act.25『おいらと銀の鈴』『おいらと銀の鈴』おいらが大きくなってきたので、ママがおいらに首輪をつけた。 それまでは、桃のピンクの髪ゴムがおいらの首に巻かれていた。 初めての首輪は、赤くて銀色の鈴がついたものだった。 『ほら。こにゃんいいでしょ~つけてあげるね。』って、ママがおいらに首輪を見せた。 ぴかぴかの真新しい首輪。 おいらかっこよく見えるかなあ。 ママが首輪をつけたおいらを、たくさんほめてくれたので、おいら誰かに自慢したくなった。 でもおいら玄関は開けられないし、窓にはガラスが入ってる。 パパは会社だし、桃は幼稚園だし、誰にも見せられない。つまんない。 おいらは落ち着かない気分で家中うろついてた。 首輪にぶら下がった鈴がチリンチリンって鳴った。 おいらはぶらぶら揺れる鈴にじゃれつこうとした。 でもね。うまくいかないんだ。 鈴はおいらのすぐ首の下についていて、おいらがどんなにがんばって噛み付こうとしても、どうしても届かない。 おいらが、えいっえいって前足で取ろうとしたら、鈴はくるんと廻って、おいらの首の後ろに隠れちゃった。 おいらは顔を廻して、その鈴を見た。 銀色の鈴は、まるでおいらをからかうみたいにチリンって笑ってる。 おいらは、どうしても鈴が取りたくてたまらなくなった。 おいらは体をひねるようにして鈴をとろうとした。 でも鈴はおいらと一緒にぐるんって廻って、もうちょっとのところで届かない。 おいらは鈴と一緒にグルグル転がった。 鈴がまた、おいらの首の下に来たので、それに勢いよく飛びついたら、でんぐり返ししちゃった。 おいらは鈴に向ってドドドドッって走り回った。 でも鈴はおいらより、ほんのちょっと早く走っていくんだ。 おいら一生懸命戦ったけど、鈴の奴は強かった。 おいらはなんだかのどが渇いちゃった。 それで、お水をぴちゃぴちゃしていたら、鈴までお水を飲んでるんだよ。 鈴がキラキラって、 一時休戦だよ。って言うから。 おいら鈴と一緒に、丸くなってお昼寝したんだ。 おいらと鈴がうとうとしてると、ママがおいらを覗き込んで、 『あら。こにゃん寝ちゃったの?桃を一緒にお迎えに行こうと思ったのにな。』 いくよっ! おいらにゃ~んって飛び起きた。 ママは、おいらの首輪に長い紐をつけた。 『こにゃんがまた迷子にならないようにね。』 おいらとママは、桃をお迎えにおうちを出た。 季節はまだ冬だけど、ぽかぽか暖かい日だった。 こういう日のことを小春日和っていうんだって。 おいらは小さい春を探して歩く事にした。 おうちの前の砂利道は灰色だったけど、 ほらママあそこにお花があるよ。 家々の前には赤や黄色や紫のパンジーがあちこちに咲いていた。 おいら花の中に顔を突っ込んでふんふん匂いをかいだ。 『こにゃん。食べちゃ駄目よ。』 低い塀の上に飛び乗ったら、おいらが塀の向こうに行かないように、ママはおいらの紐を短く持った。 おいらは上手に塀の上をほてほて歩く。 おいらはおんもに出ないので、おいらの肉球はいつまでも柔らかいままだ。 塀の上に枝垂れるように梅の木があって、いくつかほころび花開いていた。 おいらが見上げると、木々の間から青い空が見えた。 青い空には白い鳥のようなものが、尻尾をどこまでも長く引きずりながら飛んでいく。 おいらは目を縦にしてパチパチした。 時々人にあったりすると、おいらはママの足の後ろに隠れた。 ブロロロロ~~~ッってバイクが来たときは、おいらあわてて走って逃げようとした。 おんもは怖いこともいっぱいだ。 でも、道ばたの草をかじったり、石ころの隙間から、ちょろりと出てきたトカゲを捕まえるのは面白かったよ。 そうしてのんびり歩いていくと、坂道の下に出た。 ママはおいらを抱き上げ、そこでじっと立っていた。 するとしばらくして、黄色いバスが坂の上のほうからやって来た。 バスはおいら達のそばまで来るとぶおんと止まる。 そしてバスのドアが開くと、そこから桃が降りてきたんだ。 『あっ!こにゃん。』 桃はママの腕の中のおいらを見つけると、バスからぴょんと飛び降りた。 『お帰り桃ちゃん。』 うにゃにゃ~ん! ママとおいらは桃にお帰りなさいをした。 『ただいま。』 桃はおいらを抱き上げてスリスリ。おいらも桃にぐりぐり。 バスの中からたくさんの子供たちが顔を出した。 『あっ!猫だ。』 『猫だ。可愛い~っ。』 『先生。猫がいるよ。』 女の人も降りてきて、おいらをなでなでした。 『先生ずる~い。』 『僕も触りたい~。』 『窓から顔をしまってください。発車しますよ。』 青い帽子をかぶった男の人が手を振った。 女の人は、ママと桃とおいらにさよならをするとバスに乗り込んでいった。 『ばいばい桃ちゃん。』 『猫ちゃんばいばい。』 バスがだんだん小さくなっていく。 まるで黄色いとかげみたいな大きさになると、角を曲がって見えなくなってしまった。 それからね。 おいらとママと桃は並んでおうちに帰った。 桃が、幼稚園で習ったスキップを練習しながら歩くから、おいらも桃の足元でぴょんぴょんはねた。 ママは時々おいらの紐が足にからまりそうになって、あらあらといいながらくるりと廻って歩いてた。 桃がおいらの首輪に気がついて、 『こにゃん可愛い首輪だね。きれいな鈴。』って言ったから、 おいらごろごろ嬉しかったよ。 小さな鈴もチリンチリン、嬉しそうに踊っていたよ。 act.26『おもちゃのチャチャチャ』 に続く ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|