act.10『おふろでちゃぷちゃぷ』『おふろでちゃぷちゃぷ』おいらは目をぎゅっとつぶっていた。 ちいさくちいさく、ママのジャンパーの中で、縮こまって震えていた。 やがて、自転車が止まった気配がした。着いたんだ。 おいらはあたりの気配をうかがったけど、誰の気配も見つからなかった。 においを嗅いでみたかったけど、おいらには、おいら自身の糞の匂いしかわからなかった。 がちゃりバタンぱたぱたガラガラじゃーからんカラン そんな音だけ、おいらの耳に飛び込んできた。 ママは、おいらを懐から取り出した。 おいらが恐る恐る目を開けると、目の前は真っ白だった。 もわもわとした、湿った温かい湯気がおいらを包んだ。 突然お湯がおいらの毛にしみこんできて、おいらはびっくりして、間の前のものに飛びつき、てっぺんまで駆け上がった。 『きゃ~っ!』 おいらが駆け上がったのは、ママの頭の上だった。 服どころか、ママのお顔も髪の毛もおいらの糞まみれだ・・・。 おいらはもうやけのやんぱちだった。 ママがおいらを、お風呂に入れようとしているのがわかったけど、猫はお風呂は嫌いなんだよ! でも、ママも覚悟を決めたようだった。 おいらの糞にも負けず、興奮して思わずお漏らししちゃったちっちにも負けないで、おいらを両腕に抱えあげた。 そして有無を言わさず、お湯を入れた洗面器に、おいらを突っ込んで洗い始めた。 おいらは初めは抵抗していたけど、だんだん冷たくなっていたおなかがじんわり暖まってきて、不覚にもついごろごろ言ってしまった。 ママは手早くおいらを洗い上げると、ふかふかのタオルでおいらをクルクルと拭いた。 タオルの上から風がヴォ~とやってきて、驚いて飛び上がりそうになったけど、ママはこんどはしっかりと、おいらを捕まえていて離さなかった。 ママはほとんど乾いたおいらを、リビングのヒーターの前に置いて行った。 そう・・・ここは警察じゃなくって桃のおうちだ。 おいらには、何がなんだか解らなかったけど、 とにかく大事な毛づくろいをしながら、なんだかほわほわ気持ちよく眠くなった。 やがてママも、着替えてさっさと身づくろいを済ませ、お風呂場から出てきた。 おいらはきまりが悪いので、そのまま眠ったふりをした。 お耳はぴくぴくしちゃったけど。 ママはおいらにはかまわず、電話の脇の厚い本を一生懸命めくりはじめた。 act.11『焼きたてのパンみたい』 に続く ジャンル別一覧
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