韃靼疾風録
「韃靼疾風録」ダッタンシップウロク 司馬遼太郎徳川の世になって間もない、二代将軍秀忠の時代。九州平戸島に漂着した女真族ジョシンゾクの貴女を送り届けることになった「桂庄助」の数奇な物語。同時に女真族と明朝の情勢を探ることも託される。庄助は、その地で中国歴史上最大の王朝となる「清」勃興の推移を目の当たりにする事になる。思わずうなってしまうほど壮大な話。たぶん架空の人物であろう桂庄助が、ナビゲーター的な役割となって、読み手の私たちを遥か韃靼の地に連れて行ってくれた。日本との時代背景の説明もわかりやすく、特に庄助が日本に帰る時には、明人として日本に亡命して来たという形で入国しているのがおもしろい。(それは、すでに鎖国状態で、キリシタン禁制のため一度外国に出た日本人は二度と国内に入ることができないから)それに「明」の漢民族と「清」の女真族とのさまざまな比較がおもしろい。外見だけでもこんなに違う。漢民族女真族髪型服装髪型服装漢民族はなんか柔らかい雰囲気でチャラチャラしているが、女真族のは実務的。学問を究めた漢民族から見れば、狩猟民族である女真族はただの野蛮人であって「人にあらず」と、差別されていた。でも、それが、「明」に取って代わって「清」を築く。日本史の戦国時代にある下克上そのものであり、小気味よく感じた。過去に、浅田次郎の「蒼穹の昴」を読んで、清朝滅亡の詳細を知ったが、今回、その清朝勃興の詳細を知る事となり、とても感慨深いものを感じずにはいられない。そして、しばりょういわく、当時、日本は中国人や朝鮮人には寛大に入国を認め、特に学のあつ人物には「唐通事」として役職を与え召抱えていた。そのまま帰化し日本名を名のり、永住したものがほとんどで、当時唯一の"玄関"となっていた九州長崎には中国・朝鮮の血が流れている者も多いという。ひょっとしたら、自分の祖先も、この遥か韃靼の出身かもしれないと、思わず身震いしてしまった。