カテゴリ:ドラマレビュー!
村上春樹を取り上げたNHKの2つの関連番組。
土曜ドラマ「地震のあとで」と、 100分de名著「ねじまき鳥クロニクル」を見終わりました。 どちらも、 《欺瞞に満ちた上部構造/実存を規定する下部構造》 みたいな図式が共通してるよね…。 地下深くに降りれば、 震源になるミミズがうごめいてるし、 ミミズみたいなな地下鉄に乗った先には、 隠蔽された劣情や自分の出生の秘密がある。 暗い井戸のなかに降りれば、 妻とのコミュニケーションの謎があり、 さらには歴史のトラウマや暴力の記憶があり、 自分のなかの「悪」もうごめいてる。 ◇ そして、 ドラマ第4話「続・かえるくん」と、 長編「ねじまき鳥クロニクル」第3部は、 《想像のなかで自分の内側の「悪」と戦う》 …みたいな展開もまったく同じでした。 主人公たちは、 現実に戦うわけじゃないけれど、 想像や夢のなかで「悪」と戦うわけですね。 これは沼野充義の解説によれば、 「夢のなかで責任がはじまる」 …という発想の表れじゃないか、とのこと。 ![]() ![]() ドラマの第4話は、 原作の「続編」という体裁でしたが、 かえるくんと片桐が、 みみずくんを相手に共闘して地震を防ぐ内容は同じ。 そこに、 第3話までのモチーフをぶちこんで再構成した形です。 ◇ 片桐はゴミ拾いをする善良な人間ですが… そんな善良な人間でも、 資本社会のなかで銀行員をしてれば、 他人の憎悪を招き寄せることになるし、 みみずくんがそれを飲み込めば地震が発生する。 したがって、片桐は、 善良な人間ではあるけれど、 地震を引き起こしてる元凶でもあるのよね。 なので、その罪滅ぼしのために、 ひたすら街中のゴミを拾ったり、 かえるくんと共闘したりするわけです。 ◇ 村上春樹は、 ゴミ拾いとか、雪かきとか、 そういう小さな善行のなかに、 ささやかな希望を見てるのかもしれませんが、 その倫理観は、 せいぜい「罪滅ぼし」以上の意味をもってない。 望みもしない原罪を背負わされたうえに、 罪滅ぼしのために人生を捧げるしかない。 そんな現代日本人の悲劇的な無力を描いてる、 …ともいえます。 ◇ この物語は、 寓話の形をとってはいるものの、 なんらの希望を見出せるものでも、 なんらの教訓を見出せるものでもなく、 迷宮入りした日本人の無力感を描いてるだけ、 …ってのが、わたしの率直な印象ですね。 ◇ 余談ですが… かりにプーチンが「悪」だとしても、 西側諸国の側にも欺瞞と悪があるわけで、 ロシア文学専門の沼野充義が、 ドストエフスキーとかを引き合いにしながら、 村上春樹を積極的に推しはじめるのを見ると、 なんとなく、 《ロシア側から村上春樹を読む》 …みたいな動きの表れかなって気もします。 ![]() ![]() ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2025.04.29 22:43:29
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