022520 ランダム
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見習い魔術師

見習い魔術師

net-7   【食卓】



食事は美味しい。
口に運びながら、だれが作ったんだろう、なんて考えるくらいには。
ただ・・・、けど・・・。
ぱくぱくと口だけを動かしながら。
リィは思わず零しそうになった溜息を飲み込んだ。
もっとも、口にスープをくわえている以上、実際に飲み込んだのはそのスープだったのだが。
その美味しさに、再び溜息をつきそうになる。

リィは、今、確かに食事をしていた。
否応無しに着せられた、淡いピンクで裾がふわっふわに広がった、何とも窮屈なドレスに身を包んで。
恐ろしいほどに美しい、豪華な食事の数々を目の前に。
長い、長ーい食卓と、これまた豪華でふかふかな椅子に腰をかけて。
天井にはシャンデリア。
足元には柔らかな絨毯。
今は不要なその巨大な暖炉は、煤でくすんだところなど一分もない。
ただ、食器が触れるカチャカチャという音が、いったい何十人入るであろう、給仕さえいない広すぎる部屋に響いている。
一人なら、まだいい。
礼儀作法なんかそっちのけで、美味しく頂くであろう事くらい、自分でも分かる。
ただ、ひとつ。
ひとつだけ、問題があった。
即ち・・・―――。

「どうした。口に合わないか」
エルマのものではない、随分と低く感じる声。勿論、「カルちゃん」のものでもない。
事実、随分と低いその声に、リィは僅かに肩を落とした。
目敏くそれを見て取ったのか、その「男」は再び口を開いた。
とはいえ、そのあまりに長いテーブルの反対側にいるのだから、「開いたと思う」、というのが正解であろう。
「口に合わぬなら、作り直させるが」
「これ以上食べたら太るわよ」
その言葉に、リィは吐く息と共に思わず呟いた。
一拍置いて、にっこりと微笑む。
「いいえ、結構ですわ。こんなに美味しいお料理ですもの、これ以上食べたら太ってしまいますわ」
そのあと、ころころと微笑むのも忘れない。
いつのまにか身についていた、彼女曰く「お上品で寒気の走る“レディのたしなみ”」とやらを実行しながら、リィは心の中で今度こそ溜息をついた。

どうやら、自分つきの「侍女」らしいマリーに聞いたところによると、どうやら向かい側に座る男は、リィを助け、そしてこの豪勢な館の主でバイズム卿―――ルグオラ・バイズム卿―――というらしい。
「長年、カウティーラ陛下に仕えておいでですの」と誇らしげにいうマリーに、リィはなんともいえない微笑で応えた。
カウティーラ陛下?誰の事だろうか?
「今はディラウカ14世がこの国を統治しているのではなかったか?」
記憶の糸を手繰り寄せ・・・思い出した。
ラズオナ・カウティーラ。この国がまだユクサネ公国とオリダラ公国に分かれていたとき。
オリダラ公国を統治していた王の名前だ。
もっとも、僅か43歳で病に倒れ、そのまま返らぬ人となった。
その後、新たな王が立つ前にこの2国がひとつの国になり、彼の名を継ぐことはなかった。
彼が亡くなりまだ数年ならば、こんな小さな島だ。
情報が遅くとも仕方ない。
・・・だが。
それは。
ありえない。
あるわけがない。
なぜなら、彼は。
カウティーラ王が亡くなったのは。
「3200年前のことだからだ。」
ありえない。
あってはいけない。
誰も間違える事のない王に、誰が仕えるというのだ?
そのときだった。
見たのは。
見つけてしまったのは。

マリーから「生えた」、そのしなやかに揺れる尾を、見つけてしまったのは。





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