|
カテゴリ:日々の暮らし
![]() 秋川雅史 / 千の風になって 「千の風になって」がはやり始めた頃、坊さんの娘に生まれ、坊さんを夫とする私は、背中を巨大なロックアイスでなでられたような感触を抱いたものだ。 言葉にすれば「墓の中にいないですってぇ~~??なんてことを流布してくれんのさ。日本古来の墓参りの風習を愚弄するか」といったような多少ヒステリックな叫び。 実のところ、寺院業界を取り巻く気配は、けして明るいものではない。家制度崩壊、少子化、宗教への無関心、後継者不足ー不安材料を列記し続けることは造作ない。 そこへきて、この歌のロングにしてビッグなヒットだ。長島か、私。 「この歌はそんなに現代人の気持ちにぴったりくるのかな。やっぱり宗教に関心のない人が増え続けているってことなんかな」。あの頃は、歌を聞く度に暗うつたる気持ちに襲われたものだった。 現在はそう思うこともない。よくよく聞けば、この歌詞からは現代の宗教に対する揶揄のようなものは読み取れない。 全編、お墓の前で泣いてしまうほど死者を忍ぶ者を気遣う、死者のひたすらな慈愛で覆われている。年を重ねれば、愛しい人を亡くす経験はいやでも向こうからやってくる。 経験のある人ならば、この歌は心の深いところで響くはずである。 やはりあの頃は、跡を継いだプレッシャーで心がぎくしゃくしていたんだろう。 今後お寺がどうなっていくか心配する暇があったら、傷心のご遺族の方に温かいお茶をさしあげる準備をする、そのほうがよっぽどいい。今はそう思える。 奇しくも、先代、つまり私の父が生涯で最後に買ったCDがこれだった。 モルヒネで意識も朦朧としている病室の中、この歌は流れていた。 死を目前にした彼が、僧職という身分でこの歌をどうとらえていたのか、かなうものなら聞いてみたい。 これで1000件目。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[日々の暮らし] カテゴリの最新記事
|