022512 ランダム
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見習い魔術師

見習い魔術師

net-4   【漂着】

「ん・・・」
なぜだか暖かい。
その暖かさに再び夢の中に浸ってしまいそうになる。
そのとき、僅かに開けた目に映った紅い色に、リィは飛び起きた。
瞬間、頭に鈍い痛みが走る。
「い・・・っ!」
思わず頭を抱え込んでしまうような痛みだったが、おかげですっかり目が覚めた。
そして、まず第一に出た言葉は。
「ここ・・・どこ?」
まったくな発言にも、答えるものは誰もいない。
リィはベットから足を下ろしと、ゆっくりと辺りを見まわした。
見覚えのない部屋。
それも当然、本来リィは海の中に漂っていてもおかしくないはずなのだ。
記憶の糸を手繰り寄せながら、リィはその紅い部屋を「観察」した。
絨毯は柔らかく、毛も長い。
ベットは天蓋つきで、薄く紅い布が流れている。ベット自体は、身体の半分も沈んでしまいそうにふかふかだ。
掛布など、まるで羽のようだ。
幾つかの家具はあるものの、部屋全体に比べたら玩具のよう。
随分と広く、一体何人の大人がこの部屋で暮らせるのだろうと、リィが思わず考しまったほどだ。
広い窓の向こう側から、眩しい陽光が入ってきている。
とすれば、今は昼なのだろう。
リィは思わず溜息をついた。
それにしても、なんと紅い部屋だろう!
カーテンもベットも絨毯も、皆血のように紅い。
違うのは木で出来た家具と、彩色に用いられている金の飾り程度だ。
それが逆に、異色に見えてしまう。
それほどまでに、紅い。
リィはゆっくりと立ちあがると、窓に手をかけた。
「・・・あれ?」
押しても引いても、びくともしない。
今度はドアに向かい、同じ事をしてみた。
しかし、やはりびくともしない。
「・・・・・・」
リィはしばらく立ち尽くすと、突如ニッと口の端を持ち上げた。
「ああそうですか。・・・ならっ!」
リィはヒュッと息を吐くと、ドンッと扉に体当たりをした。
・・・その、とき。
ガチャリ、という音と共に、扉が開いた。
「きゃぁぁぁぁっっっ!!?」
リィは勢い余って、そのまま廊下にぶつかった。
「いっっったぁぁぁ・・・」
潤んだ瞳でリィが顔を上げると、扉の後ろに半分隠れるようにして、少女が慌てたように瞳を潤ませている。
紅いメイド服を着ている。
「あ、あのっ、私ったら、なんてことを・・・!あ、ああ・・・」
今にも泣きそうな少女に、慌てたのはりィの方だ。
「え?あ、いや・・・っ私は平気だから、うん、それよりあなたは?」
「へ、平気です、けど・・・!ご、ごめんなさ・・・っ、私・・・、わた・・・っ」
「ああっ、泣かないでー!!」
ついにボロボロと泣き出した少女に、リィは大慌てで両手を振った。
「私は平気だって!そ、それより、何か用なんじゃなかったの?」
「あ、はい、そうでした!」
少女は涙を拭うと、可愛らしく微笑んだ。
「ご主人様から、お客様の御世話をするよう仰せつかいました、侍女のマリーですわ。ご用があれば、なんなりとお申し付け下さいませ」
「・・・は?」
少女―――マリーの言葉に、リィは目を白黒させた。
「あ、あの・・・?ご主人様って?」
すると、誇らしげに微笑んだ。
「ご主人様は、バイズム卿と仰いますの。浜辺に漂着なさっていらしたあなた様・・・えーっと、お名前は・・・」
「リィでいいわ」
「では、リィ様。ええと、そう、漂着なさっていらしたリィ様を、バイズム様が拾われましたの。あ、申し訳ありません、拾われたなんて・・・!」
すっかり恐縮してしまったマリーに、リィは軽く手を振った。
「ううん、いいわよ、別に。それで?」
「ええ、それでバイズム様はりぃ様がこの館でご不自由なさらないようにと私を。それで、目を覚まされたようなら一緒に食事をと・・・。まあ、大変、そうでしたわ!」
突然、パンと手のひらを叩いたマリーに、リィはえっ、と身体を引いた。
「さあさ、リィ様!早くお着替えになりませんと!バイズム様がお待ちですわっ」
「えっ、ちょっ・・・、マリーちゃん・・・?」
がっしと腕を掴まれたリィは、慌ててマリーに声をかけた。
「きがえって・・・?」
「マリーで結構ですわ!さあ早く、ドレスに着替えられませんと!」
「ド、ドレスっ!?」
真っ青になったリィに構わず、マリーはさっさと扉を閉めた。






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