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2007/12/07(金)10:20

井上雄彦の絵は熱い!

この漫画が好きだ!(25)

僕が今一番熱いと思っている漫画家、井上雄彦の現在の代表作、「リアル」と「バガボンド」の最新刊が先日同時に発売された。 ファンとしては大変嬉しいことである。 漫画と言うのはもちろん、絵とストーリーによって成り立っているわけだが、井上の場合この両者への作者の気持ちの入れ方が半端ではない。 「リアル」は、車いすバスケと言うある意味特殊な世界を描きながら、その中心となる3人の少年(青年か?)の生き方に読者はそれぞれ深い共感と感動を持つことが出来る。 それは作者の井上が、話の展開を絵空事ではなくとことん現実の世界の事として、突き詰めて考えて書いているからだろうと思う。 バスケ部を辞めて、オートバイ事故で同乗していた少女を下半身不随にした野宮、何もかも上手く行かなくなった野宮が、車いすバスケをしている戸川と出会う。その戸川は将来を嘱望された天才スプリンターでありながら、全日本選手権直前に骨肉腫で片足を切断。苦悩の後に車いすバスケに出会い再生の道を歩んでいたのだった。戸川達の生き様に触れる事によって、自分も再生していこうとする野宮、そして野宮のチームメートで野宮と犬猿の仲でバスケ部キャプテンの優等生だった高橋は、盗んだ自転車で走っているところをトラックにはねられて同じく下半身不随となる。 以前の自分と今の自分を重ね合わせてその悲惨な気持ちから逃れられる事の出来ない高橋は、まだ車いすの人となって居らず、戸川とも出会っていない。 連載が始まって既に7年、1年に1冊ずつしか出ないのは、作者のテンションを維持する限界なんだと思うが、毎年秋の楽しみでもある。 一方、吉川英治の宮本武蔵を下敷きに、作者なりの新たな解釈を加えた「バガボンド」は既に20数巻を数えるが、やっと吉岡一門との戦いが終わったところである。 総数一億部を越えたと言う「スラムダンク」では、高校入学後わず4ヶ月余りの話を、31巻に渡って描いた作者の、濃度の濃さと言う物はこの作品でもよく出ていると思う。 このバカボンドで最も特筆すべきはその絵であろう。 これでもかと書き込まれたその絵には、線の1本1本に作者の魂が込められているようだ。 今月号の「ダヴィンチ」では井上雄彦の「リアル」が特集され、そして井上のインタビューが載っている。それによると、井上は肉体の美しさをより正確に描く為に、まず裸の絵を描いて、その上に洋服の絵を描いて行くそうだ。 バカボンドでは、当初ペンで描いていたのを途中から全て筆に書き換えて描いてるらしい。 なるほど、そう言えばバガボンドは途中から明らかに絵のタッチが変わっている。 僕は割り箸ペンのようなもので描いているんじゃないかとずっと思っていたけど筆だったのね。 そう言われてみれば、絵柄の変わった当初のタッチは筆である。 それが最近はまた元のペンのタッチに似てきてる。筆でも使い方が変わってきたのだろうなあ。 「子連れ狼」を描いた小島剛夕が、その晩年のタッチは同じく筆で描いたのじゃないかと思われるような水墨画のようなタッチだが、井上の絵はそれを既に密度で言う点でそれを越えていると思う。 こういう人は、アシスタントに任せることなく、全ての絵を自分で描いているんじゃないかと思うが、記事を読んでいると背景を描くアシスタントと言う言葉が出てくるので、アシスタントはいるんだろう。でも、主なところは全部自分で描いてるんじゃないかな。それぐらい自分の絵に愛情を注いでるんじゃないかと思う。 このあたり、コンテだけ決めて後は全部アシスタントに分業させていると言う「ゴルゴ13」のさいとうたかおなどとは違うところだろうな。 井上だって、昔の作品はありふれた探偵どたばたものだった。 スラムダンクだって、最初の頃は学園ラブコメ風バスケ漫画だ。 それが連載始まって間もなくから、どんどん絵が変わっていき、話の密度も濃くなってくる。 1回の連載分を一切の台詞無しで選手の鼓動や息づかいまで描ききったスラムダンクの最後の試合はもう芸術と呼べるだろう。 こんな風に作家がホップステップジャンプで飛躍していくのを見るのは楽しい。 学生時代にバスケ部のキャプテンだった井上は、自分にはこれしかないと言う題材のバスケを取り上げて、それで得た巨額の富で今度は基金を作って才能あるバスケの若手をアメリカへ派遣している。そういう生き方は素敵だと思う。 僕は、売れているから流行っているからと言って、それが素晴らしいとは限らない、そういうスタンスの人間だけど、井上の作品に関しては、素晴らしいからこそ売れているのだと思っている。 そういうのって、今の世の中ある意味貴重だと思う。 まだ彼の世界に触れてない人は、是非一度触れてみてはどうかな?

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