カテゴリ:未来の石板2
宵闇の中
光る涙は お別れの印 握る指に 熱はもうない あるのは 楽しかった思い出と ぽっかりあいた心の空白 あなたをここにもどす術 わたしは知ってる とても容易い 秘密の魔法 私の命を捧げれば良い とても容易い 秘密の魔法 からだの中の古い空気を 全て吐きだし夜空見あげる 窓が区切る小さな夜空は 次の世界へ続いてるのかな 差し込む光を 伝っていけば あなたの所に帰れるの? 熱を無くした 青白い頬 涙で濡れた指先で そっと拭って 決意する とても容易い 秘密の魔法… ***** 夕日が沈み、ぼんやりした闇が空気に溶けこみ始めた頃。 一つの便りが魔女界にもたらされました。 「どれみ きとく」 このたった6文字の便りは、女王ハナの心を揺さ振りました。 「マジョリカ、後のことはお願い」そう言いはなつと女王の姿のまま、 ハナは人間界へと飛び立ちました。 「どれみ…」 ***** 夜明け前の病院。 325号室。 病室にはどれみの親族たちが集まっています。 その中にはふぁみの姿もありました。 「どれみ…!」 ハナは病室の中に飛びこむ寸前に、魔法で時間を止めました。 窓をすり抜けて病室の中に飛びこむハナ。 「どれみ…ハナちゃん…来たよ?」 返事はありません。 「どれみ…」 こないだ会ったときとは全く異なる、生気のない、弱った腕。 ハナの目からは涙が溢れてきます。 ぎゅっと手を握ります。 「ハナちゃん、手握っておいてあげるから、飛んでかないように…」 「…ハナ…?」か細い声がハナの耳に入りました。 「!!」ハナははっとどれみの顔を見ます。 「…」薄く目を開いて自分を見つめる赤い瞳。 「どれみ…」 「…おわか…、ばい…い…」 「だめだよ…もうはづきもあいこもおんぷもももこもぽっぷだって…」 「ごめ……ね」どれみはハナの髪を撫でながら、呟きます。 「ハナちゃん一人にしちゃうの!!?」 「…」どれみはまた目を閉じました。 「…どれ…」ハナの心臓は一瞬止まりました。 「…」 「どれみ?」ハナはどれみの手を握る手に力を込めました。 「…」 「…さよなら…なの?」ハナは声にならない声で、吐きだすように呟きます。 「…」 「やだ…」ハナはどれみの手をそっと放しました。 力なくだらりとベッドの上に落ちるどれみの手。 「……」 ハナは、喉に何か、とてつもなく大きなものがつまったような感触を覚えました。 「どれみーーーーっ!!!行っちゃやだーーーーっ!!!」 ***** 魔女界。 マジョリカの副官として、共にハナを補佐しているりずむ。 「どれみちゃん…」 彼女もまた「どれみ危篤」の知らせを聞いていましたが、 マジョリカが女王代行として魔女界に残された以上、 魔女界を離れるわけにいきませんでした。しかし… 「ん?」 耳鳴りのような叫び声。 「…これ…女王様の…」 (ハナちゃんが哭いている? しかも…) 「…いけない…!!」 異様なまでの魔力のうねりを感じます。 「マジョリカ様!女王様の様子がちょっとおかしいので見てきます!」 というが早いか、ぱちんと指を鳴らすとハナの元へ飛んでいきました。 ***** 声が嗄れ、魂さえどこかに掻き消えたようにどれみの側で うずくまっているハナ。 まだ体温が残っているどれみの指を愛撫します。 自然に、止め処なく溢れ落ちる涙。 「…もう…こうするしか…」 ハナは自分の水晶玉を捧げ持ち、呟き始めます。 「…この水晶玉と、私の命とを引き換えに… どれみを…」 「ハナちゃん!!」りずむは女王の名を叫びながら部屋に飛びこんできました。 「生きかえら…」 「だめぇっ!!」りずむはそのままハナに突っ込みました。 二人はその勢いで壁に衝突しました。 その衝撃で時間が再び、ゆっくりと動きはじめます。 「…うっ…いけない…」りずむは指を鳴らして再び時間を止めました。 「いたた…」りずむに跳ね飛ばされ、壁で体を打ちつけたハナが立ち上がりました。 「あれ…りずむ……!!」 割れたメガネで目の側を切り、しかも壁に頭から突っ込んだせいで額を少し裂いてしまい、 顔中血まみれのりずむが、泣きながらハナを睨んでいます。 「りずむ…だいじょ」 その瞬間りずむの平手がハナの左頬をとらえました。 「…りずむ」 りずむの頬を血と涙が混じった液体が流れてゆきます。 「…」 りずむはハナを無言で抱きしめました。 「ハナちゃん…だめ…そんなことしちゃ」 「だって、もうこうするしか…」 りずむはハナを抱きしめる腕に力を込めます。 「…りずむ…」徐々に光が戻りつつあるハナの瞳からは、悲しみの感情が こもった涙が再びわき出てきました。 「どれみ…死んじゃった…」 自分が口にした決定的な言葉にあらためてどれみの死を再認識したハナ。 りずむの腕の中で大声をあげて泣きました。 「そう…どれみちゃんは亡くなりました」りずむは、感情を殺してハナに呟きます。 そのあまりの冷酷な口調に、ハナははっとしてりずむの顔を見上げました。 「でも…ハナちゃんは生きています」りずむの目から流れおちる涙は、それとは 逆に暖かい光を放っていました。 「禁断の魔法を使えば、女王様の魔力をもってすれば、 必ずやどれみちゃんは生きかえるでしょう。でも…」 りずむは抱きしめる腕をそっと解きました。 「…」 そしてハナの瞳の中央を見据えて言いました。 「ハナちゃん、あなたは死んでしまいます。 そして、どれみちゃんもまたいずれ死にます」 「りずむ…」 りずむは大きく息を吸い、気持ちを落ちつけます。そして、 「…ハナちゃん、一つだけ我が儘を聞いてください。」 「?」 「死んではだめです」 「え?」 「わたしのために、生きていてください」 「…」 「わたしは、ハナちゃんが一番好きです。 …主君であり、ともだちであり、そして娘であるハナちゃんが」 「…」ハナは溢れでる涙を拭いながら聞いています。 「もしハナちゃんがいなくなれば、この三つを同時に、全て失ってしまいます。 だから、お願いですから、まだ、生きていてください」 「…りずむ…」 ハナはぎゅっとりずむの首にしがみつきました。 「…戻りましょう、魔女界に。 どれみちゃんの家族たちにもお別れ…させてあげなきゃ…」 りずむは、自分の水晶玉の欠片と引き換えに ほんの少しだけ時間を戻しました。 二つの流星が 夜明けの人間界の空を流れました。 …銀色の滴と共に。 ***** 2005/6/4に、ここに書いていたものの補訂です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Jul 19, 2006 08:58:45 PM
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