net-7 【食卓】食事は美味しい。 口に運びながら、だれが作ったんだろう、なんて考えるくらいには。 ただ・・・、けど・・・。 ぱくぱくと口だけを動かしながら。 リィは思わず零しそうになった溜息を飲み込んだ。 もっとも、口にスープをくわえている以上、実際に飲み込んだのはそのスープだったのだが。 その美味しさに、再び溜息をつきそうになる。 リィは、今、確かに食事をしていた。 否応無しに着せられた、淡いピンクで裾がふわっふわに広がった、何とも窮屈なドレスに身を包んで。 恐ろしいほどに美しい、豪華な食事の数々を目の前に。 長い、長ーい食卓と、これまた豪華でふかふかな椅子に腰をかけて。 天井にはシャンデリア。 足元には柔らかな絨毯。 今は不要なその巨大な暖炉は、煤でくすんだところなど一分もない。 ただ、食器が触れるカチャカチャという音が、いったい何十人入るであろう、給仕さえいない広すぎる部屋に響いている。 一人なら、まだいい。 礼儀作法なんかそっちのけで、美味しく頂くであろう事くらい、自分でも分かる。 ただ、ひとつ。 ひとつだけ、問題があった。 即ち・・・―――。 「どうした。口に合わないか」 エルマのものではない、随分と低く感じる声。勿論、「カルちゃん」のものでもない。 事実、随分と低いその声に、リィは僅かに肩を落とした。 目敏くそれを見て取ったのか、その「男」は再び口を開いた。 とはいえ、そのあまりに長いテーブルの反対側にいるのだから、「開いたと思う」、というのが正解であろう。 「口に合わぬなら、作り直させるが」 「これ以上食べたら太るわよ」 その言葉に、リィは吐く息と共に思わず呟いた。 一拍置いて、にっこりと微笑む。 「いいえ、結構ですわ。こんなに美味しいお料理ですもの、これ以上食べたら太ってしまいますわ」 そのあと、ころころと微笑むのも忘れない。 いつのまにか身についていた、彼女曰く「お上品で寒気の走る“レディのたしなみ”」とやらを実行しながら、リィは心の中で今度こそ溜息をついた。 どうやら、自分つきの「侍女」らしいマリーに聞いたところによると、どうやら向かい側に座る男は、リィを助け、そしてこの豪勢な館の主でバイズム卿―――ルグオラ・バイズム卿―――というらしい。 「長年、カウティーラ陛下に仕えておいでですの」と誇らしげにいうマリーに、リィはなんともいえない微笑で応えた。 カウティーラ陛下?誰の事だろうか? 「今はディラウカ14世がこの国を統治しているのではなかったか?」 記憶の糸を手繰り寄せ・・・思い出した。 ラズオナ・カウティーラ。この国がまだユクサネ公国とオリダラ公国に分かれていたとき。 オリダラ公国を統治していた王の名前だ。 もっとも、僅か43歳で病に倒れ、そのまま返らぬ人となった。 その後、新たな王が立つ前にこの2国がひとつの国になり、彼の名を継ぐことはなかった。 彼が亡くなりまだ数年ならば、こんな小さな島だ。 情報が遅くとも仕方ない。 ・・・だが。 それは。 ありえない。 あるわけがない。 なぜなら、彼は。 カウティーラ王が亡くなったのは。 「3200年前のことだからだ。」 ありえない。 あってはいけない。 誰も間違える事のない王に、誰が仕えるというのだ? そのときだった。 見たのは。 見つけてしまったのは。 マリーから「生えた」、そのしなやかに揺れる尾を、見つけてしまったのは。 ジャンル別一覧
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