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颯HAYATE★我儘のべる

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司×つくし: 罠?

■罠?■


気分が悪い・・・

最近目覚めが悪い。なんだかフラフラするし、いつも気分が悪い。

風邪でもひいたのかな?

熱はない。今日の講義ははずせない。大学に行かなくちゃ・・・

重い身体をムリヤリ起こしてベッドから出る。





大学に進学してしばらくしてから私は一人暮らしをはじめた。

実家にいるほうがお金はかからないだろうけど、どうしても自分を試したかった。

父親もまともに就職したし、母親もパートにでている。弟の進もバイトを始めた。

ある意味、今の牧野家は裕福だ。(今までに比べれば)

今でも私はバイト三昧だし、給料の三分の一は実家に渡しているのでギリギリの生活。

それでも手に入れた私だけの楽園は1DKで下町のはずれにある。昔懐かしい雰囲気のアパート。

はっきり言って、F4や滋さんや桜子にすれば人の住むところではないと言うに違いない。

でも、私は一人で頑張って成長した「私」という存在で、あと2年半で迎えに来てくれるはずの男を迎えたかった。

あと2年半・・・まだまだ先は長い。

考えだすと止まらなくなる想いをとりあえず封じた。





とにかく弁当だ。弁当をつくろう。

大学に弁当を持参するヤツなんて私くらいのものだ。

お金持ちの集まる英徳では「学食=超高級レストラン」

みんな、それを利用し弁当持参の者など一人もいない。

たま~に「今日はお弁当を持って参りましたの~」

なんて言うお嬢様がいるけど・・・あれは弁当なのか?

弁当というより「シェフを持参いたしましたの~」だと思う。

そんな英徳の不思議?を考えつつ

とにかく米を洗い、鍋を火にかける。米が炊き上がる間におかずづくり。

あ、ひさしぶりに類にも作ってあげようかな。西門さんや美作さんは文句ばっかりだけど、類はなんでも食べてくれる。

ご飯のお鍋からお湯が吹き零れる。炊きあがろうとしている。

ん?この匂い・・・

「う・・・」

思わず、うめき声をあげて口を塞ぐ。吐きそう・・・慌ててトイレに駆け込んだ。

便器につかまり激しく嘔吐した。

悪いものでも食べた?

そんなことを一瞬考えたが、それどころじゃない。

ここ数日、あまり気分がよくなかったので食事をまともにしていなかった。

その為か何度もこみ上げる吐き気に胃液しか出すものが無くなっていく。

きつい・・・

立っていることができずに便器の脇に座り込んでしまった。

どうしたんだろう。

キッチンから焦げ臭い匂いが漂ってくる。

あ、ご飯が焦げてる。火を止めないと火事になっちゃう・・・

力の入らない足をムリヤリに持ち上げ、ふらつきながら一歩一歩コンロへと近づいていく。

何とか火を止めるとそのまま座り込んだ。

・・・ちょっと待って。そういえばアレがこない。もう2ヶ月ないんじゃない?

もしかして・・・妊娠とか?

いや、そんなはずはない!

でも月に一度は必ずやってくるヤツが2ヶ月もこない。

別に生理不順ってわけでもないのに気がつかないなんて・・・

自分の鈍感さに呆れてしまった。

原因はわかっている。フランスでの静さんの結婚式だ。それしか有り得ない。

だって、その時に司と初めて愛し合って勤労処女返上したんだもん。

って冷静に赤ちゃんが宿ったのはいつ?なんて考えている場合じゃない!

どうしよう。いや、まだわからない。とにかく確かめなくちゃ。

いや、その前に学校よ!

学費はすでに納めてあるんだから、意地でもいかなくちゃもったいない!






大学に来たのはいいが、周りのヤツらのコロンがたまらない。

あんたたち、みんな臭いのよ!

英徳は金持ち学校だ。きっとみんな超お高い香水をつけているのだろうが

私にとってはただの「匂い」でしかない。それも最悪の。

結局、余計に具合が悪くなっただけで講義の内容は記憶にない。

なんのためにこの地獄に足を運んだんだろう・・・






今日はバイトを休み、薬局に寄った。

もちろん、購入するのは「妊娠検査薬」

家に帰り着くなり、トイレに駆け込み検査実行。

99%わかっていたとはいえ、証拠を突きつけられるとやはりショックだった。

結果は陽性。つまり妊娠おめでとうってこと。

あれが最初で最後なのに。たった一回でヒットってどういうこと?

ありえないっつうの!!

どうしよう。とにかく道明寺に連絡・・・しないといけないよね。

でも、なんていうの?約束の4年まであと2年半もあるのに。

『道明寺、たった一夜のセックスで妊娠しちゃいました~』

言えるか!!

『おめでとう。もうすぐパパだよ』

って新婚夫婦か!?

『避妊してくれなかったのね!』

違う!私だって避妊なんて考えもつかなかったし、責めてどうするんだ。

道明寺だって童貞だったんだし、きっと考えつかなかったのよ。

『道明寺、愛の結晶がここにいるの』

・・・絶対にアイツは理解できないだろうな・・・

ああ!もう!なんていえばいいの?

道明寺に電話する前に医者。そうよ、検査薬だっていろんな状態によって間違うってこともある。

医者に診てもらって、その結果で道明寺よ。

・・・でも、産院なんて・・・怖くていけない。

どうしよう、道明寺・・・

F3に相談・・・絶対にダメ!

あいつらに相談したら秘密も秘密じゃなくなる!






グダグダと考えていたらすでに夜中になっていた。

「疲れた・・・」

気分はいまだに優れないし、フラフラするし。

「寝よう。寝て起きたらきっと何か変わっている」

多少、現実逃避しながら私は眠りについた。

夢も見ずにぐっすりと眠った。

ただ、何も考えずにひたすら眠った・・・・





いくら現実逃避をしても朝はやってくる。

「医者だよね」

起き抜けに考え、口にでた言葉。

結局は医者に診てもらうのが一番なのだが

産婦人科というのは未婚の私には敷居が高い。

一人では行きにくい場所。

先生になんて思われるだろう、なんて考えるとよけいに躊躇してしまう。

遊んでいる女なんて思われるんだろうなぁ。

・・・・すっごいマイナス思考・・・・

なんだか私らしくないって自分でも思ってしまうけど

考えだすともう!どんどんネガティブになってしまって。

誰かに一緒に行って貰えればな・・・

「あ・・・優紀!優紀なら」

親友を忘れるなよ~私!

そうよ!優紀なら秘密は守ってくれるし、相談相手としては素晴らしいじゃない!

そうと決まれば電話よ!

こんな簡単な決断なら早い。私はさっそく優紀に電話をかけた。





「優紀?」

「つくし?どうしたの?」

「えっと・・・あの、お願いが・・・」

「お願い!?つくしが私に?珍しいね、何?」

「その・・・あの、えっと」

なんか言いにくいし、恥ずかしい。

口ごもる私の態度に優紀は何かを感じたのだろう。

「つくし!道明寺さんと何かあったとか?」

「え!?いや、あったと言えばあったけど・・・」

要領を得ない私の態度に優紀も訳がわからない。

「どうしたの?」

私は覚悟を決めて・・・

「優紀!一生のお願い!産婦人科に付き合って!!」

・・・無言・・・・

「・・・優紀?」

「つ、つくし、それって」

「うん、実は妊娠したかもしれない。でも一人じゃ行きにくくて」

「・・・わかった。明日バイト休むから、明日行こう。早い方がいいでしょ?」

「・・・ありがとう!優紀・・・」

ああ、やっと気分が落ち着いた。何も解決していないがとりあえずは検査結果待ちだ。

産院で検査を受けてあとのことはそれから考えればいい・・・たぶん。

「つくし、明日は朝一番で行く?どこの病院に行きたいの?」

「できれば家から離れているところ。F3とかに気づかれたくない」

「でも、本当に妊娠していたら道明寺さんには伝えないと」

「・・・・」

「・・・つくし?道明寺さんの子供なんだよね」

「当たり前じゃない!」

そう、それは絶対に間違いない。道明寺の子以外ありえないし。

私はこの世で2番目に処女懐胎した女ではない。

「間違いなければ・・・決心がついたら言うよ」

「・・・とにかく明日検査してだね」

「うん」

「じゃ、明日9時ごろそっちに行くから」






「・・・3ヶ月になるってとこですね。8週の終わりでしょう。最終月経がきちんとわかるとはっきり言えますが」

月一の厄介なヤツはそれなりにきちんとやってくるので、ノートにつけたりしたことはない。

だからきっぱりと何月何日です、なんて言えない。わかんない。

「3ヶ月・・・」

もう絶対に間違いない。そりゃあ、もうフランスだよ。

その時しかありえないんだけどね・・・。

呆然とした私の顔に医者は眉をよせた。

「もしかして中絶をお考えなら、当院ではおこなっていませんので他の医院をお探しください」

え?中絶?って赤ちゃんを殺すってこと!?

一瞬にして正気に返った。

「そんなことしません!産みます!」

そういったとたん、医者の顔に笑みが広がった。

「いえ、失礼しました。お若い上に未婚ですし、悩まれているようでしたので。赤ちゃんのお父さんは・・・」

「わかっています。知らせるつもりです。どうなるかはわかりませんが。でも、どうなっても私は産みますから」

それだけは間違いない。私は道明寺の子を絶対に産む。何があろうと。

「わかりました。貴方は一人暮らしなんですよね。つわりもひどいようですし、実家に戻られるか、しばらくの間は誰かと一緒に生活されたほうがいいのですが」

「・・・私が・・・」

今まで診察室の隅に静かに立っていた優紀が言った。

「付き添いの方・・・えっと」

「親友です」

「ああ、牧野さんの生活を支えてあげられますか?」

「はい、彼が来るまで一緒にいます。大丈夫です」

「わかりました。牧野さん、無理はしなくていいですが、食べられるときは少しでも食べるようにしてください。栄養をつけなくてはいけませんよ。」








「よお、牧野?」

産院を出たとたんに後ろから声をかけられた。

この声は・・・一番会いたくないヤツだよ・・・

優紀と顔を見合わせて、チッと舌打ちをしてしまってから後ろを振り向くと

案の定、いたよ・・・西門総二郎!

というか、西門さんだけじゃなくてF3がお揃いで。

なんで今日に限って集団で行動しているのよ!

「お前ね、女が舌打ちなんかするなよ。俺に会いたくないってことかよ」

その通りだ。

「いや、別にそんなことないけど、朝っぱらから見たい顔でもない」

「この美しい顔に文句でもあるのか?・・・っと、優紀ちゃん久しぶり~」

優紀に向かって女を落とす魅惑の笑顔。この男は・・・!!

「西門さん、おひさしぶりです」

律儀に頭をさげて挨拶する。

「自分で美しいって言えるヤツって嫌い。それにしてもF3揃って珍しいね」

「俺たちはデート、類は・・・何してたんだ?そこで偶然にあったんだよ」

答えたのは美作さん。

「牧野、子供できたの?」

・・・・・この場にいる全員が凍りついた。

どうして何の脈絡も無く突然にそんな質問ができるんだ?花沢類!

西門さんも美作さんも目を見開き、硬直している。

「は、花沢類ってば何言ってるの?」

視線が泳ぐ。優紀に助けを求めて視線を送ったが、優紀もどうしていいのかわからずにただ私を見つめていた。

「だって・・・ここから出てきたでしょ?」

そういって類が視線を向けた先は・・・当然、さっきまでいた産婦人科。

どうすればいい?どうすれば誤魔化せる?

なぜか真実を言うという選択肢は考えられなかった。

「み、見たの?えっと・・・あの、そうよ!産婦人科っていうのはね、妊娠したときだけじゃないの。婦人病には産婦人科なのよ!」

何かのキャッチコピーか?というようなセリフを言ってしまった。

あきらかに怪しいだろう・・・

西門さんは私を凝視している。この人は結構危険人物なのよね。

真実がわかるとどういう行動にでるかわからない。

「なんであわててるの?動揺してるよね」

「ど、動揺なんてしてない!」

「ふ~ん・・・」

何よ、その目は!!絶対に納得してないな。どうしてこの男は鋭いのだろう。

「ね、優紀ちゃん、牧野って妊娠しているの?」

おい!西門~・・・!!

突然、質問された優紀はちょっとドギマギしていたが、チラリと私の顔を見て答えた。

「さあ?私にはわかりません。わかるのは本人だけでしょう」

「でもさ、一緒に産婦人科から出てきたよね」

今度は美作さんが聞いてくる。どいつもこいつも・・・

「はい。でも診察室に入るのは一人だけですし、病名は他人には教えてくれません」

そういってニッコリと笑った。ナイス!優紀!

「何か隠している・・・」

しつこい!!花沢類!!

類はまだ疑惑のまなざしを向けている。

「別に隠してない!それにあんたらに話す必要もない!」

「やっぱり隠していることがあるんだ・・・」

ホンットにしつこい!

「なんでもないったら、なんでもないの!」

そういい捨てると優紀の手を掴んで彼らの前から逃げた。

とにかくドンドン歩いていく。

あいつらから離れなくては・・・・






「・・・どう思う?」

「妊娠してんだろ?」

「総二郎・・・お前かんたんに言うね」

「・・・僕もそう思う。牧野は妊娠してる。隠し事できないよね」

総二郎も類も正しい。俺もそう思う・・・。

あきらはため息をついた。

「追いかけるか?」

「そうだね」

「面白いしな~。司の子ってことだろ?」

「それしか考えられないし。」

「って、フランス?いつのまにか勤労処女を脱していたんだな。気づかないとは迂闊だったな」

「・・・フランスだろうな。それしかありえないし」

「だね」

3人はとにかく二人のあとを追うことにした。

珍しく・・・走って。







「つくし、ちょっとつくし!そんなに乱暴に歩いちゃいけないよ!」

優紀の呼び声にハッとなった。そうだ、わたしのお腹には道明寺の子がいるんだ。

赤ちゃんに何かあったら大変だ・・・

「・・・ごめん、あいつらに会って動揺しちゃって・・・」

「はやく道明寺さんに伝えないといけないよ。秘密にはできないから」

「うん、わかってるんだけどさ。道明寺の負担になるんじゃないかって」

「つくしったら!道明寺さんは喜ぶに決まってるでしょ!?」

「それはね。でも私は4年待つつもりだったし、道明寺だって4年はNYで頑張るつもりでしょ?

その4年にはまだあと2年半もあるんだよ。」

「どうなるかはわからないよ。とにかく道明寺さんには伝えないとダメ。

赤ちゃんは二人の赤ちゃんなんだよ。勝手に決めちゃいけないと思うよ。

ね、つくし、赤ちゃんはあと6ケ月もすれば産まれるんだよ。

ちゃんと誕生を喜んでくれるお父さんがいるのに私生児にする気?

違うよね。道明寺さんと話あってどうするか決めないとダメだよ?」

「そうだよ牧野。司に言わないとね」

びっくりして振り向くと、F3が立っていた。追いかけてきたのだろうが息もきれていない。

「・・・聞いちゃった?」

「肝心なところはね」と花沢類。

「司の子だろ?」と聞いたのは西門さん。

「大丈夫か?」と心配そうに聞いたのは美作さん。

今更隠しても仕方ないよね・・・。あっけない秘密だったな。

でも、どうせなら最初に知らせるのは道明寺にしたかった。

私がグダグダ悩んだ結果がこれだけど・・・

「うん、どうしたらいいのかな・・・」

「決まってるだろ、司に言えよ」

「あんたたち・・・私に黙って道明寺に知らせないでよ!?」

「言わないよ。司を喜ばせても嬉しくない。ずっと黙ってる」

いや花沢類、ずっと黙っている必要はないけど・・・また道明寺で遊ぶつもりなんだね・・・

「あのな、こんなところで話すことでもないだろ。場所変えようぜ」

「そうだな。俺んちでいいか・・・?」

美作邸か・・・以前行ったが、メルヘンだったな・・・







「相変わらず、すごいね」

美作邸は相変わらずのメルヘン。ピンクと白のかわいい世界。

以前はウサギ型の椅子はだったものは、いつのまにか・・・ハート形。

それはそれで可愛いのだが、座りにくそうだ。

「お袋が変わらない限りこのままだろ?それより、なんでもいいけど牧野、どうするんだ?」

「いきなり本題?」

「お前、こっちが切り出さないと話さないつもりだろ?」

美作さんも結構鋭いな。うやむやにしたい気持ちもあるんだけど・・・

F3相手にそれは無理な相談だろうな。

こんな楽しい?話題にお祭りコンビ西門&美作は絶対に飛びついて咥えて離さない。

なんって嫌なヤツ・・・人の悩みは蜜の味。

自分たちが楽しいならそれでよしってところがあるからなぁ。

「司に言えない原因は何なんだ?」

「言えないっていうか、負担になりたくないだけ。それにあの魔女の存在も怖い。

子供ができたなんて知ったらどうでるか・・・。堕ろせなんて言われたら立ち直れない。

でも、魔女にとって私は邪魔でしょ。子供はもっと邪魔だよね」

「あのなぁ、負担って司が言ったのか?お前のことなら負担に思うことなんてない。

それに子供のおかげでもしかしたら4年が縮まるかもしれないとなると大喜びだろ。

お前は何でも考えすぎなんだよ。さっさと司に連絡しろ!」

う・・・私だって悩みたくて悩んでるわけじゃない。

大学も辞めたくない、きちんと卒業したい。

子育てできるかも不安だし、どうしていいのかわからないだけなのに。

「牧野、声にでてるよ」

花沢類の肩が揺れている。・・・笑っているのだ。

私はまた考え事を口にだしていたようだ。

「その気持ちをそのまま司に言えばいいんじゃないの?」

「類ってば、簡単に言わないでよ」

「簡単なことだろーが」

メイドさんがお茶を持ってやって来た。黙って、お茶とおいしそうなお菓子を置いて出て行く。

「西門さん・・・簡単って・・・」

「ほれ、お茶。何か飲めば気持ちも落ち着く」

「・・・あれ、緑茶?」

「こういう時はカフェインとかよくないだろ。」

「・・・そうなの?」

「・・・赤ちゃんに悪いんじゃねぇの?」

「それより牧野、ここから司に電話しろ」

美作さんが携帯を差し出す。・・・携帯でNYに電話?・・・

こいつらの金銭感覚って・・・それに携帯って国際電話可能なんだ・・・

「お金がもったいないからいい!!」

「お前ね、俺の電話だから俺が払うんだろ~が!とにかく電話しろよ」

そういってムリヤリ私の手に電話を握らせる。

どうしよう・・・F3の顔を見回して恐る恐る携帯の番号に手をかけた。

空で覚えてしまっている道明寺の番号をゆっくりと押していく。

出てほしくない気もするし、絶対にでてほしい気もする。

矛盾した気持ちの中で番号を押す。

無機質な音が電話から聞こえる・・・

道明寺を呼び出す音。

RRRRR・・・ワンコール

鳴った!と思ったとたんに道明寺が出た。

「もしもし!!」

道明寺の慌てたような大きな声。

「もしもし!!牧野じゃねぇのか?」

え??これって美作さんの電話だよね。なんで私からだと思うの?

「牧野だろ!!返事しろよ!」

「うん・・・っていうか、なんでわかったの?」

「あ?なんとなく。直感?」

「・・・ふ~ん・・・これって美作さんの電話なのにね?・・・」

直感?直感でもおかしいでしょ!? 人の電話だよ?

「どうでもいいじゃねぇか、そんなの。それより、どうした?」

「え?え、えっと・・・なんでもないけど」

それを聞いたF3が呆れて頭を振っている。

美作さんがジェスチャーで早く言えよ!と伝えている。

それはわかってるけどさ。

「なんでもないことないだろうが!さっさと言え!」

「・・・なんでもない!」

そういうなり、私は携帯の電源を落とした・・・何やってるの?わたしってば!

「「まきの~」」

美作さんと西門さんが疲れたようなため息をついた。

花沢類は・・・笑っている。そんなにおかしいか!?

「なにやってるんだよ!」

美作さんが携帯をとりあげ、また番号を押そうとしていると今度は私の携帯がなった。

道明寺に渡された専用の携帯・・・間違いなく道明寺からだ。

「司だろ。はやくでろ。そして言え!」

西門さんが仁王立ちになり、私に指を突き出す。

珍しいポーズだ・・・

「つくし、ちゃんと言わないとダメだよ。大事なことだよ、隠していいことじゃない」

今まで黙っていた優紀が見るに見かねたのか口をだした。

「優紀、わかってるいんだけど・・・うん、頑張るから」

私は携帯を取り出し、少し躊躇しながら通話ボタンを押す。

「もしもし?」

「てめぇ!!なに切ってるんだよ!」

「ごめん・・・」

「どうしたんだ?」

私の声に何かを感じたのか道明寺の声も優しくなる。

「わたし・・・わたしね、妊娠したみたいなの!!」

とにかく一気に言葉にしてみた。

あたりが静かになった気がする。音がしない。

F3も優紀も黙って成り行きを見守っている。

道明寺、はやく何か言って・・・お願い!

「ど、道明寺・・・・?」

「マジか?」

どういう意味だろう。まさか、困っているとか?

「うん」

「マジなんだな?」

「・・・うん」

「医者は?」

「今日・・・診せた」

「じゃ、本当に子供ができたんだな?」

「うん」

「ちょっと待ってろ」

そういうとなぜか電話が切れた。

どういうこと?

とりあえず妊娠のことを伝えたので気持ちが落ち着いてきた。

「おい、牧野?司はなんだって?」

「わかんない。ちょっと待ってろって」

「・・・ま、司もいきなり深夜に妊娠を告げられてびっくりしてんじゃない?」

花沢類の冷静な言葉にキョトンとしてしまった。

深夜?なんで?

時計を見ると、すでに昼の1時を過ぎていた。

朝一で産婦人科に行って、そしてF3に会ってここに連れてこられて

ゴタゴタとしていて時間のたつのがわからなかった。

あれ?日本は現在・・・13時。つまりお昼の1時。

NYとの時差って何時間だったっけ?

確か・・・14時間くらいだよね。

ってことは・・・深夜っていうか早朝3時??

うっそ!!道明寺ってば大丈夫かな・・・?

すると突然、携帯が鳴った。

着信を見てみると・・・司。

「もしもし?」

「牧野?準備できたから。」

「は?」

「とりあえず・・・あきらの携帯ってことは今、あきらんちか?」

「うん、美作さんち」

「そこで待ってろ。また連絡するから」

そういうとまた電話は切れた。

なんなんだ!いったい!!

「「で?」」

西門さんと美作さんが興味津々という顔で聞いてくる。

「ん・・・なんか、ここで待ってたら連絡をするらしいよ。わけわかんない!!」

F3は顔を見合わせニヤリ・・・

なんだ?あんたたちには何かわかるのか?

「そっか、司がそういうんなら仕方ないよな。ゆっくり待ってようぜ。」

「だな、あ、優紀ちゃんも一緒にね。」

「あ、ありがとうございます。でも・・・もう道明寺さんには伝えたし、私がいなくてもつくしは大丈夫みたい。夕方からバイトだから・・・」

「あ、ゴメン。優紀・・・ありがとう」

親友を振り回してしまった。要らぬ心配をかけてしまった。




出かけていた少女趣味のお母さんがどこかから帰ってきた。

そしてその少女趣味の犠牲?双子ちゃんもお母さんとおそろいの服でやってきた。

「「つくしお姉ちゃま!」」

初めてここを訪れたときは「お兄ちゃんは渡さない」と敵意をもって見られたが

いまではなぜかお姉ちゃまと呼ばれるまでに・・・なぜ?

「つくしお姉ちゃま、おひさしぶりです。今日は泊まっていかれます?」

「え?いや・・・」

両脇をいきなり双子に捕らえられた。どっちがどっちだろ?

「泊まっていってください。お兄ちゃまも泊まっていってほしいって」

「道明寺から連絡が・・・来たら帰るよ。ごめんね?」

「「・・・道明寺のお兄さん?・・・」」

「芽夢、絵夢、自分たちの部屋にいってろ。俺たちはちょっと話があるから」

二人はちょっと悲しい顔をして、手をつないで部屋を出て行った。

「なんか・・・双子ちゃんに悪かったな。大好きなお兄ちゃんを取っちゃって」

「あいつらの甘えより、今はお前らのことの方が大事だろ?」

「ありがと、ごめんねぇ・・・迷惑かけちゃって」

「迷惑なんかじゃないよ。本当にあんたは謝るのが好きだよね」

類はそう言って、私の頭をポンポンと叩いた。

ささいなことなのに気分がよくなった。

類はいつも私の気持ちを優しくする、不思議な存在。

なんで私は花沢類をずっと愛さなかったのかな。

道明寺より類との恋愛のほうが楽だっただろうに・・・

「苦労するのが好きだからじゃない?」

・・・げ!また声に出してた??

私はおずおずと類の顔を見た。・・・笑っている・・・

声に出してたんだね、この癖、本当になんとかしなくっちゃ!!!

「なあ、牧野、司は来るって言ったんだよな?」

来る?そう言ったっけ? いや・・・道明寺は準備ができたって言った気がする。

いったい何の準備ができたっていうんだろう。

「・・・なんか、準備ができたって言ってたけど」

総二郎とあきらは顔を見合わせて笑った。

「それなら、来るってことだろ。たぶん、そんなに待たなくていい気がするな」

「「俺も」」

類と総二郎があきらの言葉に同意する。私には訳がわからないんですけど?

「どういうこと?」

「司が来ればわかるよ。でも今からだと、どんなに急いでも日本に着くのは早朝だな。牧野、お前泊まっていけよ」

「ええええ?やだよ。」

「なんで?俺んちなら安心だろ、お袋と双子もいるし。安心しろよ、お前に魅力を感じてないから誘惑はしない。」

「誘惑って、そんなあんたね・・・」

「帰ったら、明け方にお前のアパートに司が乗り込むことになるぞ。いいのか?」

想像すると恐ろしい。アイツのことだ、近所のことも考えずに大声で叫びそうだ。

「私が泊まって大丈夫なの?」

「お前んちじゃないからな、部屋はたくさんある。」

「なんか・・・嫌な感じ!! でもそうね、一人になりたくないし、泊めてもらえる?」

「「俺も」」

ってなんで、あんたたちも泊まるのよ!? なんか、完全に面白がってない?

「ふふん、そういうと思ったぜ。見逃せないショーだもんな。部屋は好きな部屋選べよ。牧野は知らないから案内するよ。」

ショーってどういうこと!?なんだか訳のわからないまま、美作邸に泊まることになった。






美作家で賑やかな食事を終え、私は早々に寝ることにした。

朝から産院に行ったり、色々ありすぎて疲れ果てていた。

美作さんに案内された部屋で私は熟睡していた。

どこか頭の隅で音がする、バリバリという音。ちょっとウルサイ。

「うるさい~・・」

寝たまま、つぶやく。だって夢の中の出来事だと思っていたから。

枕を抱えてぐっすりと熟睡。その安眠を脅かす人物が間近にせまっていることも気づかずにぐっすりと寝ていた。

「・・・オイ、起きろ!!!!!」

耳元で大声! 私は驚いて飛び起きた。いきなり目に入ったのはベッド脇の道明寺。

ん?道明寺?

「ええええええ!!あ、あんた、なんで人の部屋にいるのよ、出て行ってよ!」

「はあ?お前、NYから飛んできた恋人に向かって出て行けだと!?」

NY??

「何しに来たわけ?」

「・・・お前、まだ寝ているな。ちゃんと起きろ!」

「起きてるじゃん」

「お前、今自分がどこにいるかわかってるか?」

私は辺りを見渡した。あれ? ここうちじゃない・・・どこ?

「目、覚めたか?」

そうだ!美作さんちだ。まだ完全に目覚めない頭を強く振って、必死で目覚めさせる。

そして『道明寺が来た!』そのことだけに意識を集中させた。

「道明寺・・・」

たぶん私は自分が思っている以上に不安だったに違いない。頑張っていたつもりだけど・・・

道明寺に会いたかった、彼の顔をしっかりと見た途端に涙が溢れてきた。

「道明寺!!」

私は彼に縋り付いて泣き始めた。そんな姿に彼を驚いているようだった。

泣きながらも多少冷静に考えていた。

そうよね、こんな私ってありえない。きっと・・・ホルモンのせい、だって妊婦なんだから。

「お、おい! どうしたんだ?」

私が自分から抱きつくなんて滅多にないことだ、彼は慌てふためいている。

「・・・なんでもないよ。ちょっと安心しただけ。」

そういって笑ったが、彼は私を離さず、しっかりと抱きしめていた。

頭がだんだん完全に目覚めてくると、なんとも恥ずかしい気がする。

だって、私の格好・・・美作さんのお母さんに借りた薄いナイトドレス。

それも私に似合わない超かわいいヤツだよ、わ~本当にありえない、恥ずかしすぎだよ!

「ち・・・ちょっと、どいてよ!!!」

彼を振り切って、ベッドの中にもぐりこんだ。私から抱きついたんだけど、そんなこと考える余裕なんてない。

すっごく恥ずかしいんだから!! 

「おい・・・てめぇ! 俺様がせっかく来たんだぞ、さっさと起きろ!!」

そういうと布団を剥ぎ取られてしまった。信じられない!!

「何するのよ!」

「何するじゃねぇんだよ!! 恋人が久々にお前の目の前にいるんだぞ、することがあるだろうが!」

すること??何、それ。

訳がわからず、顔をしかめていると・・・道明寺の顔が近づいてきた。

彼の唇がゆっくりと私の唇に重なる。気がつくを私は激しく熱いキスを返していた。

「・・・お帰りのキス!! やっと帰ってきたって気がするぜ」

口を離すと彼が言った言葉・・・私は真っ赤になりながら言い返した。

「ここは日本よ! お帰りのキスなんてしないのよ!!」

照れ隠しから言い合っていると、横から声が・・・

「もうケンカしてるの?」

私と彼が声のしたほうに顔を向けると、F3のニヤケ顔がった。

うそでしょ!? なんでコイツらは平気で女性の寝室に入ってこられるわけ??

「道明寺もあんたたちも出て行け!!!」

私は大声で怒鳴って、部屋から4人を追い出した。とにかく着替えなくっちゃ、こんなの着てあいつらの前には出られない。






美作家の広いリビングに入っていくとF4が待っていた。久しぶりに4人揃った姿を見た。相変わらずかっこいい・・・なんかムカつくのはなぜ?

「落ち着いたか? ほら、これ飲めよ。ノンカフェインだから。」

美作さんがコーヒーを差し出しながら聞いた。

コーヒーにノンカフェインなんてあるんだ・・・なんて考えながらカップを受け取る。

「うん、アリガト」

私は横目でチラっと道明寺を見た。なぜ?ちょっと不機嫌そう・・・

「道明寺・・・はやかったね、どうやって来たの?」

「・・・飛行機に決まっているだろ」

彼がそう答えると西門さんと美作さんが噴き出した。

「それだけじゃないだろ、司は空港からヘリを飛ばしたんだよ」

あ、あのバリバリという妙にうるさい音って夢じゃなかったの? ヘリが着陸する音?

ってことは自宅にヘリポートがあるんかい!?

会社にあるのはわかるけど、自宅だよ!?自宅にヘリポートって・・・ありえない。

「お前、本当に妊娠したんだよな?」

そんなことはどうでもいいと言うように司が唐突に聞いてきた。

そう、私って妊娠してたんだよね。道明寺の子供・・・どうしよう。

これからどうなるんだろう。一気に不安が襲ってきた。

現実から多少逃避していたんだけど・・・現実に戻るときが来てしまった。

「・・・うん」

私が小さく頷くと、道明寺の顔は・・・あれ?なんか、めちゃくちゃ喜んでない??

「本当だな? 絶対に間違いないよな?」

「・・・うん・・・」

「医者に確認したんだよな?」

「うん」

「よっしゃあ!!! やったぜ!!!」

なぜ、そこでガッツポーズ? 私も嬉しいけど、あんたには不安はないのか?

なぜ手放しで喜べる? これからどうするつもりだ!!!

「・・・ね、司ってもしかしたら牧野の妊娠を予測していた?」

類の突然の言葉に部屋中が静まりかえった。

「「なるほど」」

西門さんと美作さんがしたり顔で頷いた。何がなるほど、なんだ!?

「道明寺?」

彼は真っ赤になって、しどろもどろに弁解しはじめた。

「よ、予測っていうかよ、そうなればいいな~なんて思ってただけだ!!」

「なんで・・・そんなこと思えるのよ!?」

「牧野、お前って鈍感。ようするに司はフランスで避妊しなかったことに気がついていたってことだろ?

その結果がお前の腹の中にいるわけだし。お前まさか・・・気がついてなかったのか?」

私は真っ赤になって言い返した。

「あ、は、初めてだったのよ! 避妊したかなんてしらないわよ。 道明寺が何かちゃんと手をうってくれてるって・・・」

「・・・お前、いまどき避妊を男まかせってありえねぇぞ。 中学生でもコンドームってものを知っているぞ」

私は更に真っ赤になって、自分でも意味不明の言葉をつぶやいていた。

「ねえ、司、もしかしてわざと避妊しなかったの?」

類の言葉にみんな一斉に道明寺に視線を向けた。

どうなの?? いくら道明寺でもわざと妊娠させるなんてマネはしないよね?

でも、彼の顔は真っ赤になっていた。まさか・・・本当にわざとなの!?

「わ、わざとじゃねぇ!!」

私がじっと彼を見詰めていると彼は目をそらせた。・・・おい!!!!

「本当にわざとじゃねぇ、あとで気がついたんだ!」

「いつ? いつ避妊してなかったことに気がついたわけ!?」

「・・・お前を空港に送っていく車の中だよ!!」

そういえば・・・コイツはなんか様子が変だったな。そんなに早くから気がついていながら、私に言わなかった。

私になんで言わなかったの? 信じられない。 避妊を忘れていた、くらい言ってもいいんじゃないの?

妊娠がわかったとき、私は・・・道明寺だって初めてだったし、避妊なんて考える余裕がなかったんだと思った。

それはそうだったみたいだけど、あとでわかったなら言うべきじゃないの!?

「・・・おまえ、何考えているんだ?」

彼の声は不安そうだ、何を考えて不安になっているのかはよくわからないが。

それにしても・・・ムカつく。

「どうして、言ってくれなかったのよ!!!」

「言っても今更どうしようもないだろ?」

なんだと!? 確かにどうしようもない、ことは終えていたわけだから。

だけど、そういう可能性があることは言うべきじゃないの!?

「ね、司・・・もしかして牧野が妊娠すれば、あと数年待つ必要がなくなると思ったんじゃない? すぐに結婚できるって」

な、なんですって~!! 

「え? いや、ああ、それはマジで考えたぜ? 実際に妊娠したとは思ってねぇけど待たなくてもいいかもってのはな」

き、きさま・・・

私は脳天が沸騰していた。怒りに何も考えられない。

私ってコイツの罠にはまったみたいなもんじゃないの!?

冗談じゃない!!!!!!!

「ど、どうみょうじ・・・あんた、もしかして私からの連絡を待ってなかった?

妊娠したって私が電話してくるのを・・・待ってなかった?」

「待ってたぜ? そうなればいいなって思っていたから。」

あっけらかんと言い放つ、この男に・・・私は強烈なパンチと蹴りを食らわした。

拳は残念ながらかわされたが、蹴りは予測できなかったらしい。

私の蹴りは・・・彼の急所に見事に命中。少しだけ怒りが収まった。

「・・・・・ううう・・・・」

声も出ずにうずくまる道明寺。私は腕を組んでその姿を見下ろした。

「・・・司、大丈夫?」

あまり同情していない類の声。

「「おい、大丈夫か?」」

多少は同情している、西門さんと美作さん。

「て、てめぇ、何しやがる!!」

「何しやがるだぁ? されて当然のことをしているだろうが!」

私は怒りの余り言葉遣いがうつってしまった。

「・・・牧野、あんまり興奮しないほうがいいんじゃない?」

類の言葉も耳を素通り。

「あんたね、あとで避妊していないのがわかったなら言いなさいよ!

何をひとりで勝手に私の妊娠を想像して喜んでいるのよ! 気持ち悪いのよ!」

「き、気持ち悪いだと・・・! 俺の子ができるんだぞ、喜んで当然だろうが!」

私は頭が痛くなった。 こいつの頭の中はどうなっているんだ?

私だって道明寺の子は嬉しいさ! 覚悟さえできていればね!!!!

予定外に妊娠して、これからどうなるのか、道明寺に言わないほうがいいんじゃないか、

道明寺のお母さんに奪われるんじゃないか、そんなことを色々考えて悩んで・・・

それをお前は・・・喜んで当然・・・だと!!!

避妊してないことを隠しておきながら・・・!!! 許せない・・・

「あ、あんたね・・・私が妊娠がわかって、どんだけ悩んだかわかっているの?」

怒りが少しおさまってきた、なんだか今度は泣けてきた。

突然、ポロポロと涙を流して、道明寺に文句を言い続ける。

「本当に牧野は悩んでいたよ、司」

類の声に司は我に返った。

「な、何を悩むって言うんだよ?」

こいつ、何もわかってない。 そう思うと、もう涙が止まらなかった。

「あのね、司・・・牧野は司の重荷になるんじゃないか、

おばさんに堕ろせって言われるんじゃないか、それに牧野だって大学をつづけたいしね。

本当にいろいろと悩んだみたいだよ。 その間、司は牧野が妊娠しているかもしれない、嬉しいな~

なんて、考えていたわけだよね? 避妊してないことに気がついてからずっと。」

類の言葉に俺は・・・そう、俺は彼女の気持ちを考えていなかった。

これで親に認めてもらえる、結婚できるって自分のことばかり考えていた。

牧野がどうしたいのか、それを考えていなかった。

まさか・・・子供はまだいらない、堕ろしたいとか思っているのだろうか。

それだけは勘弁してほしい。子供は何があろうと欲しい、俺の子を牧野に産んでもらいたかった。

「ま、きの・・・? 産みたくないのか?」

「だっ、誰がそんなこと言ったのよ! そういう問題じゃないのよ。」

俺はわけがわからない。どういう問題なんだ?

産みたくないわけじゃないが、まさか・・・俺の子が気持ち悪いのか・・・?

「―――じゃ、どういう問題なんだ?」

「アンタ、なんにもわかってない・・・」

「なんだよ、ソレ・・・言わないとわかるわけねぇだろ。」

道明寺の言うことは最もだけど、なんだか・・・ムカつく。

「子供は産みたいわよっ! でもこのままじゃ私生児だし、私は大学生だし!!

アンタは私が妊娠したらいいなぁなんて考えてニヤニヤと生活してたんだろうけど、

私はこの間からずっと不安で不安で・・・私だって覚悟とか色々あるのよっ!」

本当に言いたいことはこういうことじゃない。だけど頭が混乱しているし、道明寺の仕掛けた罠にかかった気がしてイラだっていた。

「―――す、すまん・・・俺は子供ができれば・・・あのクソババアも反対できないだろうし、

お前とすぐにでも結婚できると思って・・・嬉しかったんだ。」

私だって嬉しくないわけじゃない。ただ・・・道明寺がわかっていたことを言わなかったことが許せないだけで。

自分だけが、そういうことがあるかもしれないとわかっていて楽しんでいた事実がムカつく。

私だってわかっていれば、もしかしたら・・・ってことで覚悟もできたし、考えることもできたのにぃ~。

このバカのせいで、私は悩みまくり、そして子供をつれて逃げることも考えたわけだ。

「ま、牧野・・・俺と結婚するだろ?」

「―――司、それってプロポーズ?」

総二郎の言葉につくしは我に返った。プロポーズ?

待って、プロポーズの言葉が・・・結婚するだろ? ありえないっ!!

「・・・嫌。」

ありえないと思った途端に気持ちと裏腹な言葉が飛び出した。アレ??

「断られちゃったね、司」

類の声はなんだか楽しそう。たぶん私の気持ちにも気がついているんだろう。

「い、嫌って、てめぇ・・・この俺様のプロポーズを断るのかよっ!」

「嫌」

「―――司、そんなプロポーズはないだろ。お前、結婚するだろ?って・・・」

あきらの呆れた声に司はハッとしたように顔を上げた。

「おお! そうだ、忘れていたぜっ」

それだけ言うと慌てて部屋を飛び出した。





「待たせたなっ」

司が再び部屋に入ってきたとき、手にしていたのは・・・結婚といえば、これよね。定番の品物。

指輪――――だった。ケースに入っているから見えないけど、絶対そう。

「牧野、愛している。結婚してくれ。」

今度は真剣に私を見つめて、案の定って感じの指輪を私に見せながら言った。

その真剣なまなざしにドキドキする・・・。

「―――後悔するなよっ」

ついこんな言葉で答えてしまった。F3が肩を震わせて笑っているのが見える。

「・・・お前、そんな色気のねぇ答えって・・・」

道明寺は呆れながらも、返事の答えに気がついたようだ・・・言葉が途切れる。

「それって・・・OKってことだよな?」

「―――嫌ならいいのよっ」

「ったく・・・素直じゃねぇな。でも・・・OKなんだな。」

「―――どうかしらね。」

どうしても素直になれない。だけど、照れたような私の表情でわかったのだろう、彼の顔がやけにニヤついている。

それが何となく・・・ムカつくのはなぜだろう。

「やったぜ!!!!」

道明寺の大声が辺りに響く。

「よしっ、じゃあ早速、式の打ち合わせをしようぜっ。」

道明寺の満面の笑みと喜びを隠そうともしない声。それに苦笑いしながら頷いた。

「―――牧野、本当にいいの?」

「うん・・・」

「―――そう、じゃあオメデト。」

類の祝福に少し照れるけど笑顔で頷く・・・いや、頷こうとした。

「司の罠に嵌っちゃったね」

え・・・罠? よく考えればっていうか、よく考えなくても・・・確かに罠かもしれない。

つまり、コイツは私に結婚を承知させるために、避妊し忘れたことを黙っていたのよね。

―――ムカつく。

忘れそうになっていたことを思い出し、ちょっと不愉快になった。

だが・・・子供ができたのは事実だし、子供を私生児にしないですむことも事実。

それなら結婚もいいだろう。だけど・・・この罠の仕返しはさせてもらわないとね。

「司、私、結婚はするけど日本に住むからね。」

「―――な、何っ!?」

「だって、NYなんてすぐにいけるわけないじゃない。私、まだ大学生だし、卒業はしたい。

それにさ・・・妊娠してるんだよ? 今は大事な時期でしょ、飛行機なんて乗れないよ。」

「―――じゃあ、俺が日本に・・・」

「アンタはNYでする仕事があるでしょ! お義母さんとの約束は約束よ。

あと2年半は頑張るしかないわよね。でもいいじゃない、結婚はするんだから。」

私が冷たく言い放つと真っ青になった道明寺が呻いた。

「夫を海外に単身赴任させて・・・それで平気なのかよっ! 浮気すんぞっ!」

「――――浮気? そう・・・私はアンタの子を妊娠しているというのに浮気宣言?

ヘェェェ~、結婚前から浮気宣言するなら結婚は考え直した方がいいわよね。

よそに愛人を囲うような父親は必要ないと思う。母子家庭に育ったほうが、よっぽど幸せよね。」

ニッコリと笑ってそういうと、彼の顔は更に青くなっていく。

「―――その時は俺と結婚しようよ。司の子でも牧野が産む子どもなら俺は愛せるよ。

次には俺の子を産んでくれるでしょ?」

私の仕返しにいち早く気がついた類が、調子に乗って言葉を被せる。

もちろん、西門さんと美作さんも面白がって・・・「良い考えじゃん」なんて言っている。

「―――お、お前ら・・・」

道明寺の声が震えている。

少しかわいそうかな?でも・・・私はあれだけ悩んだんだもん、これくらいの仕返し、当然よねっ!!


FIN




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