しつこいようだが、私は肉は嫌いである。トンカツだめ、ステーキだめ、生ハムもできればご遠慮したい。レバーなんぞ死んでも食べたくない。
そんな人間が、ヨーロッパを一人歩きしようっていうんだから、食難が待ちかまえているのは当然のことで……
ロンドン到着初日の夕方。私はピカデリーサーカスへ出かけた。
夕食は、ガイドブックに紹介のあった中華料理店にしようと決めていた。中華料理店なら、いくら偏食の激しい私でも、なにか食べられるものが一皿くらいあるだろう、と思ったのだ。
ところが……甘かったんですねぇ、これが。
「ウォン・キー」というその中華料理店は、ソーホーの中華料理店街の一角にあった。
狭い入り口から入ってみると、中は大衆食堂といった感じで、むき出しの長テーブルが並んでいる。明るい髪の人間も2、3人いるにはいるが、ほとんどは黒髪の東洋人で、飛び交っているのは中国語。店員もすべて中国人だ。ロンドンからいきなり中国に来たような感じ。
テーブルにつくと、店員がメニューを持ってきた。当然ながら、中国語と英語。
だめだ。読めねー。
漢字の下に英語で説明があるのだが、これがさっぱり解読できない。
ぼーぜんとしていると、店員が注文を取りにやってくる。漢字から想像して、たぶんチャーハンだろうと思われる「肉片※飯」とかいう料理を注文することに決め、メニューの名を伝えようとすると、この店員、じれったそうに天井をむいて、「ナンバー、ナンバー!」。なるほど、料理名の脇に、番号がふってある。
注文が終わるとすぐ、店員が熱いお茶の入った急須と茶碗を持ってきた。お茶は無料。茶碗に注ぐと、緑茶よりちょっと茶がかった色のお茶が出てきた。薬のような独特の香り。ジャスミンティーだ。
やがて、運ばれてきた皿を一目見て、私は絶句した。
大きな皿に盛られたごはんの上に、肉の大きな固まりが、これでもか!といわんばかりにどかどかとのっかり、その上に茶色のどろどろした肉汁がかけられている。他には、ひとかけらの野菜さえ入っていない。
私は肉は食べられないんだぞ。それなのに、なんで、こんな肉肉
した肉だけの料理が出てくるんだ?
し、しかたがない。自分が注文した以上は、少しでも食べなければ。
私は、長くぶっとい箸で肉の山をかきわけ、茶色の汁がからまったごはんの部分を、おそるおそる口に運んだ。ご飯は、日本米と違って黄色っぽく、ぱさぱさしており、その上独特の臭みがあった。……
かくて、記念すべきロンドン第一日目の夕食は、汁かけ飯だけになってしまったのだった。(涙)
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