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カテゴリ:文楽
今日は孫のお宮参りで、亀戸天神にうかがいました。
九月半ばというのに真夏日との予報で、熱中症も「厳重注意」という中、13時からのお祓いの予約、十分に対策して急がずゆっくりと出かけていきました。 そのお話はいずれ書くことにして、今日は、先週見た文楽のことを書いておこうと思います。 菅原伝授手習鑑は、天神様菅原道真にまつわる作品なので、何やらご縁を感じます。 観劇当日は大型台風が去って晴れてくれたのは嬉しいけれど夏の暑さが戻ってきた日で、用意しておいた秋のワンピースはやめて、真夏の格好でお出かけしました。 この日観劇した第二部は15時開演、18時10分終演という長丁場でしたが、前の週の第一部同様、いえそれ以上に密度の濃い、力の入った舞台をて、文楽の素晴らしさを堪能しました。 演目は、寿式三番叟と菅原伝授手習鏡の最終章。 寿式三番叟は能舞台のような松羽目を背景に、7人の太夫さんと7人の三味線さんが並び、格調高い謡と共に、翁、千歳(せんざい)と2人の三番叟が登場し、五穀豊穣、子孫繁栄、天下泰平、国土安穏を祈り、舞います。桐竹勘十郎さんの翁の威厳と存在感は言わずもがな、吉田簑紫郎さんの三番叟も人形に隅々まで血が通っているかのような躍動感、とても良かったです。 切場語りの太夫さん3人が肩を並べての謡も見事でした。中でも呂大夫さんは、これまで理知的というかクールという印象があったのですが、大変力強い義太夫で終始圧倒されました。 続いて菅原伝授手習鑑(四段目、五段目)です。 北嵯峨の段の後の寺入りの段、寺子屋の段は有名で上演される機会も多い一方、五段目の大内天変の段は1972年以来の上演だそうで、もちろんわたしも拝見するのは初めてでした。 「北嵯峨の段」梅王丸の女房春、桜丸の女房八重が世話をする菅丞相の御台所の隠れ家、正体不明の山伏が中を伺う様子を訝しんだ春が、家移りの相談に出かけたあと、時平の配下が襲ってきます。八重は薙刀で応戦しますが多勢に無勢、命を落としてしまい、再び現れた山伏が、御台所を連れ去ります。 「寺入りの段」菅丞相の元門人武部源蔵の寺子屋に、息子を入門させたいと小太郎という男の子を連れた女性がやってきて、息子を預け隣村に用事をしに出かけていきます。 寺子屋では近在の子供たちが賑やかに(喧しく)、学んで(遊んで)います。緊縛した不穏な雰囲気の漂う中、子供達の無邪気な様子に観客たちの心も和み、笑い声も聞こえてきます。 「寺子屋の段」源蔵夫婦は時平から菅丞相の息子菅秀才の首を差し出すよう命じられ困り果てていましたが、寺入りした小太郎が見目よく育ちも良さそうなのを見て、菅秀才の身代わりにしようと決めます。 源蔵は心を鬼にして小太郎の首を打ち、菅秀才をよく見知っていることから首の検認役として遣わされた松王丸に差し出すと、意外にも松王丸は菅秀才の首と認め、役人に預けて去っていきます。 入れ替わりに隣村から小太郎の母が戻り、源蔵が母も手にかけようとした時、松王丸が戻ってきて、小太郎は自分の息子で、母千代は女房であると告げます。 松王丸は菅丞相の世話で時平に仕える舎人となったため、時平が菅丞相を陥れたことで恩と忠義の板挟みとなり、時平に忠義を尽くしつつ菅秀才を救い出して菅丞相の恩義に報いるには、息子小太郎の首を替え玉として差し出す以外に方策はないとの思いに至ったのでした。 また、菅丞相が「松王丸が恩を忘れるなどあり得ない」という思いで詠んだ歌が、菅丞相の敵方に与することになったおかげで世間に「他の兄弟は忠義者なのになぜ松王丸は?」という意味だと誤解されたことも気に病んでいました。 主人の幸せを願って恋の仲立ちをしたことで菅丞相失脚の原因を作ってしまったことを悔いて切腹して果てた三つ子の弟桜丸の非業の死を深く悼む胸の内も吐露します。 それまでただガサツで傍若無人な荒くれ者としか見えなかった松王丸が、小太郎の忠義と父に対する世間の誤解を解いた孝行を讃え、偉いやつだと泣き笑いをする様は観客の胸を打ち、涙を誘います。 力強さと哀切さを併せ持つ吉田玉助さんの松王丸、素晴らしかったです。 母千代が、覚悟の上とはいえ忠義のために我が子の命を捧げる苦しみ悲しみを訴えるクドキも呂勢太夫さんの独特の声音と相まって胸に迫りました。 「大内天変の段」都で天変地異が相次ぎ、宮中でも落雷や火事、不慮の死が続いたことから、菅丞相の怒りを鎮めようと加持祈祷が行われ、齋世親王、菅秀才、苅屋姫が参内します。菅秀才は死んだと思っていた時平は驚き、菅秀才を捕らえさせますが、捕らえた部下は落雷で命を落とし、時平の両の耳からは蛇が現れます。二匹の蛇は桜丸と八重の亡霊に変身、時平を打ち据えて姿を消すと菅秀才姉弟がとどめを刺します。 菅秀才の菅家相続が天皇より認められ、菅丞相は京都北野の天満宮に祀られ皇居の守護神となりました。 藤原時平を遣うのは、わたしの贔屓の人形遣い吉田玉志さんでした。怖い顔をした悪役でしたが、相変わらずキレの良い動きで、ワルイ時平をたっぷり楽しませていただきました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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