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ひみつの裏庭

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Aug 22, 2006
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カテゴリ:未来の石板2
*****
マジョハートの診療所。

「安心しな、マジョリズムは眠っている。心配はいらないよ」
マジョハートはそう告げた。
「ただ、今日はここで休ませる。熱が出るだろうからね。
 それと面会は明日にしてやってくれ」
「はい、疲れてますしね」パルフェは肯いた。
「ありがとうございました、マジョハート先生」
「ん」マジョハートはカルテから目を離してパルフェを見、
「マジョパルフェ、最高の応急処置だったよ」と微笑んだ。
「いえ…それでは」パルフェはお辞儀をして出ていこうとした。
「?」マジョハートはそのパルフェの動作がおかしいことに気がついた。
そして呼びとめた。
「待ちな、お前もケガしてるだろ?」
「いいえ…」小さく呟くパルフェ。
「顔にそう書いてある。
 見せてみろ」
パルフェは足を止めて振り向いた。
「…はい」そう言いながら、左手の親指を見せる。
その血塗れの指は、まるでローラーで押し潰されたかのように変形して腫れあがり、
紫に変色していた。
マジョハートは顔をしかめた。
「これはひどい…どうしたんだ?」
「…」無言のパルフェ。
その無言を受けながすように、マジョハートは診断を続けた。
「…骨は砕けてるな…
 筋は…無事か、良かった」
そういうと、マジョハートは治療セットを取りだした。

「手術するから、そこに座りな」


*****
翌日、りずむを見舞いに来たパルフェ。

「パルフェ」
ベッドの上で横たわっていたりずむは、体を起こした。
「無理しないでいいよ」
パルフェは微笑みながらそう言った。
「大丈夫よ、ありがとう」
りずむはそう言いながら、傍らに置いてあったメガネをかけた。
「パルフェが処置してくれなかったら、私死んでたって。
マジョハート先生が言ってたわ」
「助かって良かったよ、それに…」
パルフェは近くの椅子に腰かけた。
「りずむが最初に魔法で守ってくれなかったら、
 私が死んでた。
 だから、おあいこ」
りずむはポケットに隠されているパルフェの左手に目をやった。
その一瞬の視線に気付いたパルフェは、注意を逸らすように微笑んだ。
「そうだ、りんご食べる?」
そして指を鳴らすと、カゴいっぱいのりんごが現れた。
「ええ、皮付きで、そのままでお願い」
「じゃ」そういってりんごを渡すパルフェ。
その時、りずむはパルフェの指を見た。
「…パルフェ、その指どうしたの?」
「ん?ちょっとケガしただけ」

「…そう…?」
一呼吸置いて、りずむは続けた。
「あと、パルフェ」
「ん?」
「ありがと。
 夢の中でも、私を励ましてくれた」
「そうなんだ。
 夢の中の私はどんなだった?」
「…」りずむは一瞬考えた。
そしてパルフェから視線を外し、親指をチラリと見た。
それから軽く息をついてから、もう一度パルフェの
瞳を見つめた。
「…うん。優しい、パルフェだった。
 だから、こっち来て」
りずむはパルフェをベッドの端に腰かけるように言った。
「なぁに?」
ぎしっ…音を立てるベッド。
りずむはパルフェの首に手を回し、引き寄せ抱きしめた。
「ちょ…」
「ごめんね、親指」
りずむは、パルフェの耳に口付けるように囁いた。
一瞬はっとしたような表情を浮かべたパルフェは、目の前にある
りずむの目を見つめ、質した。
「…知ってたの?」
そんなパルフェの目を見据えるりずむ。
「うん…微かにおぼえてるの」
その瞳は潤み始めている。
「…パルフェの親指…
 噛みくだいた感触」
りずむは涙声で呟いた。
「だから、さっきは知ってて聞いた」
「意地悪ね」パルフェは感情を押し殺した声で囁いた。
「私のケガよりひどいことしちゃった…」
「そうね、りずむの歯型…っていうかこの傷、
 一生消えないわ」冷たく言い放つパルフェ。
「…あ」
パルフェは、何か言おうとするりずむの体をそっと突きはなした。
「パルフェ…」



「…冗談よ」
そしてくすっと微笑んだ。
「え?」意外なパルフェの表情に戸惑うりずむ。

そしてパルフェは立ち上がり、窓の外に目をやった。
「なんでもない、気にしないで」

魔女界独特の空の色。
名もない小鳥が飛んでいる。

「りずむが生きていること、それだけで嬉しいから」

「え?」
パルフェの態度、さっきの冷たい態度とこの嬉しそうな表情、
そのどちらが本当のものか、りずむには分からなかった。
否、心の奥底では分かっていたが、そのことに気付いていなかった。

「ほんと、よかった」パルフェはそういうと、くるっと振り向き、
さっきの小鳥のように近付いて、りずむの額に軽く口付けた。
「早く元気になってね、りずむ」
そういうと、パルフェは部屋を出ていった。
「??」りずむは不可解な表情で、右手の人指し指で額を触った。
ほんの微かな湿り気。
「パルフェってよく分からない…」
そう言いながら、りずむは右手をぎゅっと握り締め、
それからその人指し指に軽く口付けた。
(でも、ありがとう…)
「!」
無意識のうちにそんな行動をとってしまったことに気付いたりずむは、
一人顔を真っ赤にして俯いた。






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Last updated  Aug 22, 2006 11:17:01 PM
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