net-6 【悪魔】「ふーん、それで?」 「ああ、それで・・・ってお前ら」 エルマは話を続ける前に、思わず口を開いた。 「本当に聞く気あるのか・・・?」 「えーなんでさ?」 「いや、なんでって・・・どう見ても・・・」 確かに、だれがどう見ても同じ答えをだすだろう。 美しい黒髪に、同じく黒の双眼を併せ持つ、その美女と少年は。 公園であるにも関わらずかなりゆったりと、まるで我が家で寛いでいるかのように木製のベンチに腰をかけている。その手にあるのはどうやら鳥の餌らしく、少年の方がぱらぱらと地面に撒くと、鳥達が更に舞い降りてくる。 そんな様子に、エルマはふっ・・・と遠い目で溜息をついた。 明るい日差しの中でも、彼らはかなり人目を引く。 本来黒いそれは、太陽のような激しい光とは相容れぬもの。 闇の中の仄かな星や月明かりで、その輝きは不気味なほどに輝くことを知っている。 けれど。 なぜだろうか。 エルマは思う。 なぜ激しく、燃えるような日の中で、これほどまでに目を引くのか・・・? 全てのものはその相反する場で、必ずといっていいほど、奇妙な違和感ゆえに人目を引く。 けれど、それだけではないのだ。 この二人は。 目をやると、未だ静かに微笑んだままのエンズと、鳥に餌をやっているイェルダ。 ・・・その微笑は、なんの意味をもっているのだろうか。 まるで風のようにただすり抜けていくだけの、とらえどころのない。 いっそ不気味だと、言い切りたくなるのに、それさえも叶わない・・・。 一体なにを考えている? 突然に現われ、当然の如くこの場にいる。 ―――わからない。 「あのさぁ」 突然呟くように言ったイェルダに、エルマは自分の思考に捕らわれていたことに気付いた。 同時に、唖然とした。 ・・・死んでも、おかしくなかった。 その事実と、「まだ生きている」という事実に。 「・・・なんだ?」 自分にいう。落ちつくようにと。 少なくとも自分は、今、まだ生きているのだから。 そんなエルマの内心を見透かしたように、イェルダは浅く息を吐いた。 「どうでもいいけどさ。あれ、なんとかならない?」 イェルダにいわれ、エルマはえっとその指差した先に視線をやった。 「あの緑マント」 「緑マントいうなぁーっ!!」 カルドトラはキッとばかりにイェルダを睨みつけた。 もっとも、同時にぶわぁっと涙をこぼしながらでは、さした効果があるとも思えないのだが。 ついでに「それをいっていいのはリィだけじゃー!!」とか泣き叫んでいるあたり、すでに終わっている。 「そうよねぇ・・・」 エンズの言葉に、エルマとイェルダは振り返った。 「確かに、これだけ泣き叫ばれたら話も何も、ねぇ・・・」 エンズはしおらしく儚げな様子で溜息をつくと、うるっとその宝石のような瞳を潤ませた。 「あの娘がいなくなって悲しいのは、私も同じなのに・・・っ」 その瞬間、周囲がざわりと波打った。 エルマがしまった、と思う間もなく、今度はイェルダがしおらしくエンズに触れた。そのまま、「姉」の目元にハンカチをあてがう。 「姉さん・・・」 もう一度、周囲がざわっと波打った。 ―――次の瞬間。 「お嬢さんっ、大丈夫ですかっ」 「さあハンカチをっ!」 「キミどうしたの?」 「なにかあったの、いじめられたのっ?」 「お嬢さん、あなたの美しい瞳を曇らせるのは一体・・・っ!?」 「ああ、こんな歳で可哀想に・・・!」 どざぁっと詰め寄せた人々に、エンズもイェルダも儚く微笑んだ。 「大丈夫ですわ・・・、なんでもありませんの・・・」 「なんでもないよ、ありがとう・・・」 周囲の口から、ほう・・・っと賞賛の溜息が漏れた。 おそらくは、「なんと美しい姉弟なんだろう」とか、「こんなに儚げでなんてしっかりしているのだろう」といったあたりか。 エルマの予想は、どうやら外れてはいなかったようだ。 一人の、外見はおよそイェルダより幾らか幼いくらいだろうか、少女がおずおずと差し出したその手には、ふたつの飴玉が乗っていた。 「あの・・・これ・・・」 イェルダはそれを受け取ると、可愛らしく微笑んだ。 「ありがとう」 少女がパッと顔を輝かせると同時に、周囲が騒然とした。 「お、オレも・・・っ」 「私もこれっ」 「僕も・・・」 「わ、私・・・」 我も我もと差し出されたものやらお金やらにエンズとイェルダはいちいちお礼をいいながら、やっと人々が去ったときには、すでに太陽の位置は変わっていた。 「・・・・・・」 エルマは二人が抱えている大量の「贈り物」を見て、考えるよりも先に呟いた。 「悪魔だ・・・」 「あら」 その言葉に、エンズはふわりと微笑んだ。 儚げどころか、いたずらっぽい顔で。 「そんなの、今更じゃない?」 エルマが溜息をつきそうになったとき。 不意に背後から、「聞いたことのある声」が聞こえた。 「やっ!元気そうだねぇ?」 流れる、銀糸のような。 白い肌に、線の細い・・・。 ティラが、ギリ、と掌に形の良い爪を食い込ませた。 |