全国の名物研究所

2009/08/26(水)22:57

答えに窮する「どちらからいらっしゃいましたか?」

旅行の話(10)

 昨日、天候不順で米の出来が心配と書きました。  報道ステーションでしたか、「実りの時期が来たのにいまだ青々している稲穂」ということで、うちの近所の田んぼが全国に放送されていました。普通は黄金色になっているのに、真っ青でしたね。  そんな中で、福井県では早生品種の「ハナエチゼン」が初出荷を迎えたいう記事が今日の「福井新聞」に掲載されていました。  新聞によると、関係者のコメントで品質的には「ほぼ良好」とあります。  「ほぼ」というがちょっと気にはなりますが、ハナエチゼンに関しては、あまり心配はいらないようで、ちょっと安心。  ただ、主力となるコシヒカリにとっては今の天候が一番大切だと聞き、予断を許さない状況が続いています。  話は変わりますが、ちょっと思い出したことがあるのでここに書き記します。長文の戯言ですがよろしければお読みください。  旅先などで、「どちらからいらっしゃいましたか?」と聞かれることがよくある。  今から30年以上も前の学生の頃は、その問いには素直に「川崎から来ました」と答えていた。するとたいていの人は、「川崎、あの公害の?」となる。確かにその10年以上も前、ちょうど高度経済成長期の真っ只中の頃は、京浜工業地帯のお膝元である川崎は、全国屈指の公害の町としてその名を馳せた。が、その頃となると、かなり環境も改善され、毎日のように発令されていた「光化学スモッグ注意報」(今や死語か?)も影を潜め、公害のことも忘れつつあった。  でも、世間の印象としては、「川崎=公害」という図式は全く拭われていなかったのだ。  その会話はさらに、「川崎って洗濯物が外に干せないんでしょ」「ぜんそくとかならないの? 大変なところに住んでいるねぇ」と、好奇の目とともに憐れな少年をなぐさめるような展開へと話が続くことがほとんどであった。  いくら空気が汚かろうが、印象が悪かろうが、自分の生まれ育ったふるさとには変わりない。それを初対面の他人からこうも言われると、だんだん嫌になってくるのが人情だ。  ある日、とある旅行先でそんな質問をされた時、不意に「東京から来ました……」とウソをついてしまったことがある。  私の家は歩いてでも東京に行けるところにあったため、「東京と一緒」という意識が根底にあったのか、あるいは東京へのあこがれもあったかも知れず。別に悪気はなかったと思う。  まあ、普通はそれで終わったのだろうが、その時は運が悪かった。  相手は「なんだ、俺も東京だよ。東京のどこ?」となってしまった。そのまま適当に、「田園調布」とか「成城」なんてウソを重ねれば済んだかも知れないが、先の不運が頭をよぎり、さらに悪い方向へ進んだら……と怖くなり、結局しどろもどろになってすごく気まずい思 いをしたことを今も覚えている。  まだ多少は純真だった私はその後、もっぱら「神奈川県から来ました」と言うようになった。  実は遠方に行けば行くほど、「神奈川県」という県への印象が薄くなり、そもそも、横浜や川崎が神奈川県とすぐに合致しない人も多い。なかには「神奈川のどこ? 横浜?」って聞かれたりするが、不思議なものでそこで「川崎です」と答えると、川崎の話題はそれ以上進まないことが多かった。  その一方で、「東京から来ました」で失敗したことも、「東京から来ました」と答えたいあこがれとともに、ちょっとしたトラウマとして忘れらなかった。  その後、東京の会社に就職し、仕事で全国を訪ねることが多くなったが、その時はようやく堂々と「東京からです!」と答えられるようになり、そのトラウマから解放された気分であった。  ところが、「東京」にも東京の悩みがあることを知るようになった。  「東京」と聞くと、相手が急によそよそしくなったり、距離を置くことが多い。  今は少なくなったろうが、ちょっと前までは地方の東京への風当たりというのはとても強かった。  いろいろな理由があるのだろうが、東京者にあまり良い印象を持っていない人が多かったようだ。  何気ない会話のきっかけとなる「どちらから?」というひと言。私の場合が特異なのか、あるいは考えすぎなのかも知れないが、意外や重たい質問であると感じる。  でも、よく考えれば、仲良くなろうとして話しかけているのに、相手の出身地を悪く言う神経はおかしい。  これに学んだ私は、まずは相手の出身地を聞いたら、それを必ず褒めることにしている。  幸い、仕事柄、全国の地理的な知識は豊富なので、その辺の会話には事欠かない。  そしてけなされても気にしなくなった。いやむしろ少しくらいけなされた方が、それを逆手にとって会話を盛り上げる術も覚えるようになったくらいだ。  ところがである。そこにまた転機が訪れた。  金沢に住むようになってからは今までとは様子が変違う。  引っ越してすぐの頃は、金沢市内でよく観光客に間違われ、「どちらから?」「金沢です」「なんや、ほーけ」ってつまらなそうにされたり、他所に行って「金沢から来ました」と言うと、たいていの人は金沢をべた褒めしてくれる。  けなされたり、敵対心を持たれることになれてしまった身には、これはこれで、また戸惑ってしまうのだ。 ○世界に1つの手帳・豆本・製本教室    豆本工房 わかい  応援のクリックお願いします!人気ブログランキングへ  

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