act.38『夜の明かり』『夜の明かり』『あのね。あのね。おいらひとりでも大丈夫だよ。』 公園を出て、おいらとトラ猫の二匹きりになったとき、おいらは勇気を出して、トラ猫に向かい合った。 『おいら、隣町まで行った事があるし、キジ猫大将も知ってるし・・・だからトラ猫さんは帰って。』 おいらは、ひとりで隣町まで行かなきゃ行けないんだ。 誰にも着いて行ってもらっちゃ行けない。 キジ猫はおいらを黙って見下ろすと、 『ぐずぐずしてたら、夜が明けちゃうわ。』と、さっさと先を歩いてく。 『まってよ。トラ猫さんは駄目だったら!』 おいらはあわてて後を追った。 トラ猫は歩くのがとっても早かった。 おいらが、ぴょんぴょん跳ぶようにして、走って追いかけると、トラ猫は気がついたように、おいらに合わせて歩いてくれた。 『ボス猫は、自分の縄張りの猫を守るのが役目なの。 前のボス猫もそうやって、最後まで仲間を守ったのよ。』 おいらはびっくりした。 そうか・・・トラ猫の前にもボス猫がいたんだ。 前のボスって、どんな猫だったんだろう? 『前のボスはね。強くって、意地っ張りで、わがままだったけど。 とっても優しいボスだったわ。』 トラ猫は微笑んでいた。 その顔が、とっても綺麗に見えて、おいら急にドキドキしてきた。 『その猫はどうしたの?』 トラ猫が、前のボス猫を倒して、ボスになったの? 『とても遠いところに、連れて行かれてしまったの。』 トラ猫の笑い方は、不思議な笑い方だった。 笑っているのに、なんだか泣いているみたい。 『トラ猫さんは、前のボスが好きだったの?』 おいら思わずそう聞いてしまってから、顔が火を噴きそうになった。 おいら何を聞いているんだろう? 『前のボス猫はね。私の子供たちの父親。』 トラ猫の言葉に、おいらの頭がぐるんとした。 そうか・・・トラ猫はママ猫なんだから、結婚しているのはあたりまえだよね。 強くて、きっと大きくて、そんなオス猫と、綺麗で優しいトラ猫。 小さなモコモコした子猫たち。 おいらのしっぽがゆっくり垂れた。 おいらなんだか変な気分だよ。 そんなもやもやした気分を、風で吹き飛ばしたくって、おいら歩くスピードを上げ、とうとう走り始めていた。 夜の町は、赤や黄色や青や白・・・いろんな明かりがおいらの眼に、流れてにじんでいた。 act.39『となり町』 に続く ジャンル別一覧
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