からずっと気になっていた。
私がつまらぬ病で娑婆から遠ざかっていた時には田中佐弥さんがここで個展を開いたことで益々その思いは募っていたが、今回、菌類(きのこ)をはじめ、すべての生き物の生命をはぐくむ森をこよなく愛する京都芸大大学院研究科・漆工専攻在籍中の矢作玲乃亜さんの個展デビューを知り、取るものもとりあえず駆けつけてきた。
チャワンタケ
私にとっては孫の世代に当たる玲乃亜さんの作品は、漆工芸という縄文以来日本で独自の発展を遂げ今も深化しつづけている<漆>という不思議極まりない樹液を用いて見事、現代アートの世界に楔を打ち込んだまことに将来が楽しみな作家デビューだと思った。彼女の持てる才能をいち早く見出して個展開催にまで持ち込んだことは、なにはさておき現代アートの世界に触手を張り巡らせてきたKUNST画廊オーナー・岡本光博さんのお手柄である。
漆でこれだけの作品を作り上げるためには莫大な時間と精神の集中が必要で、華奢そのものに見える玲乃亜さんのどこにそんな粘り強い意志がひそんでいるのかじっくり伺いたかったが次々と訪れる客人に悪いのでお互い自己紹介のみ交わし後は個々の作品の語りを傾聴することに没頭して会場を後にした。
漆は時の風化をはねかえし、永劫の時の流れの中で美しさを保つことは古代遺跡の埋蔵文化財が次々と証明してきた。漆の被膜で保護された素材は、ある意味 鉄や岩石をもはるかにしのぐ生命力をもつという。
「森の装い」 3点
私にとって近年稀なすごい作家との出会いが今年に入って数件立て続けに訪れている。死に損なったおかげで今年はまれにみるスリリングな年となりそうである。
「夜に煌めく」
ヒトヨタケに代表される「夜に煌めく」4点のきのこアイコンが並ぶと聞いていたが、ふたをあけてみるとそろそろ孟宗の竹林に顔をのぞかせるキヌガサタケをはじめとする「森の装い」3点、クロラッパタケやベニタケやテングタケも勢ぞろいしていた。奥のコーナーには"月のしずく"を宿したかのような蓮の葉の大作やウツボカズラも並び漆工芸ならではの固有の輝きと造形美で画廊を満たしていた。
久々のうれしい個展であった。