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2003年11月20日
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テーマ:小説日記(233)
カテゴリ:カテゴリ未分類
 その日は。雨。
 そう。月のない夜だ。

「はぁ・・・はぁ、はぁ」
 少女は切迫していた。
 肩で荒い呼吸をくりかえし、すべる地面になんども足をとられ、それでも止まるわけにはいかない理由が彼女にはあった。
「待てっ!」
 男の声。
 少女は一瞬、後ろを振り返る。
 だが、見えたのはだいだいろをした明かりの揺らぎだけ。
 声は、連なる明かりの中からひびいた。
「くっ・・・」
 少女は、ぐっと歯をくいしばった。
 追っ手がすぐそこまで迫っていることに動揺した。
「にがなねぇぞっ」
「まちやがれっ」
「牢獄の町から逃げられると思うなっ!」
 男たちの声は、怒気を高める。
 少女はこの男たちに追われていたのだ。
「うわっ」
 悲鳴をあげ、不意に少女は立ち止まった。
 目の前に暗くしずんだ森が、木々のくちをひらいていたためだ。
(どうしよう・・・)
 十五、六の彼女にとって、その森は、まるで迷宮への入り口にも見えた。
 だが、迷ってるひまはなかった。
 ここでつかまれば、条例に違反したことにより、彼女はきびしい処罰を受けなければならない。
 少女は、暗い森をすすむことを選んだ。
 ごくり。
 息をのむ。
 最初のいっぽを力強くふみこみ、後は目を閉じ、だせいだった。
 どこをどう走ったかわからないが、男たちの声が、じょじょに小さくなっていくことに気が付いた。
 彼女の狙いはそこにあった。
 男たちは、戒律によりこの『魔の森』には立ち入ることができないということを。
 もちろん、この森に何があるのかなんて、少女にはわからない。
 ただ、雨をしのぐ場所だけをもとめて、少女はひた走っていた。
「はぁ・・はぁはぁはぁ・・・・はぁ・・・」
 ついに息をきらし、少女は、木陰でひざをついた。
 地面に呼吸をぶつけ、何度も何度もはいに空気をおくりこんだ。
 ずぶぬれのローブをひきずりながら、顔をあげる。
 意識がもうろうとする中、少女は目の前でかすんだ灰色のレンガを見つめた。
「ここは?」
 壁。石の壁だ。
 少女の首ほどの高さには、大きなまどがあった。
 さそわれるように、少女は中をのぞきこんだ。
「・・・・・・・」
 暗く、誰もいないように見えるが、貴族のやしきのようにも見える。
(魔の森には、誰か住んでるのかな?)
 そんな話は聞いたことがない。
 好奇心が、少女の足をやしきの周りを歩かせた。
 くるりと半周ほど。
 東向きに二本の石柱が目にとまった。
「とびら・・・だ」
 ぐんっ。
 表開きのおおとびらを力強くひいた。
 だが、重く、簡単にはひらきそうにない。
「なによ。これ。まさか、こんな大きなやしきで誰もすんでないっていう気じゃないよね」
 いって、なおも少女はとびらに体当たりをした。
 今はどんなお化け屋敷よりも、後ろの男たちのほうが怖かった。
 もうここしか、自分を受け入れてくれるところはない。
 くちびるをかみしめ、とびらの片方をぐんと両手でひっぱってみた。
 がたんっ・・・がらがらがら・・・
 金具のはずれた音が高鳴ったのはそのときだ。
「な、ななななななに?よ。急に」
 怖くなって、思わずあとずさりした。
 少女が目を見張る中、やがてゼンマイ式の音はやみ、ゆっくりととびらがひらいてくる。
「え?」
「あの・・・」
「わたしは・・・」
 とびらが開いたということは、少なからず誰かがいるはずだ。
「いれてくれるの?」
 さっきまであんなに入ろうとしていたことがうそのように、少女はきょとんとした。
『もちろんだとも』
 とびらのおくから聞こえた声に、少女はきょうがくする。
 息をのむ。
 忘れた呼吸を取り戻したのは、少女がやしきの中に入ったあとだ。
「えっと・・・・・・あの?」
 誰もいない。
 たしかに声は聞こえたはずだが、薄暗いやしきには人の姿はなかった。
『逃げているんだね?』
「は、はい。北の牢獄の町から」
 姿の見えないなにものかに、少女はひっしにうったえた。
『では、キミは悪いことをしたのか』
「・・・・・」
 問いに、少女はだまった。
『どうしたんだ。答えられないのか?』
「ごめんなさい。わたし、記憶がないんです。
 牢獄の町の人はみんなそう。
 罪をつぐなることを目的に、記憶をうばわれ、新しい思い出をうえつけられて外にほうりだされるの」
『そうか』
 声はだまった。
「ここにいちゃ、だめですか?」
『それにはキミの承諾が必要だ』
「承諾・・・?」
『そう。簡単だ。キミがこのやしきの新しい主になること』
「わたしが、主? でも」
『でもはなしだ。
 契約は今から新しい主が見つかるまで、私とともにこのやしきを見守ってほしい』
「見守る・・・ですか」
『住むものがいなくなったやしきというのは、死んだも同然だ。荒れた庭に、家中ほこりまみれでは私としてもしのびない。そこで、キミのような主がほしい』
「わたしに掃除をしろというの?」
『そんなことをしなくても、キミが主となれば、やしきもよみがえる』
「わかったわ」
『契約は成立だね』
 きらん・・・・。
 天井から、少女の足元に指輪が落ちてきた。
「これは?」
『契約のしるしだ。安心しろ。はめてとれなくなることはないし、いつでもここから逃げ出しなくなればまた逃げれば良い』
「そんな・・・!?」
 少女はこぶしを強く握りしめて講義した。
 自分が弱い人間である。
 そう、聞こえたからだ。
 逃げたことは心の弱さだが、それ以上にたえきれない現実だってある。
「わたしは逃げないわ」
『よろしい。では、キミの名を知りたい』
「・・・・・」
『どうした? いえないのか』
「U02228・・・それが、わたしの名前」
『すまない。では、こうしよう。初代当主 ミネルバ・クランバーグの名を継承したらどうかな?』
「いいの? わたしなんかに」
『なにをいっている。今からキミは、ここの当主だ。
 私のほうこそ、これまでの非礼をわびよう』
「そんな・・・いいんです。そんなことは」
『では、頼のみましたよ。ミネルバ当主様』
「は、はい」
 少女は、誰もいない天井にむかって、大きく返事をした。
 きんちょうもとけないうち。
 やしきの中が、ぱっと明るくなった。
 何が起きたのかわらず、ミネルバをきょろきょろとあたりを見回す。
 誰もいないが、みょうに落ち着きを感じた。
「ねぇ」
『どうしました・・・当主?』
「どうなってるの。これ」
『やしきも喜んでるんでしょう。
 このやしきは、オカルト様式とよばれ、魂を持ってるんですよ
 これで、あなたも立派に当主として認められたことになるでしょう。
 さぁ、パーティの準備は整いました。
 ホールのほうに・・・・・・て、あの・・・さっきから何をなっておられるのですか?』
 かびんの中や、階段の下をのぞいたり、あちこちを見回すミネルバに、声はぼうぜんとした。
「いや、あんたがそこからかくれてるんじゃないかと」
『私はぼぅふらじゃやごきぶりじゃありませんから、そんなところにはいません』 
「じょーだんよ。それよりも、あなたの名前を聞いてなかったことを思い出してさ」
『私ですか? 以外ですね』
「何が?」
『いえ。今までの当主様は、私にあれこれ指示を出すばかりで、気をくばってくれたのはこれがはじめてです』
「ふぅーん」
 とりあえず、ミネルバは意味がわからなかったが相づちをうった。
「で。名前は」
『クロスです。クロス・ゲート。
 このやしき、風刻館のしつじでございます』
「よろしくね」
『はい。まったく、あなたという方はおもしろい人ですね』
「そう?
 わたしとしては、あんたのようにどこからか見ていて姿を見せないほうが、十分にかわってると思うけど・・・」
『ふふふっ、ミネルバ様。それはいわない約束です』
「いつしたっけ、そんな約束?」
『さぁさぁ。お食事がさめてしまいます』
「・・・・・・」







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最終更新日  2003年11月21日 09時03分34秒
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