hoshroのブログ

西日本新聞の拙稿

西日本新聞４月１日付朝刊の拙稿今回は落とし物がドラマの発生源。一般に、故意にターゲットに落とし物を拾わせて関係性を図ったりする（古典的、男にハンカチを拾わせる）。掲句では落とし物をいったん隠匿、後日返却に押しかけるというスゴ技（盗品を返すのとどこが違う？）　拾ったものを善意で返しに来たという主張を崩すのがハードル高い。そういう仁にロジックは無力で、何をしでかすかわからない怖さもある。まぁ、領収書の改竄とかが普通に通ってしまう政界も似たようなものか・・山村暮鳥流にいうと、強盗金魚！　こりゃ、日本列島もひっくり返る（アルマジロそっくり！）※今回は掲載紙の配達遅れでゲラを掲載しました。

西日本新聞の拙稿

西日本新聞３月４日朝刊の拙稿普通、俳句から聞こえる音はせいぜい一つ。蛙がぽちゃん、蝉がミ～ン、荒海がザザー・・、音の聞こえない句だってゴマンとある（無理して想像するまでもなく）。なのにこの句から聞こえてくる音の多さと言ったら・・・！すべての単語が音源を指している。ほぼどんちゃん騒ぎ。それに映像のカットバックが折り重なって、ミラーボールきらめくディスコ状態（古）！　時空の旅人・賢治はきっとこの光景を幻視しただろう。（そういえばトラボルタ（古）って名前、なんかイーハトーヴっぽくね？）

西日本新聞の拙稿

西日本新聞２月５日付朝刊の拙稿石井洋二郎『フランス的思考』（中公新書）によれば、ランボーはリセの教師宛のいわゆる「見者の手紙」で、”je pense”（私は考える）の替わりに”on me pense”（homme penseのシャレでなく！　人が私を考える→人が私の脳を使って考える？）という文法違反をあえて犯したと。デカルト的な主体である自分が自由に考えるというのはマチガイで、実は世の中（世論、オピニオンリーダー諸々）の影響の下、「未知なるものの訪れにみずからを明け渡す」中での創作に作者を名乗るのってどうよ…、みたいなことか？　といっても、自分の思考が外からの信号に動かされているわけでなく、単にそう意識しているだけだから “中導体”というほどでもなさそう……なかなか微妙なところだ。この一つの発展形としてブルトン発案の自動書記があるんだとか。拙稿は連想を追いかけたらうっかりこうなったケースと、着地点の見当をつけてから始めるケースが混ざっている。自動ないし半自動だが、連想や解釈の仕方にはいつものクセが出まくる。なので文体だけはせめて無色透明にしたい、と。ロラン・バルトによれば、カミュの『異邦人』がひとつの理想形（（零度のエクリチュール＝文体の不在？）らしい。

本当は怖いオランダ静物画

ベイエレンの「豪華な食卓」はなぜ怖いのか？オランダが歴史上一番輝いていた（かもしれない）17世紀。富裕層の邸宅の壁は画家たちの風俗画で飾られた。これはそんな食材の写実表現で一世を風靡したアブラハム・ベイエレンの「豪華な食卓」のひとつだ。「金銀の器、果物、磁器、海老、蠣などが、サテンや繻子（注：サテンと繻子は同一）のテーブルクロスの上で確かな質感ときらめくような色彩、そして秀でた構成力で描かれている。」（篠田達美、建畠哲＊『騒々しい静物たち』新潮社より）宗教上の戒めとしての「ヴァニタス」（虚栄）の寓意など、どっかに吹っ飛びそうだ。一番映えるアングルからの構成だから、右上に盛られた果物（モモ、ブドウ）はすべて正面視点（キュビスムを先駆？！）で描かれているし、その下、重量感たっぷりのブドウの房は宙に浮いている。左右上と中央下のかじられたモモは、中央の銀器の根元にうずくまったネズミ（ヴァニタスの警告か、アリバイか？）のしわざか？　中央下部のテーブルクロスの膨らみに惑わされるが、よく見るとその上のトレイはテーブルから半分近くはみ出している。よって上の銀器はいつ墜落してもおかしくない。オレンジの皮を剥いだのは海老のしわざか？　その横の懐中時計は完全に重心を失っている。これが共和国オランダの凋落を予示しているなら、海老は来たるべき大英帝国か…してみると、この豪華な食卓を輝かしているのは、一瞬後に「ガッシャーン」と大音響とともに崩壊する直前の危うい美しさに違いない（モンス・デジデリオの倒壊のまっ最中より、ある意味怖い）。＊僕の好きな詩「テラス異聞」（『そのハミングをしも』思潮社所収）の作者は美術評論家でもあった。

新年のごあいさつ

西日本新聞の拙稿

西日本新聞12月18日付朝刊の拙稿またもデジタル社会に対する僕の違和感（悪意？）が出てしまった。「“デジタル革命”は、ほぼ確実に、おそらく今世紀中に自滅します」（ティム・インゴルド『応答、しつづけよ』亜紀書房）なんて楽観（悲観？）してないし、「デジタル化は、記録された歴史のアーカイヴをかつてない速さで破壊しつづけています。」（同）に至っては理解不能だけど・・・。もしかしてお掃除好きなAIが歴史のアーカイヴに混沌しか見ないとしたら、隅々まできれいさっぱりとしてしまう可能性はある（おそらく数秒の出来事）。出来心で情報処理技術者試験（アセンブラが易しかった）を受験した昔が懐かしい・・・

西日本新聞の拙稿

西日本新聞11月0日付朝刊の拙稿年中頭巾をかぶった茄子顔、瘦身で驚くほどの健脚―そんな芭蕉へのあてつけか、肥満体をぶつけてきた。くわえて毎晩月を仰いで句作に精出す・・・蕉門へのあてつけにしては余りに安直だ。それが去年の夏以来、一句残さず僕にはるかな連想の旅を許してくれた驚異の独吟者とあっては・・・なのでやっぱり自虐ネタととるのが妥当だろう。

久々にツァラ詩を堪能

わが難解三号の大いなる嘆き唄　　　　トリスタン・ツァラ　　　　　　入澤康夫訳 われらの家では振子時計の花々が発火し、羽根たちは光をとじ　こめる。遠い硫黄の朝、雌牛どもが塩の百合を舐める。 息子よ息子よ地下鉄よりも　天文学よりも　もっと青い世界の色彩の中を　あいもかわらず　ぶらつくとしようわれらは　瘦せ過ぎているわれらは　口を持たぬわれらの脚は　硬直し　ぶつかり合うわれらの顔は　無力なる晶質の点々　星々のごとく形状を持たず　焼けこげの火　狂気のバジリカ会堂：ジグザグは軋み電話コードを齧る　液化するアーチよじ登る天体のメモワールその二重の果実を経て　北方へなま肉のごとく飢　火　血 朝カルで「フランス詩の世界」（講師：吉田加南子学習院大学名誉教授）を１回だけ受講した。そこで出会ったのがツァラの上の詩（やっぱりツァラはいい！）。吉田先生によると、訳者がチンプンカンプンのまま訳したんだとか。なので訳がヘンだ。ここは「我が暗さ３のスゴイ哀歌」とでも。で、この詩が難解って・・・ツァラにしては分かりやすくないか？　なによりイメージがキラキラしてる。俳句的な飛躍とスピード感が心地よい。ブルトンの詩も紹介されたが、こっちは短歌的なくどさ（散文詩だからしょうがない？）と直喩の多さ、イメージのくすみ加減（一つだけ挙げれば「隠蔽された予感が建物の階段を降りる」プッ）が鈍重な牛（ブル豚？）のようだ（対するツァラは敏捷なウサギか）。中身をおおざっぱに言えば、歴史の歯車が回って第一次大戦が始まった。動員された息子たちの行軍、そこを火炎が襲う（早！「われらの顔は　無力なる晶質の点々　星々のごとく」のなんたる凄絶さ！）。一方、宗教界は右往左往。前線と指令部の間で過酷な命令をめぐって交わされる通話（前線将校の悲鳴）。地上の栄光と天の認知、北方の敵に向かって、戦場のリアリズム。ブルトンの「羊皮紙状態の愛」は写すのもかったるい。こっちは休戦が訪れても大戦前のベルエポックの名残のような（これが羊皮紙か？）世は来ず、「灰色のグレーハウンド」（グレーがダブってるし）のような監視の目がうようよする管理社会になっちゃった・・・みたいな詩のようだ。

西日本新聞の拙稿

西日本新聞１０月６日付朝刊の拙稿引用した３句の作者は新聞もテレビも見ない生活を送っていて、ジャニーズ問題は全く知らないらしい。若い頃、芸能人も出入りするスナックを経営していて、ダンサーの世界を知っているとか（「麻」の編集長の話）。昔は少年への性暴力なんか当たり前すぎて、誰も気にしなかっただけか。芭蕉からして若い頃、近衆（男色の相手込み）をやっていたし、老いてからは弟子の杜国を溺愛。にしてもショーペンハウアー『哲学入門』（角川文庫）は1954年刊、20年で40版！　こういう良書が角川文庫から消えて久しい。

西日本新聞の拙稿

西日本新聞９月18日付朝刊の拙稿うっかり芭蕉と星布の句を比べてしまいました。山里育ちと平野育ちの感覚のちがいが大きくはないでしょうか？突然ですが、ユーミンの名曲「中央ハイウェイ」の「・・この道はまるで滑走路、夜空に続く」というフレーズ、天地を逆にすればそのまんま星布です！（ご両人とも実家は八王子の呉服屋）ユーミンはドライブの疾走感が魅力ですが、星布も流れる天の川を追って地平線にむかって移動中です（芭蕉は固まってます）。星布とユーミンの言葉の対照表を八王子出身の女性俳人に作ってもらい、来年のユーミンの古希記念コンサート（八王子市主催）にあわせて発表する・・・そんな妄想が湧きます。切れ字「や」にはモノを瞬間凍結するする作用があるような気がしてならない。「夏草や兵どもが夢のあと」・・風にざわざわと昔語りする夏草が、一瞬ドライフラワー化すると言ったら言い過ぎか？　ストップモーションの荒海は無音で天の川も動かない（星布の心は天の川に向かって疾走する）。詠嘆のあまり意識をいくぶんか飛ばす。ひとつの解決法ー－古池よ蛙飛び込む水の音。気のせいか、茫然の一瞬が消えて意識が前に出る。　どっちにしろ、点取俳諧は妄想の発火源（拙稿は散文による俳諧＝連想ゲーム、蕉風では絶対ムリ）。

市川沙央『ハンチバック』ネタばれ注意

話題の芥川賞受賞作、市川沙央『ハンチバック』をkindleで読んだ。出だしから枕絵もどきの描写が暴走する話にちょっと腰が引けた（ウェルベック『素粒子』＆蓮見重彦『伯爵夫人』も真っ青！）けど、すぐに馴れた（笑）。業界語（ナニ業界？）頻出で意味不明なところが多々あったが、割とあっけない結末だった。作者はSFも書くそうでSF的な趣向を感じた。エピローグの風俗嬢の殺人事件を起こした兄はメインストーリーの田中さん（介護士）で、その世界の釈華さん（主人公）は死んじゃったわけ（自殺かも）。メインとエピローグをつなぐエゼキエル書からの引用は、聖者に扮した作者の本音か？　１億５千５百万円で田中さんを買おうとした釈華さんの目論見は見事はずされた。下の世話を他人まかせの隣人の境地に届かない釈華さんに、胎児をおろす夢の実現は所詮ムリだった。最後に健常者への生まれ変わりのような風俗嬢。ここは一番、輪廻の輪を破って欲しかったが・・・（せめてSMクラブの女王様とかに）。島田雅彦が激賞・・・ふ～ん。それから一人称小説なんだけど書きっぷりが三人称的。なので私小説にならない（つっこまれると困るけど）。漱石「坊ちゃん」の末裔？（つっこまれると増々困る）あっ、オートフィクションという便利な言葉があったよ！

西日本新聞の拙稿

西日本新聞８月21日付朝刊の拙稿僕が奥間埜乃さんの詩を知ったのは、新聞の新鋭詩人の作品コーナーでだった。普通はスルーするところ、たまたま読んだ。不思議な詩で二三度読んだら、酸の染みた筆でなでられたように感じた。僕の貧しい詩体験の中でも初めてだったんで、これはもう買うしかないと（図書館にもアマゾンの中古にも無かったんで、久々に新刊を買う）。まずタイトルがたまらない。宇宙が誕生する瞬間をこんなに詩的に表現した詩人って、かつてあっただろうか？　こんなにゆさぶられた詩も、ちょっと記憶にない。挙げるとすれば、谷川俊太郎の『よしなしうた』か。昭和の歴史が根底から詩的に批判されていた（これに気がついてないらしい現代詩花椿賞の選考委員にはアキレた。しょっぱな谷川さんは、土管頭には分からないだろうと見切っていたようだけど）。にしても、僕のコラムはひとつの見かたに過ぎない。

1907年、マティスはピカソより凄かった！

なぜ、マティス「豪奢１」はピカソ「アヴィニョンの娘たち」より凄いのか？今週限りの「マティス展」を観に、上野に行った。駅周辺は大変な混雑ぶり。都美は入場制限で午後１時待ちの行列に並ぶ。マティスはもういいと思いつつも見納めのつもりだった。センスの良さは抜群だけど、特に妄想に誘われたりはしない。まぁ、それだけの絵と思っていた。ショップでカタログを買った（新刊を買うの久しぶり。岡﨑乾二郎の論考を読みたくて）。3,300円分の借りをきっちり返して（？）もらわねば腹の虫がおさまらない。で、スゴイ発見をした（と思う）。昔からファブリの画集でお馴染みの「豪奢１」。ピカソの「アヴィニョンの娘たち」と奇しくも同じ1907年の作。アヴィニョンは20世紀絵画を開いた記念碑とされるが、僕はマティスの方が思想的に断然アヴァンギャルドだと気づいた。カタログ解説に「効果は強烈だが、意味はわからない。花束を捧げ持つ侍女とともに浜辺に佇む巨人のごときヴィーナスは、いったい何をしているのだろうか？」とあるが、しょうがないねえ。巨人女の足もとにうずくまるブロンド女こそ、ヴィーナスだ。それを傲然と見下ろす娼婦、花束を持って駆けつける女・・・とくれば、これはもうマネ「オランピア」のパロディ。じゃあ、ヴィーナスは何してるかって？　これが娼婦の脱ぎ捨てた下着をお洗濯、じゃなく。娼婦がまさに産み落としつつある赤子（新芸術）を取り上げようとしてる。そこにヴィーナスの侍女がおくるみの赤子を抱いて駆けつける（走っているのに時間は進んだ）。あ～、そういうことだったのか……！なぜ赤子を花束に替えたのか？　意味が明らかになって非難ごうごうを怖れたか？　まぁ、謎めかしくしておいた方が何かと良いと計算したんだろうけど。一方、20世紀絵画を開いたアヴィニョンは、伝統的な２体のヴィーナスにアフリカ彫刻にインスパイアされた３体が横並び－－平凡きわまる構図だけど、スキャンダラスで得をした（パッと見、完成度が高い。絵具がきちんと塗れてる）。この時、マティスの後塵を拝してピカソはどんなに悔しがったか？（とどのつまり、２０世紀美術史の書き替えにつながるよい買い物をしたってことで・・・！）

西日本新聞の拙稿

西日本新聞７月17日付朝刊の拙稿「和歌・俳句の運命はいづれの時にか窮まる」昔、子規は言葉の順列組み合わせは有限だから、明治の世にネタ切れになると予言した。正十七角形を円周上で無限に回すアナロジー（原点がユークリッド空間を無限移動！）で、反論してみた（なってない！）。それはさておき、年甲斐もなくガロア理論（ブーム？）を知りたくなって、代数学の教科書を漁ってみた。藤原松三郎『代数學』（昭和３年刊、フィールズ賞の森重文氏が絶賛）がやたら詳しいけど、ガロア理論までに優に千ページある（途中でヘタるのは必定）。やっぱり『代数系入門』『集合・位相入門』（松坂和夫、岩波書店）辺りでキホンのキからやるべきだろう。口直しは『抽象代数学』（秋月康夫、共立出版）・・で結局、藤原の代数がいちばん面白かったりする（認知症予防の特効薬・・笑）

チャットGPTは使える？使えない？

先日、ある会社の社史を作るんで２時間ほど役員にインタビューした。帰ってメモを見ながらざっとまとめ（ボイスレコーダーがOFF、忘れないうちに）、チャットGPTにブラッシュアップを頼んだところ・・・20秒ほどしてほぼそのまんま（体言止めに「ですます」がついた程度）返してきた？？で、僕の仕事には使えないなぁ、とつくづく思った次第。一方、「点取俳諧ってなあに」とチャットGPTに訊いてみたら、いともスムーズに聞いたことないゲームの解説が現れた？？一瞬、エッこんな意味もあったの・・と思ってしまった。知性の存在を錯覚させるに十分なまことしやかなウソのつきっぷりだった！これって、もしかしてカントのアプリオリな総合判断の反証だったり・・（笑）純粋直観と純粋カテゴリーを実装されたヒトが世界を見るとかいうカントが、コペルニクス的転回（地動説）って、どういうこと？　もろ天動説（天体は表象に過ぎないにしても）じゃない・・誰か知ってる人～

西日本新聞の拙稿

西日本新聞６月19日付朝刊の拙稿駕籠かきが女性客が予想外に重かったので男性かと疑う――ぱっと見ウソっぽい。駕籠かきは経験上、女性と男性の平均体重とばらつき具合を知っている（つもりでいる）。が大きく外れる場合があることだって、経験しているはずだ。ここにある別の要因、それは見た目だ（触覚情報と視覚情報の葛藤が生じた）。女性にしてはゴツかった……で情報の書き替えが始まった。こんな感覚の乱れは日常起こり得る。

西日本新聞の拙稿

西日本新聞５月15日付朝刊の拙稿パレイドリアといえば、僕も以前、大人になったキティちゃんがセクシーポーズを決めてる雲（！）を見たことがある。興味のある方は、どうぞこちらのインスタグラムへ――https://www.instagram.com/p/CFswPwzDoZD/

西日本新聞の拙稿

西日本新聞４月18日付朝刊の拙稿はじめノストラダムス級の予言詩じゃないかと思って、作者の予知能力を疑った。しかし、普通に新聞でオカルトを話題にしたくない（というかそれは禁じ手）。ふとある数学のアイデアを思いついた（ドンピシャ）。ChatGPTが逆立ちしても生成できないような文章（外形＋中身）を特に意識してないけど、一段と過激になってる？（笑）

西日本新聞の拙稿

西日本新聞３月20日付朝刊の拙稿今でこそ海は、領海とか排他的経済水域とかいろいろな線で区切られているが、昔は行き来自由だった。縄文人は南太平洋の島伝いに南米に渡ったようだし、17世紀には中南米に住み着いた日本人も結構いたらしい。倭人は本質的に海の民だった。因みに倭人が日本人になったのは7世紀（天武朝が倭から日本に国号を変更）。そもそも日本（日出づる処）は唐から見ての言い方だろう、とか当時から議論があって結論は出ないまま。読み方が定まらないのもそのせいか？　ともかく海、と限らず水の上は自由の圏だ。点取俳諧は言語の実験の最適地を見つけた。

国際政治に「ド・モルガンの定理」?！

昼のワイドショーを観てたら・・・キャノングローバル戦略研究所の伊藤弘太郎氏が、ベラルーシのルカシェンコが周近平との会談に先立って、「何を隠そう」プーチンとじっくり話しあったと語った事をもって、「分かりやすい人たちですねえ」と笑っていた。が、それこそルカシェンコの思うツボだったかもしれない。プーチンとの打合せをばか正直に公表することで、忠実な使者に甘んじるフリをしてみせた。もともと周近平から利益を引き出すつもりなのを、後でプーチンに地団駄を踏ませる（丸め込まれやがって・・）伏線にしたのかもしれない。実は、この事態は高校数学の「ド・モルガンの定理」（なつかし～）で解けてしまう。A∩（B∪C）＝（A∩B）∪（A∩C）　　　　※∩∪演算が×＋と同じく「分配的」であることを示す。ここで、A:周近平、B＝プーチン、C＝ルカシェンコ　と置いてみると・・・周近平はスラブ二国を各個撃破し、グレーターチャイナの影響下におく腹なのか？追記・・・ド・モルガンの定理が面白いのは、記号を入れ替えても成り立つこと。ただしその場合、役者が変わる。A∪（B∩C）＝（A∪B）∩（A∪C）Ａ：ゼレンスキー、B･C: 米国およびNATO諸国

西日本新聞の拙稿

西日本新聞２月20日付朝刊の拙稿芭蕉の一番弟子といえば、まっ先に去来だろう。が関西で医師をやっていた去来が入門したのは、其角よりずっと遅れる。其角も医師の父親の勧めで俳句をはじめ、医師の道は放棄した（古来、なぜか医師と俳句は相性がいい。忙中閑ありにぴったり？）。和漢の豊富な知識をバックにした難解句の一方で、小唄のネタになったりするしゃれた都会派の句も多い。その其角が芭蕉の追善興行で高らかに（裏返ったに違いない）披露したオキテ破りの超絶句とは・・・？

小説連載の始まり

『麻』誌に拙作を連載小説の１回目が『麻』１月号（ほぼ二月遅れ）に載った。長編になりそうなのでムリと思ってたけど・・。松浦編集長、ありがとう！「俳算交友記」、なんのこっちゃ？　点取俳諧師と寺子屋師匠のコンビが数々の謎（事件）に挑む,みたいな。そこで謎解きに使われるのが数学、みたいな？！　推理モノとしてはそんなに珍しくないだろうけど、点取俳諧からネタを拾ってくるっていうのが、古今未曾有の珍事（笑）。編集後記に「和算を踏まえた展開になりそうなので、楽しみ。」と。でも和算は知らないんで、普通に数学する（ザンネン）。たまたま半世紀前の古本、ジャック・ブートルー『ベクトルと行列』（クセジュ文庫）を読んでいたら、面白い証明法を見つけ、とたんに謎解きに応用したくなった。数式を出すなんて野暮はせず、すべて言葉でイメージを表現できないか？　そんなことが可能か？　前途にびっしり濃霧。でも連載は大いに励みだ。お尻に鞭！（笑）

しろうと園芸

仕事場のオール百均の観葉植物。真ん中のサンスベリアは熱帯乾燥地帯の産。なので冬場は月一回の水やりでいいんだと。（あちゃ～、毎日やってたよ・・・よく枯れなかった）小さなポットで売ってたのがここまで育った。水やりと、気が向いたらダース100円の液体肥料。勝手に育ったというか・・・植え替えにも根鉢をほぐすなんて面倒はやらず、そのままガポッと（笑）。それが証拠に左端（名前知らない）は根鉢の分だけモッコリ（大笑）。

賢治の文字マンダラ

桐谷征一『宮沢賢治と文字マンダラの世界ー心象スケッチを絵解きする』コールサック社）を恵与された。熱烈な法華経信者だった賢治は、作品の中でも宗教観をさまざまに変奏したが、これは日蓮創案による文字マンダラで賢治作品を解読しようという文芸史上初の試みらしい。『春と修羅』の序が文字マンダラできれいに解けるという。宗教には不案内だが、今回新しい（以前も書いたが忘れた）解釈の可能性に賭けてみよう。出だしは前回同様、物活論（ヘッケルを過激にした？）。最近、植物に感情があるとか、意識があるとかいう話を聞く。石ころにも萌芽的な意識があるという人までいる。山川草木悉皆成仏との相性はいい。意識の源は分からないから、「ひかりはたもち、その（有機交流電燈の）電燈は失はれ」。キモは「新生代沖積世」以下の後段。記紀神話込みの皇国史観を笑い飛ばしたふうにしか読めない。それも「いつもの賢治らしい茶目っ気」で、完膚なきまで！　そもそも肇国のあゆみに対して、新生代沖積世とはなんだ！　無礼もいい加減にしろ！だろう。「正しくうつされた筈のこれらのことばが（略）はやくもその組立や質を変じ」とは、賢治が記紀神話を勝手に改変しようと企み、なおかつ「わたくしも印刷業者もそれを変わらない感ずることは傾向としてはあり得ます」、とまあしゃあしゃあと言ってのけた。そのうえ「記録や歴史、あるひは地史といふものもそれのいろいろの論料（データ）といつしよに（略）われわれが感じてゐるのにすぎません」ときた。記紀の文字も単なる入れ替え可能なデータだと！　ここは記録・歴史・地史を変数として、これにデータを代入する手続きのことを言ってる、としか思えない（一体どこでこんなプログラミング用語を覚えたんだ？！）「二千年ぐらゐ前には青空いつぱいの無色な孔雀が居たと思ひ」金鵄、白鳥、八咫烏をひとまとめ。こりゃ、特高刑事の手には負えないにしても、思想検事にぎゅうぎゅう絞られておかしくない事態だ。賢治は恐怖に戦きながらも、「白亜紀砂岩の層面」にわが大和民族の「巨大な足跡を発見するかもしれません」から、とか細い声で抗弁しただろうか？

西日本新聞の拙稿

西日本新聞１月16日付朝刊の拙稿いろいろある失語症の中でも掲載文はウェルニッケ失語だろうか？支離滅裂な表現の例（ヤーコブソンの著書に）として載ったようだが、写生句では描けない世界をうまく表現していると思う。AI一茶くんにもこういうのは作れないに違いない（仏国にはヴィクトル・ユゴーまがいの詩を書くAIが現れたそうだ）。俳諧（連句）もそうだけど、共同制作や障害者アートにAIは逆立ちしても追いつけない（多分）。道なき道を進むカメの歩みにアキレスは途方にくれるばかりだろう・・・勢いあまって崖から落ちるか？（笑）

西日本新聞の拙稿

西日本新聞12月５日朝刊の拙稿歌川広重、ランボー、チャールズ・シュルツ、ベートーヴェン…、点取俳諧は森羅万象をヒモづける試みだ――と言ったらその主語はお前だろう（笑）読み手の解釈あってのテクストだが、如何せん、僕のキャパを遥かに遠く超える ^^;　なので、同志諸兄姉よ、この指とまれ！

西日本新聞の拙稿

西日本新聞11月７日付朝刊の拙稿引用した世阿弥は異化効果（ブレヒトより500年早い！）の一種だろうか？「大失敗！　以下の文章は来月の拙稿用に書いたものでした！」ランボー「見者の手紙」で有名な「私は一個の他者だ」は、「銅が眼を覚ましてラッパになっているのに気づいても銅の落ち度じゃない。」と続く。自分を銅にたとえ、ある朝目覚めたら（威勢のいい詩人）ラッパになっていた？！　これを歌川広重の雨の大橋にたとえると、大量の雨粒が地上付近で醸し出す大騒ぎ―雨の落下音、人々のわめき声、下駄の音、番傘の音、橋の音―に大変身。ランボーの時代、欧米列強による植民地争奪のまっさかりで幕末ニッポンも危かった（Ｎスペによると、ビスマルクは奥羽越列藩同盟への軍事援助と引き替えに蝦夷地の99年間租借を策していたと！）。未開国の銅山（有線の銅需要が増大）ぶんどりに進軍ラッパを鳴らす（銅線の先っちょで声が喇叭になったらそれはそれで面白い）みたいな世界情勢が、詩人の無意識に作用したのか？……とまぁ、こういうのがレクチュールの愉しみで、詩人のエクリチュールとはまるで関係ない。にしても、見者が詩人の専売特許であるはずがない。広重も、ベートーヴェンも、チャールズ・シュルツも、みんな見者だ。

「麻」誌にショートショートが掲載

今年はじめの拙稿（ショートショート）が『麻』１０月号（ひと月遅れ）についに掲載された。松浦編集長、ありがとう！　編集長が連載中の「芭蕉革命－芭蕉キリシタン類族説への道」も238回を迎えて絶好調。

西日本新聞の拙稿

西日本新聞10月3日付朝刊の拙稿柄にもなく新古今を引用してしまった（笑）。歌集を読んだわけではなく、日夏耿之介が随筆で褒めているのを見つけて「使える！」と。これは東北被災地で詠まれてもおかしくない…。月、夜と来ればロマン派だろうと、柄にもなくノヴァーリスを拾い読みしたら、星空にさえ毒づく闇への賛歌だった。先鋭化した近代的自我が遠く自我以前の中世に憧れる、こういう思い入れのすれ違いは珍しくない（伝統崇拝の根っこ）。ノヴァーリスが恋人ゾフィーへの賛仰を国家への愛と同一視したかはともかく…恋人への贈物と租税を同一視したのは確か（国家を神棚から恋人と同一平面に引き下ろしたのは、さすが）。しかし、ゾフィーがその贈物をこっそり質屋で換金する可能性までは見通せていなかったようだ^^;　租税もいったんロンダリング（事前の。通常は事後）されると、その後は年一回の会計検査（領収書のいらない官邸〇〇費とかで超一流ホテルでの朝食が日課だった首相（存命）もいた）にひるむことなく、適切、真摯、丁寧に使うことができる・・・。ここでお月見を元首相の国葬に見立てるとすれば、風流人の地主が誰か?は言わなくてもいい。Uncharacteristic as I am, I quoted Shin-Kokin (lol). I didn't read the collection of poems, but found what Konosuke Hinatsu praised in his essay, I thoght "I can use it!" It wouldn't be strange if this was written in the Tohoku disaster area. Coming to the moon and night, it smells romantic, then I browsed through Novalis uncharacteristically. It was a hymn to the darkness that poisons even the starry sky. The radicalized modern ego longs for the before-the-ego Middle Ages. This kind of misunderstanding is anywhere (the root of tradition worship).Whether or not Novalis equated the adoration of his sweetheart Sophie with the love of his state (that's another story) It is certain that he equated the gift to his sweetheart with taxes.　（As expected, fabulous is it that the nation was pulled down from the altar to the same plane as the sweetheart.） However, he didn't seem to have foreseen the possibility that Sophie would secretly redeem that gift at a pawn shop. Once taxes are laundered (prior to the fact, usually after the fact), after that, annual accounting inspections (the prime minister (living) who used to have breakfast at a top-notch hotel as a daily routine, such as the official residence fee that does not require a receipt) You can use it appropriately, sincerely, and politely without being daunted by the fact that it was used. If we liken the moon-viewing to the state funeral of the former prime minister, we will not say who the elegant landlord is.

妄想フェルメール３

フェルメールが故郷の町を描いた『デルフト眺望』。プルーストの『失われた時を求めて』には「世界で最も美しい風景画」とあるらしい。が、僕は特に好きな絵ではない。美しい風景画なら他にいっぱいある。活気のなかに一抹の哀感が漂うカナレットの方がずっと好ましい。デルフトには港の活気が皆無。海上貿易から取り残され、衰退まっしぐらの港にしか見えない。そもそも対岸の建築の水の反映像（陽は厚い雲に隠れてる。影じゃない）が、こっちの岸に届くほど狭い（ヨットハーバーか？）。手前の二人の女性がデカすぎるし（３メートル近い？）、その横の後から描き足したらしい２本のポールが意味不明だ。船のともづなを結わえる鉄の固まり（ボラード。石原裕次郎の足をのせた決めポーズのアイテム。ほんとの船乗りはしない）にしては、背が高すぎる。不細工にひろがる雲に青空もかすれ気味だ。とまあ、どこを取ってみても中途半端な絵と思っていた。……と言ってしまうと、かすかに引っかかるものがある。それは何かと思ってよくよく見ると－－ホリゾンタルが曖昧なことに気がついた。対岸の建築に何本かある横線のどれかだが、どうも左からつづく塀の上辺らしい。それがやや下がって橋の手すりにつながり、やや上がって右の建物の屋根の下の線につながる。実景をそのまま描いたらこうなった、と言ってしまえばそれまでだが、このホリゾンタルのゆれ加減がこの絵に不安定感（生動感？）を与え、その解決を求めているとしたら？　これって、もしかして福岡伸一の十八番「動的平衡」ってやつ？　やけに長くて黒く塗りつぶされた反映像－－本当はこんなに長くないんじゃないか？　そもそも水に映るはずがない遠くの塔まで映ってる。にしても反映像じゃ、いかにも頼りない。そこで再度、二人組の大女にお出まし願う。直立して向かい合い、およそ世間話には不似合いな二人。もしかして、この絵の不安定感（動的平衡）をビス止めする重要な役どころではないだろうか？　ついでにその横の例の２本のポールも、映るはずのない塔の反映像を両側から挟んでいる。……なんだか、この絵が好きになりかけてる（笑）。“The View of Delft”, Vermeer's painting of his home town is said to be "the most beautiful landscape painting in the world" in Proust's “In Search of Lost Time”. But it's not my favorite painting. There are many other beautiful landscape paintings. I much prefer Canaletto, which has a touch of pathos in its liveliness. Delft lacks the liveliness of a port. Left behind by maritime trade, it now looks nothing more than a declining port. In the first place, the mirror image of the water of the architecture on the opposite bank (the sun is hidden behind thick clouds, so it is not a shadow) is so narrow that it reaches this bank. The two women in the foreground are too big (nearly 3m?), and the two poles that seem to have been added behind them make no sense. It's too tall for a piece of iron (a bollard. Yujiro Ishihara used to put his feet on it, but real sailors don't). The clouds spread ugly, and the blue sky seemed to fade. Well, no matter where you take it, I thought it was a half-baked picture. When I say it, there is something that is slightly caught. When I wondered what it was and looked closely, I noticed that the horizontal was ambiguous in this painting. It's one of several horizontal lines in the building on the opposite bank, but it seems to be the top of the wall that continues from the left. It goes down a little and connects to the railing of the bridge, and goes up a little and connects to the line under the roof of the building on the right. If the painter were to say that the actual scenery would have been drawn as it is, that would be enough, but is this horizontal sway giving this painting a sense of instability (a sense of animation?), and was it looking for a solution? Could this be Shinichi Fukuoka's big favorite "dynamic equilibrium"? A remarkably long blacked-out reflection--Isn't it really that long? You can see the distant tower that shouldn't be reflected in the water in the first place. Even so, mirror images are unreliable. So, once again, I ask the two big women to come out. The two of them stood upright and faced each other, and were generally unsuitable for small talk. Could it be that it plays an important role in fixing the sense of instability (dynamic equilibrium) in this painting? By the way, the two poles next to it gently sandwiched the reflection of the tower that should not have been reflected. … Somehow, I'm starting to like this picture (lol).前回の横倒しの意味がわからない（笑）

妄想フェルメール２

福岡伸一『フェルメール光の王国』（木楽舎）から、『手紙を書く女と召使』を新解釈してみた。本の先を読むと、アイルランド国立美術館のキュレーターの解説が載っていた……読まずに勝手書いたわけ。オランダ絵画専攻のワイパー氏に聞こう。・・・当時のオランダ絵画におけるメイドは、怠け者、好色、意地悪だが、彼女らがいないと日々の生活が立ちいかない厄介な存在だった。ところが、この作品のメイドはそのどれでもなく、「わざと意味のとれないものとして描いた」「思うように手紙が書けない女主人を心の中で見下して、超然としているようにさえ見える。意図的に意味をそらせつつ意味ありげな謎を紡いでみせる。」・・・マジか～。謎は謎のまま、そっとしておこうということらしい。フェルメールは謎のベールの向こうに隠れ続ける－－。『真珠の耳飾りの少女』は超有名だが、数年後に描かれた『少女』を僕は初めて見た。アングルはほぼ同じだが、こっちの方が圧倒的に強い。「いずれも肖像画ではなく不特定の人物を空想して描いたものとされている。（略）この少女はひかえめながら、ずっと不思議な印象を与える。」と著者はそっけない。真珠の耳飾りはともかく、こっちは空想ではとても描けないだろう。まっすぐ迫って来る目力はイノセンスその物（ルソーならBon sauvage!と狂喜したろう）。ある種の気高さすら漂っている（これに匹敵するのは、ピエロ・デラ・フランチェスカのキリストといったら言い過ぎか？）。－－ひょっとして、この少女はダウン症ではないだろうか？　もしそうなら、絵画史上、空前節後だ。ベラスケスは宮廷の侏儒を描いたし、ブリューゲルは身体障害者のグループを描いたが、比べるべくもない。ダウン症の少女の無垢さを描ききったフェルメールはこれだけでも凄いが、約８年後に成長した少女の美しさを再び描いた。『ヴァージナルの前に座る女』がそれだ（有名な同題のもうひとつの絵は、センスのいい風俗画）。ロンドン・ナショナルギャラリーのキュレーター、ヴィーゼマン氏の解説を聞こう。・・・彼女の表情は意図的に無表情に、ミステリアスに描かれている。背後の壁の画中画には売春婦（顔の造作を省略）が描かれ、全体で「愛の両義性を示して、そのことに何も気づかない若い女性の危うさを描いている。そのため女性の表情はことさら曖昧なのだ」マジか～。フェルメールはそんな教訓のために描いたということらしい。ある意味、この作品はティツィアーノの『聖愛と俗愛』に匹敵する。あっちはもっぱら風景の美しさで主題に対する感動は薄い（というか、無い）が、こっちには圧倒的に人間的な感動がある。A new interpretation of "The Woman Writing a Letter and Her Servant" from Shinichi Fukuoka's "Vermeer's Kingdom of Light" (Kirakusha). When I read the book, there was a commentary by the curator of the National Gallery of Ireland... I wrote it without reading it.According to Wiper, a Dutch painting major,…The maids in Dutch painting at the time were lazy, lascivious and mean, but they were troublesome beings without whom daily life would not be possible. However, the maid in this work is neither of those. I will try to weave a meaningful mystery while diverting the meaning.”Are you serious? It seems that the mystery will remain a mystery and that it will be left alone. Vermeer continues to hide behind a mysterious veil. "Girl with a Pearl Earring" is very famous, but I saw "Girl" drawn a few years later for the first time. The angle is almost the same, but this one is overwhelmingly stronger. The author bluntly states, "They are not portraits, but rather fantasies of an unspecified person. (Omitted) This girl, though modest, gives a much more mysterious impression."Leaving aside the pearl earring, I can't really imagine this one in my imagination. The staring eyes are pure innocence (Rousseau would have been ecstatic with "Bon sauvage!"). There's even a certain nobility in the air (Isn't it an exaggeration to say that Piero della Francesca's Christ is comparable to this?). --Maybe this girl has Down Syndrome? If so, it will be unprecedented in the history of painting. Velázquez painted court cadets, and Bruegel painted a group of handicapped people, nothing compares. Vermeer's depiction of the innocence of a girl with Down's syndrome is amazing in itself, but about eight years later, Vermeer again depicts the beauty of a girl who has grown up. It is "Woman Sitting at a Virginal" (another famous painting with the same title is a tasteful genre painting).Listen to Wiesemann, Curator of the National Gallery, London.…Her expression is intentionally rendered expressionless and mysterious. The picture-within-a-picture on the back wall shows a prostitute (her facial features omitted), and the overall picture is “showing the ambiguity of love and depicting the danger of a young woman who is unaware of it. That's why women's facial expressions are particularly ambiguous.”Are you serious? It seems that Vermeer drew it for such a lesson. In some ways, this work is comparable to Titian's “Sacred and Profane Love”. There is only the beauty of the scenery and little (or no) emotion about the subject, but here there is an overwhelming human emotion.何度やっても横倒し。どうなっとるん？

妄想フェルメール１

『手紙を書く女と召使』の一解釈福岡伸一のフェルメール絵画をめぐる探訪記（ANA機内誌に連載。欧州美術館への旅費込み企画か、ウラヤマシ～）。僕はフェルメールは特に好きなわけでなく、絵画エッセ－の参考になるかと思った。『手紙を書く女と召使』について、「熱心に手紙をしたためる女主人と、一見、無関心な様子で窓の外を眺めるメイド。フェルメールはこの絵でも、意味ありげな謎を紡いでみせている。」と。分かりづらいが手前の床には「にぎりつぶされたような便箋と封蝋」が落ちている。まっ先にヘンなのは、女主人の手紙を覗ける位置にメイドがいることだ。女主人のプライバシーが危すぎる。外を眺めてにやついてるメイドも怪しすぎる。では、順々に謎を解いていこう。にぎりつぶされた便箋には、何が書いてあったのか？　その間の事情がこの絵からうかがい知れない所にあるとしたら、取りつくシマがなくなる。ヒントはこの絵の中にあるはずだ。女主人の熱心さにひきかえ、メイドの横目のにやけぶり（薄く口を開けてすら）がなんともちぐはぐ。このメイド、精勤からはほど遠い。女主人は業を煮やしている。働き者だとうまく乗せられた自分に腹が立つ……にぎりつぶされた便箋が、契約内容の反古を暗示する。メイド紹介所にクレームの手紙（損害賠償とまでは言わないが、給料は大幅減額ないしタダ）、これは真剣にならざるを得ない。すると、それを覗ける位置にメイドがいるわけない。よって、女主人とメイドは異なった時間にいる！最後に残ったのは、メイドの正体。怠け者だったで済む話だろうか？　それだけならここまで大事に至らなかったのではないか？　怠惰なメイドにイライラする女主人はいくらでもいそうだし。メイドのにやけがヒントになりそうだ。横目は色目と言うべき、薄くあいた口は今にも男を誘うイブ家伝家の宝刀（ヘンケン注意）。でもって、女主人の真面目一徹の下男を堕落させた……これは怠惰の許容範囲をはるかに超えた犯罪だ！紹介所に謝罪と応分の賠償をさせなければ、到底腹が収まらない……フェルメールの一見静謐をよそおった絵画に、こんな凄いドラマが隠れていたとは…！ An exploratory report on Vermeer's paintings by Shinichi Fukuoka (serialized in ANA's in-flight magazine. Planning to include travel expenses to European museums, maybe). I don't particularly like Vermeer, so I thought it would be a good reference for my painting essay.About "Woman Writing a Letter and Her Servant", "The mistress who writes a letter eagerly and the maid who looks indifferently looking out the window. In this painting too, Vermeer weaves a meaningful mystery." It's hard to see, but on the floor in the foreground, there is a piece of 'scratched letter paper and sealing wax'.The first strange thing is that the maid is in a position where she can see the mistress's letter. The mistress's privacy is too dangerous. The maid who looks out and smiles is too suspicious. Let's solve the mystery step by step.What was written on the torn notepaper?　If the situation during that time is in a place where you can't see it from this picture, there will be nothing approachable. The hint should be in this picture.In contrast to the hostess's earnestness, her maid's sideways smile is disjointed.This maid is far from diligent. The landlady gets irritated. I’m a fool for believing the words that she is a hard worker.The crumpled letter paper suggests that the contents of the contract are antiquated. Writing a letter of complaint to the maid agency (I can't say it's compensation for damages, but her salary should be drastically reduced or free), she can't help but be serious about this.Then, there is no way that the maid is in a position where she can look into it. That is, the mistress and the maid are at different times!The last thing left was the true identity of the maid. Could she just be lazy? "If that's all it was, wouldn't it have been such a big deal?" "There seems to be a lot of mistresses who are irritated by lazy maids."Her maid's smile might give us a hint. Her sideways eyes should be said to be seductive, and her slightly open mouth is the last resort of Eve daughters (beware of prejudice!) ready to seduce a man. And so, she corrupted the serious, stubborn manservant of the mistress,This must be a crime far beyond the limits of laziness!

西日本新聞の拙稿

西日本新聞９月５日付朝刊の拙稿歌仙四句目は脳化社会をあてこすったか、真偽はともかくEテレの健康番組で取り上げてくれると面白いかな（笑）。岩田宏がなつかしい。僕が現代詩の面白さを知ったのは、岩田の詩からだ（白石かずこも）。教科書に載ってたような近代詩には興味なくて、ただ翻訳詩には好きなのがあった。中二の教科書の巻頭にあった数編の詩（なぜか学年始めの国語は詩の鑑賞から始まった。ウォーミングアップか？）、ゲーテ（イタリア紀行中の作）とデーメル（森鴎外訳）が良かったね。もう一人いたけど思い出せない。思い出しついでに、小二の秋の曇天の寒い日に教科書で出会った、北原白秋の「お月夜」（とんとんとんあけてください/どなたです/わたしゃ木の葉よ/とんことり・・・）も良かったね。もっと長いと思っていたが、検索したら三つ目に「月のかげです」、チャンチャン♪　ときに、あれはポーの「大鴉」をパクった？（笑）

西日本新聞の拙稿

西日本新聞８月１日付朝刊の拙稿発句、脇、第三と三回続けての鑑賞。発句がシュールすぎ、脇がそれにつられた。第三はその落とし前ではないが、テレビの前説よろしく前二句の作句状況について自己言及！するという、なんともトリッキーな遊び。談林の心付は遂にここまで進化したか？！一方、芭蕉没年の句「松すぎをほめてや風のかほる音」（「ピーター・J・マクミランの詩歌翻遊」7月24日付朝日朝刊）。のどかな田園詩で、この気分になごんだらもう何も言うことないと思っていたら…。詠んだ場所が定家ゆかりの寺で、定家へのリスペクトが味わいを一段と深くするらしい（せっかくいい感じだったのに、雑音にしか聞こえない）。知や理を低評価、振り返らずにひたすら前へ進んで36句の余情でまったり（？）を信条とする蕉門俳諧と点取俳諧の決定的な違いは、たとえばこんな――

西日本新聞の拙稿

西日本新聞７月４日付朝刊の拙稿拙コラムのキャッチコピーを思いついた。「切り張り脱線ゲーム」。その昔、「底ぬけ脱線ゲーム」というバラエティ番組があった（見たことはない）。「切り張り連想ゲーム」でもいいけど、インパクトがいまいち。最後に一瞬だけ本線に戻ってくる感じを残したいんで、こうなった。

西日本新聞の拙稿

西日本新聞の拙稿６月６日付朝刊の拙稿木漏れ日を皮膚病に例えるとは……ヤバすぎる。作者がこの句で社会との相関をどこまで意識していたかは不明、しかしまるっきり意識の外というのもムリじゃないか？

西日本新聞の拙稿

西日本新聞５月２日付朝刊の拙稿２週間経ったのに掲載紙が届かない。しかたないのでゲラ（校正跡マーク付き）を載せることに――。習近平政府が南シナ海全域に引いた「九段線」は、山形有朋の利益線と主権性の合体版っぽい。中国は”日帝”のニューバージョン？　（プーチンも同じ轍を踏んでるし……“共産圏”はどうなってる？）それにしてもこの句はスゴイ。お隣のネコのフン害、庭木のはみ出し問題から国際紛争、貿易戦争まで、あらゆるモメゴトの解決手段として武力（経済制裁含む）をツツシメと。今すぐニューヨークに飛び、国連本部の正面に掲げたくなる。聖書の黄金律は平時の倫理だが、有事にはこの句がベスト対応ではないか？人類の至宝・・・至福のひととき（笑）。

ショートショートが俳誌に載った

僕が客員同人（いまだに意味がよく分からない…）の俳句結社誌『麻』４月号に、去年暮れに書いたショートショート（編集長は散文詩というけど）を載せて頂いた。けっこう前の文章なのでどうでもよくなってる。読むのはちょっと赤面（笑）。

西日本新聞の拙稿

西日本新聞４月４日付朝刊の拙稿実は、前回の句を選んだ時から次回はロシアをネタにとばく然と考えてはいた。まさかこんなことがホントに起こるなんて……で、ウクライナ侵攻が始まって３日目、じっとしていられず一気に書いた。当時『サラエボ旅行案内』（たまたま読んでいた多木浩二の『戦争論』の教示）は手元になく（アマゾンはベラボー値）、世田谷・目黒区の図書館にもなく、杉並図書館で見つけてさっそく予約した（杉並図書館は読書人のゴクラクね）。一句まるごとメタファーは初めて! が現実は、SNSはウグイスどころか、サイバー戦の真っ只中でファクトとフェイス、ホントとウソのごった煮だ。そう言えば、『ゾウの時間　ネズミの時間』は去年夏、引っ越し作業で出てきたむか～しの本（30年前の新書ベストセラー）。読んでなかった（笑）

西日本新聞の拙稿

西日本新聞３月７日付朝刊の拙稿芸人コンビが慰問で田舎に行く。強者かつ優越者の目あきがボケてめしいにイジラれてこそ、世界のバランスは保たれる（多分）。しかし今世界では、前者が後者を滅茶苦茶にするのが普通になっている。少なくとも自由主義には後者の抵抗を認める度量があるはずだが、専制主義はそれを認めず踏みつぶしにくる。

西日本新聞の拙稿

西日本新聞２月７日付朝刊の拙稿巷で点取俳諧が人々を熱狂させていた頃、和算も二分する（？）人気を博していたらしい。ならば両方でブイブイ言わせていた数寄者も居ったろう。こんな句が生まれたって、ちっとも不思議はニャイ（笑）

西日本新聞の拙稿

西日本新聞12月20日付朝刊の拙稿ワンダ・ガアグの『100まんびきのねこ』がスゴい！「一番になりたい」という思いの前では、内なる道徳律（カント）とかも吹っ飛んでしまいそうだ。ヒトも動物的生命の限界は超えられないか？　それを超える唯一の方法が推論する力と想像力。そんなわけで、次回（来年２月第一月曜…あっ皆さん、よいお年を！）はポントリャーギン（旧ソ連産、世界的盲目の数学者）が登場する。点取俳諧と数学が一体どこでどうつながるか、は読んでのお楽しみ。乞うご期待！

西日本新聞の拙稿

西日本新聞11月16日朝刊の拙稿ユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』にはAIのアルゴリズムに支配される未来が予告されている。ヒトを凌駕するAIの知能は意識をそなえた効率の悪いヒトを抹殺するのに躊躇しないという－－がそれは先の話。もっか環境や戦争が焦眉の問題だ。これに真っ向から取り組んだのが、来月登場予定のワンダ・ガアグ『１００まんびきのねこ』だった！始めから終わりまでおばあさんの指図で動くおじいさんが最後に自慢したことは‥‥‥ドン・ファン（爆）。フェミニズムの観点からも面白い（絵本がバカにできない！）

ショートショート「ヒヤシンス」

※橋閒石「銀河系のとある酒場のヒヤシンス」――橋閒石「銀河系のとある酒場のヒヤシンス」から先刻から付点音符のような廻り方をしていた天井のファンが、二三度小さな咳をして止まった。外から熱い湿った風がカーテンをなでて入ってくる。そこで冷やされるはずもないが、斎木亨には額の汗が乾いていくが感じられる。窓の桟をかすめた影は界隈のボス猫か。彼をすげなくふりつづける雌猫か。尻尾のふり具合からは雌猫のようだが、ボス猫が影響された可能性も無くはない。かすかに花が匂う。斜行する陽の中で踊っている塵の群れは、その匂いを感じているだろうか――葛城映子は今日も来ないだろう。普段ならこの時間はフラメンコの教室で踊っているはずだった。大地の女神と対話するかのようにシューズを響かせて。風の神を奮い起こすかのように衣装を翻らせて――斎木はある事件がきっかけで惑星開発公団を免職になって以来、不動産ブローカーを看板に掲げていた。危ない橋をいくつも渡ったが、故郷の惑星にもどってくると必ず映子の店に行くことにしていた。店には舞踊や音楽関係、批評家、詩人といった常連が多く、素人が行っても話を合わせるのは難しかった。「えっ、まだ×〇▽を読んでないの？」横合いから聞こえた言葉に斎木は面喰ったことがある。自分に向けられた言葉ではなかったはずだ。映子はといえば、その手の話を上手にあしらう術を心得ていた。酒場のママというより母親的な存在として、天涯孤独に育った斎木には偶像に近づいた。半年ほど辺境の星を経めぐってこの惑星にもどってきた斎木は、あまりに閑散とした街の様子に言葉を失った。疫病の流行ということだった。何はさておき映子の店に行くと、扉に臨時休業の紙が張られていた。真新しい。家で踊りの練習や好きな絵を描いたりして過ごしているんだろうか？　斎木はこの時ほど映子に会わずにはいられない気持ちになった事はなかった。生きているのが不思議な今こそ、ただその顔を見、声を聴く事だけを望んだ。映子が入院し、しかも重篤らしいという噂が伝わってきた。斎木は映子の店の扉を目の端に入れつつ、中庭のすがれた花壇のまわりを行ったり来たりした。そこへ門柱を倒して一台の小型ユンボが乗り込んできた。アームを伸ばして映子の店に襲いかかる気配だ。気がついたら斎木はユンボの前に仁王立ち。何をバカやってんだ、という心の声を圧しつぶして身体が勝手に動いた。そこをどきなさい。これは当社の担保物件である――長いアームが斎木の脳天に打ち下ろされる寸前、まばゆい光と共にそれは消えた。斎木はすごい風圧と共に店の中に転げ込む。ガラスを失った窓のカーテンの影から覗くと、左右から男女が紙を掲げて対峙していた。権利書の正当性を争っているのか。贋作は消えねばならない、という両者から発せられた音声が空中で衝突し火球が膨らむ――辺りがしんとなった。天井のファンが鈍い音を発してゆっくり回り始めた。斎木は一瞬カウンターの向こうに映子の姿を認めたような気がした。一緒に常連たちの話し声のざわめきも。夏の午後３時――開店にはまだ間があった。塵の群れが日射しの中で踊っている。花の匂い？　いったいどこから……ああ……こんな所に……ピアノの上、楽譜の重しのようにしてヒヤシンスの花瓶が光を弾き返していた。フラメンコ衣装の襞飾りの間からのように――

長編ファンタジー（400枚）のイントロ

断崖（キャニオン）ホテル　　　　　　　　　　　　心に喜楽（たのしみ）あれば顔色よろこばし、心に憂苦（うれひ）あれば気ふさぐ哲者（さときもの）のこころは知識をたづね、愚なる者の口は愚を食（くら）ふ艱難者（なやめるもの）の日はことごとく悪しく、心の懽（よろこ）べる者は恒に酒宴（さかもり）にあり　　　　　　　　　　「旧約聖書・箴言　第十五章十三～十五」 前口上私の前にあるひとつの画像――稚拙なタッチの描きこみが細部まで無数にある。斜め上方から見下ろしたホテルラウンジの向こう、渓谷の先に大地が画布（キャンバス）の上縁近くまでつづく。手前と右奥の円形の白いテーブルに、男女が一組ずつ坐っている。手前のテーブルのその前――画布の下縁近くに男の子と女の子がいる。ここでは空間構成として当然あるべき窓枠も天井も省かれている。ラウンジの手摺の向こうには一階分低くテラスが広がる。咲きほこる薔薇園が渓谷に向かってゆるく起伏する。その渓谷だが、大地の巨大な割れ目としか思えない。テラスから突き出した岬状の先端に円形の白いテーブルと椅子が数脚。そこで一人の男が、大時代の航海士よろしく六分儀らしき物で太陽を探っている。その古色を帯びた佇まいが、向かいの断崖の赤茶色の濡れた縞模様とよく馴染む。この断崖を中景とすれば、その先の荒野が画布の半分近くを占める後景だ。そして上縁直下の帯状体に青い海、青い空と輝く白い雲――では、そろそろ物語を始めよう。  第一章 断崖ホテル 「ほら、またあの人たちが来てるよ」男の子の指さす先のテーブルで、一組の男女が向かい合っていた。テーブルの上に大きな紙を広げて何やら熱心に話し込んでいる。男はもしゃもしゃ頭にポケットがいっぱいついた麻のジャケットを着、一見冒険家風。なめらかな顔の線ととがった鼻のコンビが切れ者の印象を与える。女は険のある二重の大きな目、うなじで切りそろえた髪の下から強情そうな首が覗く。夏らしい淡いベージュのパンツスーツだ。手前のテーブルには、モスグリーンに花柄を浮かべたワンピースに華やいだ目鼻立ちの三十代半ばの女。半白の髪をオールバックにした、ずんぐりタイプの四十代後半の男と話している。二人の間には、二種類のケーキを真ん中で――イチゴもプラムもきれいに真っ二つに――切り分けた皿とコーヒーカップがある。女は男の子の母親、二十代の頃主演した映画で賞を取ったこともあるが、上背のせいか本人の性格か、役柄が片寄りがちとなった。やがて出演依頼も間遠となり、もっぱらの関心事は息子の教育となった。男の子は絨毯の上に輪回しに使う棒の先で三角形や円をなぞり、それを二、三歳年下の小学校にあがりたてらしい女の子が見ている。女の子はずんぐり男の姪である。「あいつら、きっと武器商人だよ、星羅（せいら）――僕、ちょっとのぞいて来てやろうかな」棒の先の動きを一点に止め、女の子を見上げて言った。「あぶないよ、祁明（けみん）――おとなしく幾何の問題を解いてなさい」祁明は星羅の持っているゴム鞠（まり）を取り上げると、件の男女のテーブルの方へ転がした。鞠は途中のテーブルの脇を次々にすり抜けていく。祁明は鞠の後を小走りに追い、一番遠くのテーブルの脚で止まっているのを拾い上げると、大事そうに抱えて戻ってきた。「ふたりが見てたの何だか、当ててごらん」「うーん、なんだろう……設計図、違う？……大きそうだから地図みたいのかなあ」「当たり！　どこか外国の地図、ますますくさいぞ。きっとそこで戦争が起きるんだ」日を浴びる広大なパノラマを一望させるラウンジ――これはあるホテルの夏の午後の景である。裏庭のテラスの先で渓谷に向かって花壇が起伏する。白、赤、黄、緑、紫のパッチワークが大地の端に幾重にも張りついて波打つ。主体は薔薇だが、ところどころにノウゼンカズラが混ざる。花壇の端は渓谷へまっ逆様だ。緩衝域がなく裂け目がいきなり来る。覗きたい気分を一瞬で萎えさせる途方もない深さ。花壇の花たちは、そんな事はとんと知らぬ気に咲きほこる。太陽は南中を過ぎたばかり、見え隠れする遊歩道に人影はない。渓谷に突き出した小さな岬に向かって一本の遊歩道が伸びる。その先端の緑に縁取られた平面に、白い円形テーブルと椅子が数脚。そこは正対する彼方の絶壁を眺められる特上席だ。しかし、数歩先に削ぎ落ちる裂け目を想像したら、くつろぐ気も一瞬で消え失せる。いかなる大渓谷でもその底には一筋の川が流れているものだ。それが世界の理だが、ここでは渓谷の底にもう一つの別の大地が仮想され、剰（あまつさ）えひとつやふたつの街と大勢の人間の生活があっても不思議でないとされる。そんなはるかな下方で日を浴びる芥子粒世界の事は、いまは忘れよう。われわれの世界の事だけでも散々悩ませられ手に余るのだから――ラウンジからのぞむ花壇と渓谷と彼方の絶壁が織り上げる遠近法。想像をはるかに超える距離があるはずだが、異常なまでの鮮明さがすべてを白日の下に曝す。呆れたことに絶壁の中途に突き出したテラスにも建築群が見える。絶壁の割れ目が天井の高い隧道（トンネル）をなし、その奥にあるらしい街のにぎわいを漏れ出させる。魁偉な容貌めいた岩肌を数条の滝が滑り落ち、飛沫が白くけむる。驚くべきは、絶壁の上にも大地が果てもなく広がっていることだ。これは惑星の割れ目ではないのか。太古に巨人族の鏃（やじり）のような氷塊が突き刺さり、それが溶けた後の残骸なのか。その向うの荒野にひとたび目が奪われると、戻る方途を失って目は宙をさまよう。大地に幾重にものたくる集合住宅。荒地と砂漠の混合地帯に見える巨大湖――それともどこかで海とつながる入江だろうか？そのあちこちに街が点在するはずだが、光あふれる広がりに眩んだ目にはもう見分けがつかない（その遠さは、実際、視覚の限界をはるかに超える）。最後に合流するのはコバルトブルーの帯である海と空―― ホテル裏側のこんな展開の後で表に廻ってみると、そこにはどんな驚きが待っているだろうか。正面（ファサード）の平凡さには拍子抜けがする。期待でふくらんだ風船（バルーン）があっけなく萎む。子細に見るほどにこのホテル、何階建てなのかすら判然としない。窓の並び方からして不自然で、下から順に数えると場所によって五階建てのようにも、六階建てのようにも、ことによると八階建てのようにも見えてしまうのは、一体どうしたわけだろう。一部にバロック装飾――と言うもおこがましい――の片鱗がうかがえる。壁面には窓を避けて奇妙な格好をした三つの女性像柱（カリアティード）の高浮彫（ハイレリーフ）が、はたきを持って掃除でも始めるのか――理解に苦しむ趣味だが、施主の好みに迎合させられた設計者の苦渋の痕跡かもしれない。ホテルの両翼まで森が迫ってちょうどよい目隠しになっているとはいえ、この表と裏の落差、乖離、ずれっぷりには眩暈（めまい）がする。

西日本新聞の拙稿

西日本新聞10月18日の拙稿古来、茶会が陰謀家の好餌だったかどうかは知らない。もしそうだったとすれば、茶室に入る前からそれは始まったに違いない。目くばせ、こよりでのやりとり、咳払い…と、作為に満ちていた（ったく油断もスキもありゃしない…）。いざ、茶室に入ったらそこは謀略の巷。遅効性の毒の実験場と化す……さて、来月はウォルポールの『オトラント城』を呼んでくる。なんでまたゴシック小説の元祖？　ほぼ同時代だし、啓蒙の世紀の非合理好みがぴったし。呪いの言葉が21世紀にまっすぐ刺さってくる。その呪いとは……乞うご期待！

吊るし鉢落下！

事務所の植物。夜間は床に降ろしておく（100円のゴミ箱がぴったりサイズ）。朝来てまっさきに吊るす。その瞬間、多分フックに架かった気になって手を離したんだろう。大音響……で気がついたら絨毯の上にたっぷり水をやった土をぶちまけていた。真下の机まで８０ｃｍ、そこから床まで７０cm。やっちゃいましたね……５秒ぐらい固まった。それからせっせとお片付け、１時間半ほどでなんとか戻った。湿った絨毯にドライヤーをかけまくったけど、完全には乾かない。アイビーの株は買ってきたポットの形のままだったのが、完全に砕けたおかげで左右に振り分けたいい形になった。鉢の汚れは園芸ビギナーの経験値の証し（絵描きさんのエプロンみたいもの？）。逆境をバネに少し賢くなった気がしなくもない（笑）。

書庫の珍客

殺風景な書庫のコーナーに飾り棚を付けたが、殺風景なままだった。昨日、珍客が来てちょこんと棚に腰かけると、「僕の居場所が見つかったよ」と言った。とりあえずそのままにしておいた。

西日本新聞の拙稿

西日本新聞９月20日付朝刊の拙稿『評伝 福田赳夫』（岩波書店）が売れているらしい。僕が読んだのは本人の『回顧九十年』（岩波書店）。なんと旧福田邸跡は僕の事務所とは環七をはさんでほぼ目と鼻の先。小さなコインランドリーのあるくねくねした細い道の先の大層な敷地に三階建て高級マンション（たぶん等価交換の）が建つ。来月はシュティフターのお出まし。20代の頃、中央公論「世界の文学」でケラーの長編とシュティフターの「石さまざま」の全編が入ってたのを読んだが、いつのまにか書棚に消えた。のちに岩波文庫で買ってまた読んだが、これも消えた。三冊目も見えなくなり、今回、引っ越しの段ボールを徐々に開け始めて、二冊目が現れたのでまた読んだ、そして新しい発見をした。今まではポーのいわゆる「効果」や「トーン」を味わっていただけだった。「美の観照」には違いないが、重大なモチーフを読み落としていたようだ（作者もそこまでは意識していなかった？）。なので来月原稿にはそれを書いた（送稿済み、早！）。

世田谷・田舎時間