テーマ:政治について(20650)
カテゴリ:政治
成田悠輔は《無意識データ民主主義》の近未来を予言してます。
これは、 選挙で議員を選ぶような民主主義ではなく、 大衆の挙動や生体情報のデータから抽出した「民意」を、 政策決定のアルゴリズムに直結させる政治システムです。 そこに「代表者」という中間的な概念はありません。 政策決定においては、 このような無意識的な「民意」のほかに、 GDP・失業率・学力達成度・健康寿命、 …などの多くのデータが加味されることになる。 いずれにせよ、これは、 企業がマーケティングデータをもとに、 消費者の無意識の「需要」を抽出して、 さまざまな経済的変数を加味しながら、 商品開発や経営判断をするのと同じです。 基本的には、 《マーケティングにもとづく公共サービス》の進化系。 すでに部分的には実現しているわけなので、 さほど突飛なものではありません。 ◇ 実際のところ、 データから「民意」を抽出するのは可能です。 テレビの選挙開票速報を見ればわかるとおり、 マーケティングの手法を駆使すれば、 投票箱を開ける前から選挙結果は分かってしまう。 そのことを考えれば、 現行の選挙イベントは時間と金の無駄です。 それどころか現行の民主主義は、 選挙のカラクリを熟知した人間だけが、 権力を握って得をするような、 不公平かつ不公正なシステムでもある。 ◇ 選挙制度は、 権力の正当性を担保するイベントでもあるけれど、 データ民主主義が選挙制度に取って代わった場合は、 権力の正当性を担保するよりも、 データ抽出やアルゴリズムが適正に機能しているか、 …を評価することのほうが重要です。 なお、上野千鶴子は、 「データから抽出される無意識の民意は差別的ではないか」 …と懸念を示してます。 上野:言語学の研究で、あるワードに対して被験者が快か不快かを判断してボタンを押して反応するというテストがあります。すると、反応するまでの時間が短ければ短いほど差別意識が強く出てくる。人権論者であっても、環境保護論者であっても、瞬時に反応すると、差別は再生産されるんです。無意識民主主義は、人々のそういう差別意識も集めてきてしまう危険性がありませんか。 たしかに、この懸念は正しいけれど、 それは《無意識データ民主主義》に特有の問題ではなく、 むしろ民主主義そのものの一般的な問題です。 先進諸国で極右政党が躍進しているのは、 ポピュリズムのなかで差別的な民意が顕在化するからです。 なので、現行の選挙制度でも差別は排除されません。 ◇ 成田悠輔は「選挙は意識的な選択だ」と述べてますが、 じつは投票行動は、かぎりなく「無意識」に近い。 なぜなら、 投票は匿名的な行為であり、 社会的な責任を負う必要がないからです。 ほとんどの有権者は、 熟慮や熟議のすえに投票するのではなく、 ほぼ無意識に投票するのだと言っていい。 事実、先日の兵庫県知事選挙では、 多くの有権者が犬猫のような脊髄反射で投票しました。 無意識にもとづくのなら、 選挙で民意を測ろうが、データで民意を抽出しようが、 結果はほとんど変わらないはずです。 かりに違いが生まれるとすれば、 現行の選挙制度では棄権する有権者の「民意」が抽出され、 選挙権をもたない者たちの「民意」が抽出されるときです。 ※《無意識データ民主主義》では、ペットや自然動物などの「民意」も抽出することが可能。 その意味では、現行の選挙制度よりも、 《無意識データ民主主義》のほうが公平性が高く、 より完全な民主主義に近いといえます。 ◇ もしかしたら上野千鶴子は、 「差別的な民意は抑圧すべき」と主張したいのかもしれません。 しかし、そんなことをしても問題の解決にはならない。 むしろ重要なのは、 「差別的な民意」があることを前提にして、 それが対立や暴力や不公正や不公平に帰着しないように、 最適化を測るための制度や政策を立案することです。 そのためのアルゴリズムを確立せねばならない。 ◇ ところで、現在の企業では、 人間がマーケティングをおこない、 人間が経営判断をしているのかもしれません。 しかし、いずれはどちらも、 AIのアルゴリズムによって自動化されるはず。 その際に目標とされるのは「利潤の最大化」です。 けれど、政治の場合、 目標にすべきは「利潤」ではありません。 政策決定のアルゴリズムは、 「財政健全化」「GNP上昇」 「貧困率低下」「犯罪率低下」「被災率低下」 「健康寿命上昇」「学力上昇」「幸福度上昇」… などの複数の目標を同時に達成せねばならない。 その場合に重要なのは優先度です。 どの目標をどのような割合で優先すべきか。 この決定にかんしては、 利害が対立するおそれがあるので、 現行のような《選挙》が必要かもしれません。
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最終更新日
2025.04.23 23:24:15
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