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Manachan's World-東京下町日記

Manachan's World-東京下町日記

Raleighの第一印象(2005/3/28)

私はいま、社命による長期出張で、米国南東部ノースカロライナ州、Raleigh(ローリー)に来ております。この町に来てから、今日で6日目。これからあと2ヶ月余、5月30日まで当地に滞在する予定です。

ところで読者の皆さんは、Raleighという地名を聞いたことがありますか?或いは「ノースカロライナ州」について、何か知っていることがありますか?私の場合、「ノースカロライナ?何じゃそりゃ?」・・・米国のなかでも、ニューヨーク、カリフォルニア、フロリダ、シカゴ、ワシントンDCとかなら何とかイメージできますが、ノースカロライナという、はっきり言って知名度の低い州についての予備知識は、ほとんど持ち合わせていませんでした。今回の出張がなければ、たぶん一生涯、この地の土を踏むことはなかったかもしれません。

ですが、ここまで来たのも何かの縁。2~3ヶ月という短い期間ではありますが、ノースカロライナ州Raleighという町をよく知り、この土地を好きになれるよう、努力しようと思います。今回は、Raleighに来てからの6日間で、私が見聞きしたいろんなことを、つらつらと書いてみようと思います。

1.懐かしい、ノースカロライナの春

3月21日(月)、私はユナイテッド航空便で、シカゴから一路Raleighを目指しました。シカゴの上空から下界を眺めると、北国の厳しい自然がそこにありました。3月下旬でもなお冬枯れした落葉樹が、寒々とした景観をつくっていました。

私はいつしか眠りにつき、約1時間半後、目が覚めると、飛行機はすでにRaleigh国際空港に向けて、高度を下げていました。上空から見るノースカロライナの風景は、どこかしら懐かしい。緑の松林、こんもりした「おいしそう」な土の色・・・成田空港近くの里山に、どことなく似た風土のようでした。

Raleighの空港に下り立つと、シカゴの寒風とは違って、湿気をたっぷり含んだ、ちょっとだけ生暖かくて優しい空気に包まれました。日本の関東地方とそっくりな感覚です。あとで地図をみると、ここRaleighは北緯35~36度で東京とほぼ同じ、そして、年間気温の推移も降水量も東京のそれに非常に近いことが分かりました。

Raleighでは、植物も日本人にお馴染みのものが多い。どこへ行っても松林が続くし、ハナミズキ(Dogwood)が咲いてていかにも日本の春っぽい。それだけでなく、野草まで日本とそっくりなのには驚きました。タンポポはもちろん、ヒメオドリコソウ、ムラサキケマンまである!いくら気候が似ているとはいえ、別の大陸で同じ種類の春野草が見られるとは・・・

日本でもおなじみの野草




日本の春っぽい植生



2.左ハンドル文化

Raleighの周辺では、公共交通機関が皆無に等しく、クルマがないとまず生活できません。私も渡米3日目にして、早速レンタカーを借りました。これがないと、通勤も買い物もできず、全くお話にならないからです。

問題は、米国が日本や豪州と違って、クルマは右側通行だということ。そこで私は、生まれて初めて左ハンドル車に乗り、右側通行で運転する羽目になったのです。でも必要に迫られてるから、やるしかない。

でも実際に運転してみたら、何てことはなかった。交通量は少ないくて渋滞もほとんどないし、それにこの辺のドライバーは皆マナーがいいから、運転3日目で恐怖感がほぼ解消されました。

マナーといえば、この辺のドライバーは歩行者に道を譲ってくれるんですね。びっくりしました。日本から直接来ればこんなこと当たり前でしょうが、私の住む中国・大連はまったく逆で、歩行者がドライバーに道に譲るのが当たり前。ドライバーは路上で歩行者を見たら、横断歩道があろうとなかろうと、クラクションを鳴らして歩行者を蹴散らすのが普通です。だから一層、米国人ドライバーのお行儀の良さが光って見えました。

米国でのカーライフは、右側通行とマイル・ガロン表示を除けば、私が先月まで住んでいたオーストラリアと大差ないと思いました。但し、細かい英語表現の違いがいくつかあって面白い。


譲れ:米国では"Yield"、豪州では"Give way"
ガソリン:米国では"Gas"、豪州では"Petrol"
高速道路:米国では"Freeway"、豪州では"Motorway"(豪州のはFreeじゃなくてお金取るからこう言うのかな?)
道の突起:米国では"Hump"、豪州では"Bump"(Humpとも言うけどね)


あと、豪州や英国では一般的な「ラウンドアバウト」(ロータリー状になってる交差点)が、米国では全く見当たらないのも面白い。米国では日本と同様、信号です。日本の交通システムは英国ではなく米国を参考にしたのかもしれませんね。ちなみに米国の信号は、ワイヤーから宙にブラさがっています。まるで日本の豪雪地帯の信号みたいです。



あと、米国の道は「次の町まであと何マイル」とか、「これから○○市」みたいな標識が、豪州と比べてかなり多いですね。あと、高速の出口にファストフード点の一覧が載っているのも面白い。

3.フェンスがない住宅地

あと、週末は近くの住宅地を散歩してきました。ちょっと歩いただけでも、この国の住生活や文化が垣間見えるようで面白い。

Raleigh近辺の住宅は、田舎なので平屋一戸建てが多く、人口の割に土地が余っているから敷地面積も概して大きい。何エーカーという広い敷地を持っている人も珍しくないようです。



ところが、最近(ここ10年ほどの間)建てられた新しい住宅地は敷地が概して狭く、限られた面積に二階建ての家をたくさん詰め込むから、見た目窮屈です。豪州では、最近建ったこの手の住宅はMacMansions(※マクドナルドのハンバーガーのような、安物の規格品住宅の意味)と言われてるんですけど、米国でもそう呼ぶのかな?



私が一番驚いたのは、一戸建ての圧倒的多数が、敷地と敷地を区切るフェンスを持たないことです。豪州の都市部では、ほとんど全部と言っていいほどフェンスが設けられているのに、どうしてなんだろ?



あと、家の前にぐるりとバルコニーを設ける、米国南部スタイルの住宅も多く見かけました。こういう家って、なかなかいいと思う。



4.アメリカンライフと浪費

Raleigh周辺は、先ほど言った通り完全なクルマ社会。この点はまあ、シドニーやメルボルンなど、豪州の都市部と基本的に同じなんですが、一つ大きく違うのは、豪州の都市では、歩行者が歩きやすいように、歩道やウォーキングトレイルを整備するのが当たり前なんですが、ここRaleighでは、少なくとも私が見た限り、そういう配慮はほぼ皆無のようでした。また、豪州の都市郊外住宅地でよく見かけるReserve(保留地、要は空き地)も、Raleighではあまり見ません。

米国全土でそうなのかは知りませんが、少なくともRaleighに関する限り、歩行者に対する都市計画上の配慮は皆無に近いと思いました。その結果、道には歩行者もいなければ、自転車もまず見かけない。ひたすらクルマばっかり・・・

今日、Raleighの郊外をいろいろ歩いてみたのですが、この町で歩行者をやるのは、かなりキツいですね。だいいち、歩道がないから路肩を歩くしかないわけだけど、路肩は土だったりコンクリートだったり、工事現場になってたりするから歩きにくい。しかも、郊外がだだっ広いから、とてもとても、歩いて回れるもんじゃない。

公道から歩行者と自転車を事実上排除し、完全なクルマ社会となったこの町の住人のライフスタイルは面白い。エネルギー消費の面では、やたら無駄が多いのです。


1)通勤、通学、買い物・・・どこへ行くにも、化石燃料を使ってクルマに乗らねばならない。
2)クルマ中心の生活だから、当然、運動不足になる。歩いたり、自転車に乗りたくても、そういう場所が存在しない。
3)その上、化石燃料をたくさん使ってできた肉や野菜を必要以上に食べるから、エネルギーが余る。
4)その余剰エネルギーを発散するために、ジムに行ってトレッドミルなどのマシンを使う。これも当然、化石燃料を使う。


まさに無駄が無駄を呼ぶ・・・アメリカン・ライフスタイルっていうのは、戯画的なまでに、エネルギーを浪費する暮らしなのだと思いました。

ご覧の通り、歩道がない!!


5.アメめしの憂鬱

軍事、金融、テクノロジー、高等教育、ショービジネス・・・いろんな分野で世界一の座に輝いている米国ですが、「食べ物の美味しさ」に関しては、この国が世界一だ、と考える人はたぶん少ないでしょう。

こんなに裕福な国なのだから、しかも世界中の移民が集まっているのだから、アメリカのメシって、もう少し美味しくってもいいんじゃない?と私は思うんですがねえ。私が体験した範囲でいえば、この国の食べ物は概して大味で、繊細な味覚を満足させてくれません。

アジア、南欧、オーストラリア・・・これらの国々のメシが美味しいのは、人々が味覚に関して貪欲だからでしょう。美味に対する飽くなき探究心、冒険心、こだわり、そして歴史の長い食文化、調理法のバラエティの豊富さ・・・そのおかげで、特にアジアではどんな貧乏な国でも、メシがまずいということは基本的にありません。逆に言うと、アメリカ人は食に対して、そこまで貪欲でないのかもしれません。

でも、Raleighの飲食シーンは米国の他の地方都市に比べると、恵まれているようです。世界中からのITエンジニアや研究者が来ているおかげで、インド料理、中華料理、韓国料理、日本料理、タイ料理店等がかなり多く、本国のシェフが料理している店も少なくないとのこと。あと、米国という土地柄、中南米、カリブ海方面の料理を売り物にする店も多いそうです。これらは、是非試してみたいと思います。

6.アメリカってやっぱりすごい!

いろいろ愚痴っぽいことを書いてしまいましたが、それでも私は、米国に来て良かったと思います。Raleighのようなパッとしない地方都市に居ても、時々、「やっぱりここは、腐っても米国だよなあ」と感じます。思うにそれは、米国の持つ途方もない国力や、分厚い産業の伝統、創造性・革新性のようなもので、オーストラリアでは決して味わうことのできないものだと思います。

私は、以前IBMオーストラリアで働いていた時、米国絡みのプロジェクトをいくつか担当していたのですが、その時の正直な実感として、「仕事の面では、豪州人マネジャーより米国人マネジャーの方が、ずっと親切だし、話が分かる」ということを、いつも感じていました。

その話を妻にしたところ、「それって、ステレオタイプじゃないの?」と言われましたが、それでも私は、個々人のパーソナリティはともかく、仕事の進め方やマネジメントスキルの点で、米国マネと豪州マネとの間に、「何か違う」、「超えがたい壁」のようなものを、うすうす感じていました。

いま思うと、それはおそらく、大きなプロジェクトを運営した経験の差なのでしょう。IBMは米国の企業だから、規模の大きなプロジェクトはやはり米国に集中しているし、豪州と比べて、米国には人材も予算も潤沢にある。米国マネはそんな恵まれた環境で経験を積み、マネジメントスキルを向上させてきた。それが私をして、「一緒に仕事しやすい」と感じさせたのでしょう。

たとえばの話、今回私が米国に来ることができたのも、米国のプロジェクトマネジャーが、全費用を負担してくれたおかげなのです。人数と予算の多いプロジェクトの経験を豊富に積んできた米国マネは、テクニカルトレーニングの重要さを身にしみて知っているし、それにかかる費用は喜んで負担しようという姿勢がある。

これは豪州では非常に珍しいことです。私の知る限り、豪州マネが、社員を海外までアプリケーショントレーニングに派遣したという話は、滅多に聞きません。おそらく、予算も人員もギリギリで、トレーニング費用なんか出せないようなプロジェクトしか経験したことがないからなのでしょう。

米国に来てみると、仕事のやり方の面でも、大いに学ぶべき点があると感じます。たとえばドキュメンテーション(技術文書作成)。この点、米国は本当にすごい。ドキュメンテーションだけをやるスタッフを何人も抱えているらしく、私などは、とんでもない量のドキュメントを渡されて、今はヒイヒイ言いながら読んでますが、でも彼らがドキュメンテーションをきっちりやってくれたおかげで、今回、米国に来れなかった中国人のチームメイトも、中国に居ながらにしてちゃんとトレーニングに参加することができるのです。

あと感じるのは、米国ソフト産業の歴史の長さと、とてつもなく分厚い知的蓄積です。私のいるRaleighのオフィスは、建物がやたら古いのですが、いつ出来た建物なのか聞いたところ、1970年頃にはすでにあったとのこと・・・

もう少し調べてみると、私の働くRTP(Research Triangle Park)という、日本の筑波研究学園都市の雛形みたいなものは、ノースカロライナ州のプロジェクトとして運営されているものですが、その試みが始まったのが、なんと1950年代!ちなみにIBMがRTPに進出したのが1965年とのこと。

そんな古くから、本当に「雇用創出型の研究教育都市」を目指していたのかは知りませんが、それにしても、いま日本や中国、オーストラリアが一生懸命取り組んでいることを、米国では40年も50年も前からやっていたのだとすれば・・・当然、誰も米国に追いつけないはずです。

だから私は思うのです。食生活やプライベートの面はともかく、少なくとも仕事の面では、「狭い豪州を飛び出してよかった」と。そして、「やっぱり米国はすごい」と。

最後に・・・イースターを前に、静まり返る米国の田舎町Elizabeth Cityの写真をどうぞ。




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