カテゴリ:大森美香の脚本作品。
NHK大河「青天を衝け」。
栄一はすでにパリから帰国したので、 「一橋家臣編」と「パリ編」までが終わったことになります。 第1部につづき、 第2部・第3部も満足のできる内容でした。 ◇ クドカンの「いだてん」では、 ストックホルムを舞台にした海外編のときに、 やや勢いが衰えた印象があったので、 本作の「パリ編」がどうなるかを心配していました。 ただでさえ、 ヨーロッパのモダンな風景や、 髷を切り落とした洋装の登場人物たちは、 なかなか大河ドラマの世界に相容れないからです。 実際、 髷を落とした洋装の栄一の写真を見て、 千代が思わず「浅ましい…」とつぶやくシーンもありました。 あれこそが、まさに旧来的な大河ファンの反応でしょう。 チョンマゲで戦をしてこその大河だという考えは根強い。 しかし、 それも一種の自虐ネタとして処理されて、 結果的には、海外編もうまく切り抜けたように思う。 ◇ 大森美香の脚本による「あさが来た」は、 平成期ではもっとも人気の高い朝ドラでした。 しかし、 朝ドラで成功したからと言って、大河でも成功するとは限らない。 むしろ、朝ドラと大河は対極的だとさえいえます。 まして大森美香は、 これまで女性の物語ばかり書いてきたのだし、 はたして男たちの歴史物語なんて書けるのかしら? …という余計な心配もしていました。 しかし、 今はそんな不安もすっかり消えて、 むしろ大河ドラマの新境地が開かれていることに驚いている。 ◇ 旧来、NHKの大河ドラマは、 あくまでも"戦国時代の武士の物語"を主軸にしてきました。 たしかに、 橋田壽賀子や田渕久美子は女性の物語も書いてきたし、 「新選組」や「篤姫」では幕末の物語も書かれてきたし、 「いだてん」のように近現代の物語も書かれるようにはなった。 しかし、それでもなお、 "戦国の物語こそ大河の主流"とする考えは根強い。 そんななかで、 女性脚本家である大森美香が、 幕末から近代にかけての"文官・文民の物語"を成功させつつあります。 これによって、 またひとつ大河の新しい世界が切り開かれている。 ◇ 今回の大河には、 それなりに合戦のシーンもありはするけれど、 基本的には、 男臭さや汗臭さや血生臭さが抑えられていて、 どちらかといえば、 美男美女たちのキレイ系の作品に仕上がっています。 それこそが大森美香らしい作風で、 女性の視聴者にも受け入れやすい要因だろうと思う。 しかも、 西洋化する近代日本が舞台とあって、 テーマ曲のオープニング映像では、 武士や平民たちが華麗なモダンダンスを踊ったりしてるし、 冒頭に登場する徳川家康の背後では、 パントマイムによるトリックアートも披露されたりしている。 かつてなくオシャレな演出が取り入れられています。 くわえて言うなら、 一橋家臣編における栄一&喜作の仲良しコンビには、 さながら"BL漫画風"ともいえる味わいすら感じられました。 ◇ ちなみに、語り部としての徳川家康さんは、 今回の大森美香の最大の「発明」だったといえます。 本来なら、語り部とは、 「視聴者の日常」と「ドラマの非日常」をつなぐ懸け橋なのだけど、 今回は、あえて戦国の大武将が、 「大河の視聴者」と「幕末・近代の世界」をつないでいるという図式。 これはかなり巧みな仕掛けだと思う。 実際、旧来的な大河ファンの多くは、 渋沢栄一よりも徳川家康のほうに親近感をもつのでしょうから(笑)。 そんな家康さんに、 「幕府が終わっても世の中はそう簡単に変わりません」 などと説明されれば、 そうか~!なるほど~!という気持ちにもなるわけです。 ◇ 今後、明治編に突入すれば、 いよいよ「いだてん」と同じ近現代の領域に入ってきます。 すなわち、 それは「あさが来た」の舞台に重なるということでもある。 ここから大森美香は、 この新しい大河をどのように切り開いていくでしょうか? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.10.05 22:19:21
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