raskiのマジックとミステリの部屋

2022/07/30(土)07:24

福家警部補の挨拶

ミステリ(177)

私は結構「倒叙」のミステリが好きです。倒叙とは、犯人と犯行が先に描かれてその後で謎解きがなされていくタイプのミステリです。犯人が気づかなかったミスは何か、犯人と探偵役のやり取りの緊迫、犯人の心情・・・などが見どころになるミステリです。 古くは、シャーロック・ホームズのライヴァルたちの一人として名高いソーンダイク博士シリーズがあります。犯人が残した痕跡を科学調査によって暴いていくスタイルです。 歌う白骨【電子書籍】[ オースチン・フリーマン ] ソーンダイクシリーズは倒叙の長編もありますが、こちらは短編で気軽に読めます。 ​ その倒叙の系譜は21世紀に至るまで続いていくのですが、今日紹介する「福家警部補の挨拶」もその系譜に連なる名作の1つです。 この作品は、ドラマで有名な「刑事コロンボ」の後継者と位置づけられるようです。コロンボといえばあのキャラクターと色々な職業の犯人とそれに関連する犯罪が特徴的です。 本作でも、図書館の管理者、大学の先生、酒造会社の社長などバラエティに富んだ犯人が登場します。事件の舞台ももちろんそれぞれの職業に関連する場所と内容なので、短編ごとに色々な世界をのぞけるという楽しみもあります。犯行の手がかりや動機なども職業世界としっかりと結びついています。その職業ゆえにできたこと、その職業ゆえに残ってしまった手がかりなど、1話1話にそれぞれの世界が詰まっています。 コロンボの場合も服装や台詞回しに個性がありますが、この福家警部補も、よく調査時に警部補だと認識されなかったり、バッジをなくしていたりというコミカルな特徴があります。 なお、本作品はトリックに凝ったものではないと思います。やりとりや手がかりなど倒叙の本流が見どころです。 本作の中で私のおすすめは「月の雫」。タイトルもさることながら、犯行場面が映像のように記憶に残ります。 ​福家警部補の挨拶 (創元推理文庫) [ 大倉崇裕 ]​福家警部補の挨拶【電子書籍】[ 大倉崇裕 ]

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