act.6『冬薔薇』『冬薔薇』おいらが着いた先は、白い冬薔薇の咲いている小さな家だった。 ママはおいらごと、桃を自転車から抱き下ろして、玄関の中に押し込んだ。 そこは、おいらとママと桃で、いっぱいいっぱいの狭いところだったけど、脇にはこじんまりと下駄箱があって、赤い花瓶に家の前に咲いていたのと、同じ白い花が挿してあった。 『おなかが空いているわよね。』 ママは、ばたばたと奥に上がりこむと、すぐお皿もって戻ってきた。 桃は玄関に靴を投げ出し、さっそくおいらをポケットから出してくれた。 おいらの前には、ママのもってきてくれたお皿。 とたんにおいらは、顔ごと突っ込む勢いで急いで舐めた。 ミルクだ! それはとても冷たかったけど、おいらは舐めるのをやめなかった。 おいらのひげも、耳の先までミルクのしぶきが飛んだ。 おいらは息をするのも忘れて飲み続けた。 苦しくなると顔を上げ、プルプル振って息をつぎ、またのみ続けた。 おなかはいっぱいになったけど、おいらは飲み続けた。 おなかが空いて苦しい思いはもう二度とごめんだった。 それでも、たくさん入っていたミルクが全てなくなった頃は、おいらもぽんぽこになったおなかが、床につきそうになって、へたんと座り込んだ。 act.7『上手にちっち』 に続く |