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旅のノート★困った話
 その4・恐怖の肉(1)

 しつこいようだが、私は肉は嫌いである。トンカツだめ、ステーキだめ、生ハムもできればご遠慮したい。レバーなんぞ死んでも食べたくない。
 そんな人間が、ヨーロッパを一人歩きしようっていうんだから、食難が待ちかまえているのは当然のことで……

 ロンドン到着初日の夕方。私はピカデリーサーカスへ出かけた。
 夕食は、ガイドブックに紹介のあった中華料理店にしようと決めていた。中華料理店なら、いくら偏食の激しい私でも、なにか食べられるものが一皿くらいあるだろう、と思ったのだ。
 ところが……甘かったんですねぇ、これが。

 「ウォン・キー」というその中華料理店は、ソーホーの中華料理店街の一角にあった。
 狭い入り口から入ってみると、中は大衆食堂といった感じで、むき出しの長テーブルが並んでいる。明るい髪の人間も2、3人いるにはいるが、ほとんどは黒髪の東洋人で、飛び交っているのは中国語。店員もすべて中国人だ。ロンドンからいきなり中国に来たような感じ。
 テーブルにつくと、店員がメニューを持ってきた。当然ながら、中国語と英語。

 だめだ。読めねー。

 漢字の下に英語で説明があるのだが、これがさっぱり解読できない。
 ぼーぜんとしていると、店員が注文を取りにやってくる。漢字から想像して、たぶんチャーハンだろうと思われる「肉片※飯」とかいう料理を注文することに決め、メニューの名を伝えようとすると、この店員、じれったそうに天井をむいて、「ナンバー、ナンバー!」。なるほど、料理名の脇に、番号がふってある。
 注文が終わるとすぐ、店員が熱いお茶の入った急須と茶碗を持ってきた。お茶は無料。茶碗に注ぐと、緑茶よりちょっと茶がかった色のお茶が出てきた。薬のような独特の香り。ジャスミンティーだ。

 やがて、運ばれてきた皿を一目見て、私は絶句した。

 大きな皿に盛られたごはんの上に、肉の大きな固まりが、これでもか!といわんばかりにどかどかとのっかり、その上に茶色のどろどろした肉汁がかけられている。他には、ひとかけらの野菜さえ入っていない。

 私は肉は食べられないんだぞ。それなのに、なんで、こんな肉肉 した肉だけの料理が出てくるんだ?

 し、しかたがない。自分が注文した以上は、少しでも食べなければ。
 私は、長くぶっとい箸で肉の山をかきわけ、茶色の汁がからまったごはんの部分を、おそるおそる口に運んだ。ご飯は、日本米と違って黄色っぽく、ぱさぱさしており、その上独特の臭みがあった。……
 かくて、記念すべきロンドン第一日目の夕食は、汁かけ飯だけになってしまったのだった。(涙)

 
 その5・恐怖の肉(2)

 次の日の夕方。やはり地下鉄でピカデリーへ。
 中華料理店はもうごめんだ。なにかあっさりしたものが食べたい。
 そう思った私は、ロンドン三越の日本料理店に向かった。だが、ショーウィンドーのメニューには、とんでもない値段がついており、しかも寿司料理ばかり。私は、肉同様、生のサカナも食べられないという悲しい性格をしている。
 そこで、日本料理はあきらめ、適当な店を探しながら通りを歩いていると、インド料理の店を見つけた。
 カレーなら食べられるだろう。
 浅はかにもそう考えた私は、その店のドアをくぐった。

 レストランは地下にあり、降りて行ってみると、お客は私一人だった。思わず引き返したくなったが、もう店員がこっちにむかってやってくる。
 メニューの中にチキンカレーがあったので、これを注文。豚肉はまったくだめだが、鶏肉なら少しは食べられるからだ。フルーツサラダとりんごジュースを添えて、7.5ポンド(約1700円)

 りんごジュースは、きれいなグラスに入ってきた。フルーツサラダもおいしそうだった。だが、メインのチキンカレーは……

 私は運ばれてきた皿を見て、絶望のあまり、うめき声を出しそうになった。
 チキンもチキン、大きな骨付きの固まりで、これにカレー汁が絡まっているだけ、という代物。ライスの皿が添えられている。
 日本式のチキンカレーを想像していた私は、二日続きの肉のかたまりに、言葉もなかった。

 しかし、全然食べなかったら、いったいこいつ何しに来たんだろう、と思われてしまう。第一、作ってくれた人に対して失礼だ。
 そこで、肉をおしるしだけつついてみるわけだが、

ひー、からい!!

 辛いのなんの、舌をやけどしそうな辛さだ。おまけにフルーツサラダも辛い!
 汗が噴き出してきた。
 店の内装はきれいで、雰囲気もあったが、回りを見回す余裕などなかった。ひろびろとした店内にたった一人というのは、なんとも居心地が悪い。おまけに……
 いかん!目の前の肉をみているうちに、なんだかむかむかしてきた。
 とにかく、はやいとこ片づけて店を出なくては。

 私はどうにかピリ辛のサラダと燃えるような肉を、リンゴジュースで飲み込んで、よろよろしながら早々に店を出たのであった。
 以来、二度とインド料理店に入らなかったのは言うまでもない。

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