念風鬼2ここは播磨。波打つ海の音が気持ちがよい…砂浜にはきれいな貝殻が落ちている。 巻貝が半分砂に埋まっているのも京にない風情がある。 そんな播磨の海岸を光栄は歩いていた。 「この地から離れるのか…離れがたいな…」 夕日が海に接して紅い…そんな海を見つめていた。 父賀茂保憲に従ってこの地に訪れてから随分とたつ。 京には年に2.3回は帰っていたが、本当にかえる日が来るとは… 長年この地に住んでいたのでこの空気や、風景がとても好きだった、京の空気より、景色よりこの美しい土地…だから離れがたい。 そんなことを考えながら、歩いていた足に貝殻がぶつかった。 その貝を手にとり見つめながら思う。 「葛葉をここに連れてきたかったな…きっと、大喜びで砂や海で遊んだだろうな」 幼い許嫁のやりそうな行動を想像してくすりと笑う。 光栄は本当に浮気の心配のない青年だった。ただちょっとロリコンなだけかもしれないが。 「光栄様ーーーー!」 葛葉のお土産に貝殻を拾っている時、従者が光栄を呼びにきた。 「なにかあったのか?」 従者が光栄のたつ砂浜までくると息を切らせながら告げる。 「保憲様のお呼びでございます。何やら貴族がまえられていて…光栄様にその貴族のことを任せるとのこと。」 「貴族が?」 なぜ貴族がこんな播磨の地に来ているのだろう?と思いながらも、邸に向かった。 邸に着いたころにはもう夜空だった。 貴族は一段高い位置に円座を敷き座っていた。 歳は三十前後、位は中将。そして、藤原姓なのである。 その男はガタガタと震え、燭台の明かりを受けてみえる顔は青ざめている。 そして、光栄は机の上に紙と墨と筆を用意して、その貴族の用件を聞いていた。 貴族は声を震わせながら話す。 「毎日恐ろしい夢を見るのです。昔通っていた女が出てきて…その女は鬼の形相で…手と口は血まみれで…あ、あらわれて…『今度はあなたを食ろうてやる!』と高笑いをしながら追い掛け私を喰らおうとする夢なのです…恐ろしくて恐ろしくて…」 その夢のことを思い出したのか目に分かる程の震えをした。 「そうですか……ですがなぜ、この播磨の地に?京には晴明様やなだたる陰陽師、祈祷師がいらっしゃるでしょうに…」 「それはその…父上が…いや…恐ろしくなったのだ!京には私が捨てた女が何人もおる…京を離れれば女達いや…鬼に殺されずにすむとおもって…いや…だが…夢は消えぬのじゃ…今も私を追って播磨まできているのかもしれん…ですから、助けてほしくてまいったのですのじゃ」 恐怖にかられているためか、言葉数が多く、言葉もかなり乱れている。 光栄はその用件をすらすらとそのまま紙に書き写していく。 書きながら光栄は自業自得じゃないか…と思っている。 浮気をして女を捨てる方が悪い。好いた女なら捨てることをせずに妻としてくらせばよかったのだ。光栄は自分は浮気などしないたちなので、こういう男が許せなかったりする。 「わかりました。なんとかいたしましょう。」 「本当ですか!?」 用件を書き終えた筆を置き額をおさえて光栄は大きくため息をついた。 その仕種は仕方がないと諦めたからだ。 「その夢の原因の鬼をどうにかするためには京との連絡が必要だと思いますので時間かかりますよ?」 「ど、どのくらいですか?」 「3,4日ってところでしょうか?」 「そ、そんなに!それまでに私は殺されてしまう!」 いきなり光栄に抱きつき懇願した。 「大丈夫です。この札を邸に貼っていれば夢は見ませんし、鬼も現れません。それと念のため私の邸にとまって下されば問題ないと思います。だから、抱きつくのはよしてくれませんか!」 思いっきり貴族の体を引き剥がした。 札を渡すと、従者に部屋へ案内するように命じ、手を叩きながら光栄は貴族より先に部屋を出てていった。 従者は、相変わらず態度のわるい…と思ったが、注意もしなかった。 光栄は父保憲のもとに訪れて文句をいっていた。 「父上が依頼をお受けになったらよかったのだ」 「私は忙しい。もうすぐこの地を離れる準備をしなくてはいけないからな」 書物の棚を整理しながら保憲は言う。 「その言葉…一週間も前にも聞きましたが…」 「荷物が多くて整理しきれんのだ」 その言葉も聞いたきがする。 「そういえば葛葉の君に文を送ったそうだな。」 「父上の所為で遅くなると書いておきました。」 恨みがましく言う。まるで子供の態度。 そんな光栄を保憲は精神年令は葛葉の君と同じだなとおもった。 「ああ、そうだ、鬼女の件に関する文が晴明からも来ていた。」 懐から文を取り出し息子の前に放り出す。 「それをしっているなら……ん?」 光栄は文を手に取った時、簾の向うで何を感じた。 人間ではない気配。 そして尋常ならぬ息切れの音…ゼイゼイという…苦しそうな息遣いだった。 光栄がその何ものかを調べるため簾を慎重に開けてみるとそこには… 「お前は氷ではないか!どうしたのだ!」 氷は手にた文をフルフルと腕をあげ光栄に差し出す。 「これを…葛葉…から…」 光栄がそれを受け取ると、氷はパタリと気絶をした。 ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|