105438 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

小説 こにゃん日記

小説 こにゃん日記

act.25『おいらと銀の鈴』

   『おいらと銀の鈴』

おいらが大きくなってきたので、ママがおいらに首輪をつけた。
それまでは、桃のピンクの髪ゴムがおいらの首に巻かれていた。
初めての首輪は、赤くて銀色の鈴がついたものだった。
 『ほら。こにゃんいいでしょ~つけてあげるね。』って、ママがおいらに首輪を見せた。
ぴかぴかの真新しい首輪。
おいらかっこよく見えるかなあ。
ママが首輪をつけたおいらを、たくさんほめてくれたので、おいら誰かに自慢したくなった。
でもおいら玄関は開けられないし、窓にはガラスが入ってる。
パパは会社だし、桃は幼稚園だし、誰にも見せられない。つまんない。
おいらは落ち着かない気分で家中うろついてた。
首輪にぶら下がった鈴がチリンチリンって鳴った。

おいらはぶらぶら揺れる鈴にじゃれつこうとした。
でもね。うまくいかないんだ。
鈴はおいらのすぐ首の下についていて、おいらがどんなにがんばって噛み付こうとしても、どうしても届かない。
おいらが、えいっえいって前足で取ろうとしたら、鈴はくるんと廻って、おいらの首の後ろに隠れちゃった。
おいらは顔を廻して、その鈴を見た。
銀色の鈴は、まるでおいらをからかうみたいにチリンって笑ってる。
おいらは、どうしても鈴が取りたくてたまらなくなった。
おいらは体をひねるようにして鈴をとろうとした。
でも鈴はおいらと一緒にぐるんって廻って、もうちょっとのところで届かない。
おいらは鈴と一緒にグルグル転がった。
鈴がまた、おいらの首の下に来たので、それに勢いよく飛びついたら、でんぐり返ししちゃった。
おいらは鈴に向ってドドドドッって走り回った。
でも鈴はおいらより、ほんのちょっと早く走っていくんだ。
おいら一生懸命戦ったけど、鈴の奴は強かった。
おいらはなんだかのどが渇いちゃった。
それで、お水をぴちゃぴちゃしていたら、鈴までお水を飲んでるんだよ。
鈴がキラキラって、
 一時休戦だよ。って言うから。
おいら鈴と一緒に、丸くなってお昼寝したんだ。
おいらと鈴がうとうとしてると、ママがおいらを覗き込んで、
 『あら。こにゃん寝ちゃったの?桃を一緒にお迎えに行こうと思ったのにな。』
 いくよっ!
おいらにゃ~んって飛び起きた。
ママは、おいらの首輪に長い紐をつけた。
 『こにゃんがまた迷子にならないようにね。』
おいらとママは、桃をお迎えにおうちを出た。

季節はまだ冬だけど、ぽかぽか暖かい日だった。
こういう日のことを小春日和っていうんだって。
おいらは小さい春を探して歩く事にした。
おうちの前の砂利道は灰色だったけど、
 ほらママあそこにお花があるよ。
家々の前には赤や黄色や紫のパンジーがあちこちに咲いていた。
おいら花の中に顔を突っ込んでふんふん匂いをかいだ。
 『こにゃん。食べちゃ駄目よ。』
低い塀の上に飛び乗ったら、おいらが塀の向こうに行かないように、ママはおいらの紐を短く持った。
おいらは上手に塀の上をほてほて歩く。
おいらはおんもに出ないので、おいらの肉球はいつまでも柔らかいままだ。
塀の上に枝垂れるように梅の木があって、いくつかほころび花開いていた。
おいらが見上げると、木々の間から青い空が見えた。
青い空には白い鳥のようなものが、尻尾をどこまでも長く引きずりながら飛んでいく。
おいらは目を縦にしてパチパチした。
時々人にあったりすると、おいらはママの足の後ろに隠れた。
ブロロロロ~~~ッってバイクが来たときは、おいらあわてて走って逃げようとした。
おんもは怖いこともいっぱいだ。
でも、道ばたの草をかじったり、石ころの隙間から、ちょろりと出てきたトカゲを捕まえるのは面白かったよ。

そうしてのんびり歩いていくと、坂道の下に出た。
ママはおいらを抱き上げ、そこでじっと立っていた。
するとしばらくして、黄色いバスが坂の上のほうからやって来た。
バスはおいら達のそばまで来るとぶおんと止まる。
そしてバスのドアが開くと、そこから桃が降りてきたんだ。
 『あっ!こにゃん。』
桃はママの腕の中のおいらを見つけると、バスからぴょんと飛び降りた。
 『お帰り桃ちゃん。』
 うにゃにゃ~ん!
ママとおいらは桃にお帰りなさいをした。
 『ただいま。』
桃はおいらを抱き上げてスリスリ。おいらも桃にぐりぐり。
バスの中からたくさんの子供たちが顔を出した。
 『あっ!猫だ。』
 『猫だ。可愛い~っ。』
 『先生。猫がいるよ。』
女の人も降りてきて、おいらをなでなでした。
 『先生ずる~い。』
 『僕も触りたい~。』
 『窓から顔をしまってください。発車しますよ。』
青い帽子をかぶった男の人が手を振った。
女の人は、ママと桃とおいらにさよならをするとバスに乗り込んでいった。
 『ばいばい桃ちゃん。』
 『猫ちゃんばいばい。』
バスがだんだん小さくなっていく。
まるで黄色いとかげみたいな大きさになると、角を曲がって見えなくなってしまった。

それからね。
おいらとママと桃は並んでおうちに帰った。
桃が、幼稚園で習ったスキップを練習しながら歩くから、おいらも桃の足元でぴょんぴょんはねた。
ママは時々おいらの紐が足にからまりそうになって、あらあらといいながらくるりと廻って歩いてた。
桃がおいらの首輪に気がついて、
 『こにゃん可愛い首輪だね。きれいな鈴。』って言ったから、
おいらごろごろ嬉しかったよ。
小さな鈴もチリンチリン、嬉しそうに踊っていたよ。


act.26『おもちゃのチャチャチャ』 に続く






© Rakuten Group, Inc.