カテゴリ:NHK朝ドラ
NHK朝ドラ「あんぱん」。
第10週はスゴかったですね…。 神週だったのではないでしょうか。 脚本家の中園ミホが、 「やなせたかしを描くことは戦争を描くことだ」 と言っただけのことはあって、 この週こそ今作の最高潮だったかもしれない。 ◇ なぜ主人公の軍国主義はブレブレだったのか? その意味が今週の内容に集約されてました。 ブレブレなのは、 のぶだけでなく、嵩も同じです。 「兵隊にいちばん向いてない」 と息子を愚弄した実母に文句を垂れ、 「武運長久をお祈りします」 と言うのぶや女中にも不満を口にする。 一方、のぶも、 「戦争が終わったら世界旅行がしたい」と言いつつ、 敗戦を予言して軍用船へ乗り込んでいく夫に向かって、 「日本はかならず勝ちます!」と勇ましく言い放ち、 そうかと思うと、 悪役だったはずの嵩の実母と一緒になって、 憲兵隊に連行されるのも厭わずに、 嵩に「かならず生きて戻ってき!!」と叫びます…(T_T) ◇ さながら新興宗教に洗脳された女性が、 棄教の過程で価値観を揺さぶられて葛藤してるみたい…。 のぶは、女子師範時代に、 黒井先生から「あなたは弱い!」と罵倒されつづけ、 そのたびに軍国教育に疑念をもつ自分を奮い立たせ、 弱さを克服して強くなろうとしてきたわけですが、 それでもやはり、 妹や、嵩や、ヤムおんちゃんや、夫の次郎に、 その軍国主義的な信念をグラグラと揺さぶられ、 アイデンティティが崩壊していく危機を強いられてる。 ◇ 軍国主義思想に染まってるのは、 おもに女性と子供と老人たちなのよね。 黒井先生の薫陶を受けた、 ウサ子ちゃんやのぶを筆頭にして、 のぶの教育を受けた子供たちや、 世界情勢の現実から遠い田舎で暮らす、 国防婦人会の専業主婦たちや、 釜爺や団子屋のような年寄りこそが、 まるで軍隊にいる軍人と同じように、 ある種のフィルターバブルのなかで、 国の戦争の正しさを素直に受け入れて、 日本が勝つという非現実的な虚妄を信じてる。 ◇ それとは反対に、 都市部で生活する人たちや、 企業社会を生きてる男性たちは、 もうすこし広い視野で世界情勢の現実を見てる。 これは従来の戦争ドラマとは真逆であり、 男性は戦争を推進した「加害者」、 女性や子供や老人はその「被害者」、 そういう従来的なパターンを完全に覆してる。 でも、こっちのほうが実態に近いかもしれません。 そして、これはけっして過去の話ともいえない。 実社会とのかかわりをもたないまま、 SNSのようなフィルターバブルのなかで、 非現実的な妄想に偏っていく集団に似てるから。 ◇ 主題歌を書いた野田洋次郎は、 かつて「HINOMARU」という曲で物議を醸しましたが、 今回の歌詞もかなりキワドくて挑戦的な内容ですね。 タイトルの「賜物」は、 《立派に戦った先人たちの賜物である国家に万歳!》 のような解釈が十分に出来るし、 さらに「いざ」とは戦いへ向かう者たちの言葉です。 しかし、NHKは、 あえてこの歌詞にOKを出し、 とくに第10週では後奏部分をカットして、 最後の「万歳!」の意味を逆説的に際立たせる演出をしました。 涙に用なんてないっていうのに、やたらと縁がある人生 これはまさに、 戦前と戦後の狭間、 軍国主義と反戦主義との狭間で、 ぐらぐら揺れるヒロインの姿そのものです。 この主題歌のメロディは、 過去の日本の歌謡曲のパロディをぶち込みながら、 「Aメロ/Bメロ/サビ」という定型を逸脱して、 無限に展開していくような過激なものだけど、 やはり強烈なのは、その歌詞の内容で、 今後もさまざまな解釈を呼び込んでいくと思う。 いつか来たる命の終わりへと これははたして、 「君」の采配に万歳!という意味なのか、 「神様」の采配に万歳!という意味なのか。 もしも「君」と「神様とやら」が天皇であるならば、 それは「国家」の采配に万歳!…という意味なのか。 そういう逆説的な解釈の可能性をはらんでるってこと。 ◇ ヤムおんちゃんが、 カナダから欧州戦争に加わった話も興味深かった。 まだ英国領だった時代のカナダで、 日系人への差別を回避するために、 やむをえず義勇兵になった日本人が約200人いて、 そのうち54人が戦死したとのことです。 戦時中の在日韓国朝鮮人の問題にもかかわるけど、 それははたして「自主志願」なのか「強制連行」なのか、 そんな2分法では片付けられない話です。
なお、 パンの本場といえばフランスですが、 カナダは世界屈指の小麦の生産国であるだけでなく、 ケベックを中心とするフランス系の社会と、 その周辺のイギリス系社会が混交することで、 独自のパン文化を発展させた国なのですね。 ![]() ![]() ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2025.06.22 02:24:02
[NHK朝ドラ] カテゴリの最新記事
|
|