2023/10/15(日)16:29
テレ朝「シッコウ!!」最終回。現代の大岡裁きと犬奉行。
シッコウ!!〜犬と私と執行官〜。
ぜんぶ見終わりました。
大森美香のテレ朝作品ですが、
「未解決の女」のスタイリッシュな作風とは、
だいぶ印象が違ってました。
おじさんばかりの荒っぽい職場のドラマ。
◇
最終回は、
父親が子供を連れて家を出てしまうお話。
福原愛ちゃんの逆パターンですね。
実際、これって、
虐待でもないかぎりは、
どちらが正しいとも言いきれないだろうなと思う。
ドラマはわりと美しい終わり方になってて、
全9話のなかでは、いちばん「落着感」があったかも。
◇
このドラマの「一件落着」とい言葉は、
名探偵コナンcase closed のパロディであるだけでなく、
あきらかに遠山の金さんを逆手に取ったものですね。
遠山の金さんでは、
桜吹雪を見せつけ、悪者を退治し、
不幸な人たちが救われて一件落着となる。
大岡越前も基本的には同じ。それが世にいう「大岡裁き」ってやつ。
でも、このドラマでは、
債務者の不幸が救われるわけじゃなく、
むしろ路頭に迷わせると言うほうが正しい。
それが近代司法の現実というわけですね。
いろんな形で「犬」も絡んでいる。
老子いわく、
天地は仁ならず、万物を以て芻狗と為す。
自然界には仁愛など存在せず、
万物は「わらの犬」も同然である。
人間も犬もゴミも区別されることはない。
実際、
裁判所は不遇な人間に対して非情だし、
ペット業界も犬や猫に対して非情です。
織田裕二が演じる執行官は、
犬嫌いなのに「裁判所の犬」だと蔑まれている。
そんななかで、
伊藤沙莉は、いわば「犬奉行」の役回りでしょうか。
◇
わたしは以前、
朝ドラ「風のハルカ」や「あさが来た」について、
大森美香は、ただ不幸を遠ざけてるだけ!
…と批判したことがあります。
https://plaza.rakuten.co.jp/maika888/diary/202108280000/
たとえば…
朝ドラ「風のハルカ」でいえば、
アスカや正巳や奈々枝が不幸だった。
朝ドラ「あさが来た」でいえば、
姉が嫁いだ眉山家の人々が不幸だった。
大河「青天を衝け」でいえば、
尾高家の長七郎や平九郎らが不幸だった。
大森美香のドラマにおいて、
主人公は基本的にずっと幸福なのですよね。
しかし、不幸な人々は、
主人公から少し離れたところを通り過ぎるだけで、
けっして救われることがないし、
その不幸は主人公に降りかかることもない。
◇
今回のドラマでは、
人々の苦境に正面から向き合っているけれど、
やはり彼らが救われるわけではないし、
ただ、目の前を通り過ぎていくだけです。
主人公にその不幸が襲いかかるわけでもない。
その意味で、
大森美香の「不幸」の描き方は、よくもわるくも一貫してる。
◇
実際、不幸というのは、
そう簡単に乗り越えられるものでも、
そう簡単に救われるものでもないのよね。
ユゴーの「レ・ミゼラブル」や、
モンゴメリの「赤毛のアン」のように、
不遇な環境に生まれた主人公が、
そこから救われて不幸を乗り越え、
最終的に幸福を勝ち取る物語なら、
さぞかし劇的になるだろうけど、
それを安易にやったら、
ただの噓っぽいファンタジーになってしまうし、
大森美香がそういう物語を書かないのは、
よくいえば彼女の誠実さゆえかもしれない。
◇
とはいえ、
今回の主人公の場合、
両親の離婚のような境遇を乗り越えた前提があり、
それだけに苦しみを強いられた債務者たちに共鳴したり、
その不幸が乗り越えられるよう祈る気持ちがあります。
終盤には次のセリフがありました。
> たしかに胸が痛いこともありました。
> けど、人間って案外悪くないって思ったんです。
> どんなに辛い状況になっても、
> もういちど生きていこうとする人がいた。
> 目をつぶらずに歩き出そうと人生をリスタートしてた。
> ときには図太くて、ときには気高くて、
> そういう生きていく力を人はもってるんだなって。
> そんな人生に触れるたびに、
> 仕事とかを忘れて勇気をもらいました。
> 私、執行官になって、もっと人間を知りたい。
これは、
大森美香自身の言葉のようにも思えたし、
ある意味では、伊藤沙莉が、
大森美香の分身のようにも見えました。
◇
作品の出来からいうと、
題材そのものがちょっと地味だったうえに、
遠山の金さん的な「落着感」にも乏しかった。
債務者の苦境を描いて最後に執行!
…というワンパターンだったので、
中盤はマンネリ感があったのも否めない。
でも、
視聴率や評判は悪くなかったようですね。
織田裕二も、従来の圧の強いイメージが払拭されて、
役の幅が広がるきっかけになったでしょう。
伊藤沙莉は、見ててとても面白かった。
エンディングでは、
5年間の実務を経て執行官になったっぽいけど、
未解決の女のように第2シーズンもあるのかしら?