act.12『犬と熊』『犬と熊』おいらは、そう~っとあたまを出してみた。 あたりをキョロキョロ見る暇もなく、おいらの目に飛び込んできたのは、でっかいまっくろな犬だった!!! おいらから2メートルも離れていない、向かいあったソファーの下にそいつはいた。 おいらの背中の毛が、いっぽんいっぽんゆっくり逆立った。 おいらは、ママの胸の上でびょんと跳びはねようとしたけど、ママがしっかり抑えていたので、おいらの心臓だけびょんと飛び跳ねた。 おいらはフーフー唸ったけど、相手を怒らせたくなかったので、目を必死でそらせようとした。 でもおいらのめんたまは、まるで張り付いたようにそいつから離せなかった。 おいらのめんたま・・・お願いだよぉ。 でもめんたまの奴ってば、ますます大きくま円に見開いて、これじゃ『やい喧嘩しようぜ!』といっているのとおんなじだあ。 おいらは泣きそうだった。 じっさい情けない声が、唸り声の間に入り混じっていたかもしれない。 犬は、つやつやとワックスをかけたような毛並みをしていた。 立ち上がったら、ママとおんなじくらいの大きさだろうか。 もちろん絶対、立ち上がったりしてほしくなかったけど。 そいつはちらりとおいらを見て、それからでっかいあくびをした。 おいらが丸呑みできそうだ。 そして大きな健康そうな歯並びを、おいらにさんざん見せたあと、伏せた前足の上に頭を乗せ、目を閉じて居眠りを始めたんだ。 おいらはほっとして、腰が抜けそうになった。 おいらの逆立った背中の毛も、徐々に落ち着いてきた。 おいらはちょっと恥ずかしくなって、なんでもないよという顔をした。 おいらは強いんだもん。犬なんて怖くないよ。 でもうっかりしていて、しっぽが、まるでたぬきのしっぽみたいに、大きくなったままだったのには気がつかなかった。 おいらはようやく犬から目が離せたので、周りをキョロキョロと見わたしてみた。 小さな白い部屋には、ソファーが二つ、それぞれへやの壁に背をつけて向かい合っていた。 部屋にはドアが二つ。 ひとつのドアの横には、小さなガラス戸のついた窓があった。 窓の前には出っ張りがあって、透明な箱がおいてあった。 『診・察・券』 って文字が見えたけど、おいらには字の意味はよく解らなかった。 部屋の隅には棚があって、棚の上には猫のぬいぐるみと、犬の瀬戸物が仲良く並んでいた。 棚の中には、雑誌とチラシが乱雑に突っ込んであって、猫や犬やハムスターの写真が見える。 全てがちらちらして見えるのは、上の蛍光灯が切れかけているからだ。 ソファーの端には、ガムテープが貼り付けてあった。 おいらは夢中で周りをみているうち、気がつかないうちにどんどん体が、ママの腕からはみ出ていた。 突然、眠っていた犬がのっそり起き上がったから、おいらはそれこそ驚いて転げ落ちそうになった。 その時、ガラス戸を開けて熊が顔を出したんだ。 act.13『ケットウ?』 に続く ジャンル別一覧
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