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ままくんカフェ

April 11, 2007
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その2

ワシントンポスト、続きの記事です。

朝食の前の真珠


*なお、ベル氏の地下鉄駅構内のパフォーマンスの模様は
ビデオ
で見ることができます。


***********

当日の模様

ベル氏はまずバッハのシャコンヌから弾き始めます。これは14分にもおよぶ大曲で、最も素晴らしいクラシック名曲のひとつとされています。

あのブラームスも
「無伴奏の、小さな楽器の為の曲にこれほど人の心の深層と強い感情を描き出している。こんな素晴らしい曲を書けたら、いや、頭の中に思い浮かべることすらできたとしたら、喜びで気が狂ってしまうでしょう。」とクララ・シューマンへの手紙に書いているほどの歴史に残る名曲です。

ベル氏は満身の力を込めて熱演...

3分後

63人が既に通り過ぎ、やっと変化が。

1人の中年男性がちょっと方向転換をして、何かを弾いてる男性に気づきます。
でもそのまま歩いて立ち去りました。

30秒後。


初めての寄付金1ドルが入ります。女性がお金を投げ入れたと思ったらスタスタ通り過ぎました。



ようやく6分後に誰かが立ち止まって聴いていました。


スラトキン氏の予想は大はずれで、人だかりは全く無し。
僅かの1秒でも起こりませんでした。


この一部始終は隠しカメラで撮影されました。
何度ビデオを見てもお分かりですが、携帯、コーヒーを片手の通行人が腰に身分証名称をぶらぶら下げて歩く様子は非常に忙しく、非常に雑然とした映像になっています。

どれだけ曲が速くなってもパフォーマンスが熱演でも、雑踏の聴衆にとって、ベル氏は-見えない、聞こえない、実存しない、まるで幽霊のようなものだったのです。


幽霊。でもこの映像を見ると、ベル氏だけが血の通った人間で、残りの通行人たちこそが幽霊のように思えてきます。



*************

芸術の存在価値

素晴らしい音楽家が素晴らしい演奏をしても誰も聞かないとしたら...本当にその演奏家の価値はあるのでしょうか?

これは「美」という観念を廻る哲学的な議論になります。

「仕事」から戻ったベル氏、ホテルのレストランで朝食をつまみながら感想を語ります。

「弾き始めはただ自分の音楽に集中していましたよ。周りで何が起こっているか全く気にならなかった。」

ヴァイオリンを弾くことには全身全霊の集中が必要です。
ヴェテランのベル氏にとってはもう演奏自体は体にとってごく自然となっています。

「サーカスのジャグラーと同じですね、観衆の反応を見ながらボールを操るようにね。」
ベル氏は演奏する際に聴衆の心を語り手として掴む事を一番心がけると言います。

「ヴァイオリンを弾くということは、語り部になるということです。」


でも...と、ベル氏の表情は険しくなります。


「でも妙な感じでしたねぇ。あの雑踏の人たちは....。」

次の言葉がなかなか出てきません。

「...僕を無視してましたから。」

ベル氏は自分の姿を思い出して笑います。

「コンサートホールでは誰かが咳をしたり、携帯が鳴ったりしたら頭にきますね。
でもあの状況では何も期待できない、とまず思いましたね。
チラッと出もこちらを見てくれたらそれこそ感謝しましたね。
それに誰かが小銭で無く1ドル札を投げ入れたときに、自分でもびっくりするほど感激しましたよ。」


その才能で1分間1000ドルも稼ぐ事のできる演奏家の言葉です。

このプロジェクトを始める前には何が起こるのか予測もできなかったが、ある種の緊張があったとベル氏。

「舞台で《アガる》といった感覚ではなかったですが、どきどきしました。」

ベル氏はヨーロッパの大衆の前で弾いたことがあります。
ではなぜワシントンの地下鉄で弾く事にこうした緊張感があったのでしょう?

「僕の演奏会のチケットを買ってくれた人達の前で弾くということは、既に僕という演奏家は認めてもらっているということなんです。認めてもらわなくちゃ、という気持ちは全く無い、既に受け入れてもらっているのですからね。
でもこの場合は、『若し通行人が自分を受け入れてくれなかったらどうしよう?若し自分の存在を不快に思ったらどうしよう...』なんて考えてしまったわけです。」


つまり、ベル氏は、地下鉄駅ではフレームの無い芸術品だったわけです。


*******************


芸術には鑑賞するのに相応しい設定がが必要

ベル氏の体験に関して、美術品の専門家マーク・ライトハウザー氏が解説をくれました。
ライトハウザー氏はナショナル・ギャラリーの支配人で数々の美術品を取り寄せてフレームに入れる段階から監督し展示しています。

「ちょっとこの抽象画の名作、エルスワース・ケリーの作品をフレームからはずしたとしますね。このギャラリーの階段を52段も下りてレストランに持ち込んだとしましょう。
これは5百万ドル(約5.3億円)の作品です。
レストランの壁にはこの近辺の学校の学生が書いた作品が掲げられていて値札がついています。その中にまぎれてこのケリーの作品を150ドルの値をつけたとしても誰も気づかないでしょうね。
もちろん、美術鑑定士なら『ちょっと、あの絵、エルスワース・ケリーに似てない?
マ、いいか。 ちょっと、その塩こっちによこして。』なんて話をするかもしれませんね。」

ライトハウザー氏の見解では、この地下鉄通行人が全くの教養を介さない人達だと思ってはいけないということなのです。

ドイツの哲学者カントは、「審美眼はその人物の倫理観の高さと関係する。」と語りました。
しかし、ペンシルヴェニア大学のカントの専門家ポール・ガイヤー教授いわく、
「但し、その芸術品は最高の状態で鑑賞されなくてはならない、とカントは考えました。仕事の事で頭で一杯の状況で急いで歩く状態は、決して芸術鑑賞する為に『最高の状態』とはいえませんねぇ。
カントが通行人に全く無視されながらも弾いていたベル氏を見たとしても何も思わないでしょうね。」

そういうことです。

でも、ベル氏の音楽が全くクラシックを知らない人の心を捉えた瞬間もあったのです。
ジョン=デイヴィッド・モーテンセン氏は政府エネルギー部門の課長。予算を立てるのに大忙しです。
丁度、シャコンヌが重厚な短調から長調のまるで信仰的な救いを表すメロディーに変った時です。
モーテンセン氏は立ち止まり、3分ほど音楽を聴きます。
そして、生まれて初めてストリートミュージシャンにお金を恵みました。
もちろんモーテンセン氏は短調、長調など何のことやら判りません。

「なんか知らないが、音楽で平安な気持ちになったんですよ。」



*********







最終更新日  April 11, 2007 12:35:53 PM
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