ハロウィンに続いてクリスマスも中止か。
ヨーロッパや南米は、キリスト教社会ですが、米国や日本のように、けっしてクリスマスを派手に祝うわけではありません。クリスマスが、現在のような盛大な商業イベントになったのは、20世紀の米国においてです。そのことに大きく貢献したのは、おもにニューヨークのユダヤ人です。◇20世紀の米国では、クリスマス向けのポップソングがたくさん生まれました。ビング・クロスビー「White Christmas」「I’ll Be Home for Christmas」ナット・キング・コール「The Christmas Song」フランク・シナトラ「Let It Snow」トニー・ベネット「Winter Wonderland」ジャクソン5「Santa Claus is Coming to Town」ジーン・オートリー「Rudolph the Red Nosed Reindeer」ダイナ・ショア&バディ・クラーク「Baby, It's Cold Outside」バンド・エイド「Do They Know It’s Christmas」…などなどの名曲です。これらを作ったのは、アーヴィング・バーリン、ウォルター・ケントメル・トーメ&ロバート・ウェルズフェリックス・バーナードジュール・スタイン&サミー・カーンジョン・フレドリック・コーツジョニー・マークスフランク・ロッサーミッジ・ユーロ…といった人たちですが、全員ユダヤ人です。キリスト教徒の多いヨーロッパや南米では、このようなポップソングはほとんど生まれていません。◇ユダヤ人のクリスマスに宗教的な意味合いは皆無でした。彼らにとってクリスマスは、たんなる「稼ぎ時」だったのです。キリスト教徒たちがクリスマス休暇を取り始めるころ、ニューヨークで商売をするユダヤ人たちは、サンタクロースの扮装に身を包んで、店先を華やかなイルミネーションで飾り、クリスマス向けの商品をたくさん並べて、ここぞとばかりに売りさばいたのです。これが「20世紀のクリスマス」を大きく変えました。◇このスタイルは、日本にも伝わりました。日本人にとっても、クリスマスに宗教的な意味合いは皆無でしたから、商業イベントとして楽しむことに何の躊躇もなかったのです。クリスチャンでもないのにクリスマスで騒ぐな!とはよく言いますが、むしろクリスチャンでないからこそ、ユダヤ人も、日本人も、心おきなくクリスマスで大騒ぎすることができるのです。逆に、ヨーロッパや南米の人たちのほうが、クリスマスを商業化することに抵抗が強いため、あくまで慎ましく過ごそうと努めるのです。◇日本において、商業的なクリスマスソングがたくさん生まれたのも、米国と同じような事情によります。松任谷由実「恋人がサンタクロース」山下達郎「クリスマス・イブ」坂本龍一「Merry Christmas Mr.Lawrence」KUWATA BAND「MERRY X'MAS IN SUMMER」佐野元春「Christmas Time In Blue」稲垣潤一「クリスマスキャロルの頃には」松田聖子「Pearl-White Eve」辛島美登里「サイレント・イヴ」DREAMS COME TRUE「雪のクリスマス」…などなど。米国をも凌ぐほどで、枚挙に暇がありません。いずれも名曲ですが、作ったのは誰一人としてキリスト教徒ではありません。おそらくは、どこかのお寺の檀家の人たちです。◇しかし、今年はコロナ禍です。ハロウィンに続いて、クリスマスも自粛になるでしょう。とはいえ、これは、経済的なダメージではありますが、すこしも宗教的なダメージではありません。むしろ、外出自粛のステイホームで過ごすクリスマスのほうが、本来の姿に近いのだろうと思います。