まひまひのひつまぶし                       ~フラメンコも踊るIDDM~

2005/02/02(水)11:34

グリコ ~水風船の中のグリコ~

ペットとの思い出(17)

グリコのフルネームは、「エムエヌ・ハイクリス・ゲンマ・グリコ」と言う。 別に由緒正しいドイツ人という訳でもなく、グリコは普通の牛だ。 そういえば私のプロフィールは「猫と牛とフラメンコが好きな20代」だった。 この一貫性のない好みを説明する為にも今日はグリコの事を書こう。 私が通っていた高校は家畜・小動物・魚類・爬虫類等、大抵の種類が揃った動物学校だ。 獣医や試験場等で働く事を夢見る生徒が集まってくる。私もその一人だった。 私は気のやさしい牛に何だかとても好感を持っており、小さい頃から牧場が大好きだった。 アルプスの少女ハイジのビデオをどれだけ繰り返し見た事か。(あれはヤギだけどね) そんな訳で私の専攻は乳牛だった。学校には常に乳牛が10頭弱、育成牛が2~3頭、 子牛が1~2頭揃っていた。3年生になると一人1頭の担当をさせてもらえるのだが、 1年生だった私は特別に1頭をあてがってもらえた。当時の私はそれだけ勉強熱心だったのだ。 その牛はクリスと言った。フルネームは「エムエヌ・ベルガール・ハイス・クリス」。 この名前には意味がちゃーんと含まれている。例えばクリスの「エムエム」は 学校のイニシャルが含まれており、「ベルガール」は「ベルガール牧場からやってきた」 という意味があり、「ハイス」も何か意味があるのだがもう忘れた。 ちなみにグリコでいえば「エムエヌ(学校名のイニシャル)ハイクリス(クリスの名前から取った) ゲンマ(父名)グリコ(可愛いから付けた)」という具合だ。 クリスは妊婦だった。と言っても乳牛のほとんどは妊婦だ。生んだらすぐにまた 人工授精をされるからだ。牛は子を産まないと乳が出ない。人間と同じだ。 クリスの予定日が近づいてきた。牛の出産は腐る程見たが、クリスが初めての経験だった。 牛の出産は夜中か朝方が多い。本能が人気のいない時間帯を選ぶのだろう。 通学に2時間以上かかる私は、クリスの出産を見届ける為に毎朝始発電車に乗った。 始発は4:45くらいだった。ライブハウスの多い街なので、まだ夜遊びの延長を 楽しんでいる若者によく声をかけられた。 「お姉ちゃ~ん、こんな時間にどしたのー?」 彼らにとっては「もうこんなに遅い時間」だが、私にとっては「まだこんなに早い時間」だ。 冬の田舎学校の早朝はきつい。歩いていても制服のスカートが凍りそうだ。 早く産んでくれ・・始発生活はクリスが出産するまで続く。 結局、クリスが産んだのは放課後だった。どうせなら朝産んでくれ。 安産なのか難産なのか、顔から出てきた子が逆子なのか何なのかサッパリわからなかった。 普通母親の胎内で破水を起こし、子供はむき出しの状態で出てくるのだが、 グリコは破水せず、そのまんま出てきてしまった。羊水が入ったビニール風船の中で ボケーっとしていた。一度母親の胎内を出ると、羊水の中ではもう呼吸ができない。 先生が落ち着いてビニール風船を手で破った。待ってましたとばかりに バシャーーッ!!とすごい勢いでビニール風船は破裂し、グリコが飛び出してきた。 結果的にはとても順調なお産だったらしい。後はTVで見る様な作業をするだけだ。 ワラで体をふいたり、子牛がヨロヨロと立ち上がるのを見守ったり。 それからの私の楽しみはグリコの哺乳。生まれた子牛はすぐに母牛から引き離す。 一緒にいる時間が長い程、引き離した時の母牛の興奮が高まるからだ。 それでも半日程は「うちの子返せーうちの子返せー!」と鳴きまくる。 一方子牛の方はどうでもいいらしく、「ミルクくれーミルクくれい」と鳴きまくる。 哺乳瓶でミルクを飲む子牛の顔は、真剣そのものだ。雑念は一切なく、 ただひたすら「ミルクを飲むのだ」という顔だ。たまに白眼もむく。 私は予め、クリスはこれが最後のお産だと告げられていた。だからこそ1年坊主の 私に担当させてくれたのだ。最後のお産という事は、乳牛の淘汰を意味する。 涙こらえてクリスを見送った後、私はグリコを任せてもらう事になった。 こうしてグリコと私の楽しい学校生活が始まった。

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