Aちゃんの困難と私の申し出先日、Aちゃんの知能検査をさせてほしいと、親御さんに申し出ました。この子は学習面で困難が見られます。 親御さんはLDを心配されたそうです。検索もしたそうです。 当時、私はまだ専攻科への進学は決まっていませんでした。 でも、受験勉強はしていたから、LDについても調べていました。 そのときは「特定の科目に困難を示す」と認識していたし、 試験対策に力を入れると少し点数が上がったりしたので、 学習障害ではなく、勉強の習慣がついていないだけでは?と思ったのでした。 そして、親御さんにもそう伝えました。 この子は宿題を忘れたりなくしたりすることが多いです。 おなかが痛いと言ってちょくちょく休んでいました。 もしかして、これは勉強が難しすぎるから逃げているのでは?と思いました。 自分が不登校になったとき、「頭が痛い」「おなかが痛い」とズル休みをしていました。 だから、もしかしたらこの子は勉強がしたくないのでは、と思ったのです。 大学の先生に相談しました。 当時はまだ研究室が決まっていませんでしたが、現在私の指導教官である先生です。 この先生は、「オブラートに包む」ということができず、 どちらかというと極端な表現が多い人です。 「それは、学習障害か軽い知恵遅れだね」と言い切りました。 LDは一部だけができないとよく言われるけど、そうでない場合もある、と。 親御さんは進路を心配しているのですが、という私に、 「養護学校の高等部だね」と言って、忙しそうに去っていったのです。 少々(かなり?)ショックを受け、同時に先生への苦手意識も芽生え、 別の先生に相談することにしたのです。 言い方はだいぶやわらかかったですが、やっぱり考えは同じのようでした。 ただ、そこでアドバイスをいただきました。 漢字や計算がどこまでできるか確認する必要がある、と。 そして、行動観察もして記録したほうが良い、と。 やってみました。 そして、私が思った以上にこの子はできていないのだと気づかされました。 生徒は中学生です。小学3年生の漢字の読み書きが半分以上できません。 1年生の漢字は、書けても書き順がめちゃくちゃです。 算数の計算は、きちんと見直しをすれば4年生ぐらいまでは問題なくできるように見えました。 それ以上はまだ確認していませんが。 でも、文章題をやらせたら・・・小3の問題でつまずいたのでした。 私が苦手と感じたK先生は、学習支援に力を入れていました。 前回は忙しかっただけかもしれない、と思い、もう一度相談しました。 先生が出している書字指導の教材作成ソフトをすすめてくれました。 その子にピッタリだと思える内容でした。 少し、苦手意識が薄らぎました。 その後、算数の問題についても相談しに行きました。 どのように指導をすすめたらいいのか、どこからはじめればいいのか。 そうたずねる私に、彼は、アセスメントをとりなさい、と言いました。 入学して以来、幾度となくアセスメントの訓練を受けています。 初期発達コミュニケーションや、K-ABCが中心です。 これは本来、心理の専門家が行うものですが、 教師もアセスメントを取れなくてはならないと、K先生は考えています。 私もこれには賛成です。 初対面の大人にテストをされるよりも、 信頼関係のできている、慣れ親しんだ先生がテストをしたほうが 子どもだって肩の力を抜いて臨めると思うからです。 そんなわけで、私たちはアセスメントの訓練を受けています。 IQというものがあります。知能指数、と日本語では言います。 たぶん最も有名なものは、ビネー式です。 田中ビネー、鈴木ビネー、いろいろありますが、田中ビネーが主流です。 これは、精神年齢を生活年齢で割って、100をかけるという方法です。 精神年齢と生活年齢が一致していれば、IQは100です。 もうひとつ、ウェクスラー式検査というものがあります。 これは、精神年齢を求めません。標準偏差からIQを求めます。 どちらの検査でIQを求めても、多少のズレはあっても、大幅に違う値が出ることはありません。 つまり、どちらでIQを出してもいいということです。 ウェクスラー式は、WPPSI(幼児むけ)、WISC(学齢の子ども向け)、WAIS(成人向け)があります。 言語性、動作性のIQをそれぞれ求めることもできます。 先生が私にすすめたのはWISCでした。 どこが苦手か、逆にどこが得意かを知るためにはこれが適しているからです。 ほかに、発達検査のK-ABCがあり、 K先生はビネー検査、ウェクスラー式検査と同じに分類しているようですが、 別の先生は、ビネーやウェクスラーと併せて用いるべきだと考えているようです。 K-ABCは、6歳から12歳までが対象ですが、 重い知的障害を抱えている子どもは、 それ以上の年齢でも、分野別の能力の参考にすることができます。 ちなみに、K-ABCのKと、K先生は関係ありません(笑) K先生にWISCをすすめられたわけなのですが、 どのようにアプローチすればいいだろうかと考えました。 これからそのテーマに沿って研究しようと思ってはいたけど、 いきなり実践がやってくるとは思いもしませんでした。 親御さんの承諾はきちんととらなくてはならないということはわかっていましたが、 一番の問題は子どもにどう話すかということでした。 中学生だから、「知能検査」が何を意味するかは理解できます。 「何が苦手かを知るためのテスト」と言おうと思いました。 ところが相談相手は、あの極端なK先生です。 「もう中学生なんだから、自分の障害は受容すべきじゃないの?」 「適切な教育が受けられないほうが不幸だよ」 確かにそうです。でも、物事には段階というものがあります。 まだ、どこに問題があるのかもわからないのに 「知能検査」という言葉を出して不安にさせる必要はないと思います。 親御さんには嘘はつけないので、きちんと言わなくてはなりません。 その言い方についても大変悩みました。 自分が親の立場だったら、「知能検査」という言葉はどれだけ重いだろうと考えたからです。 大人でさえも重い言葉を、子どもに使うわけにはいかないと思いました。 K先生の言葉に納得がいかなかった私は、また別の先生に相談しました。 丁寧にアドバイスをくださいました。 それから1ヶ月ほどたってから、やっと親御さんにお話することができました。 というのも、ちょくちょく休みになってあいてしまったのと、 親御さんと1対1で話せる機会がなかったからです。 先週、子どもが先に部屋に入ったので、お話することにしました。 指導前なのであまり長々とは話せませんから 「お話・・・お願いしたいことがあるので、ご都合のいいときにお電話をいただきたいのですが」と言いました。 「一体どういう内容ですか?」ときかれたので、 「Aちゃんの指導に関して、親御さんの承諾をいただきたいことがあるんです」と答えました。 指導をしながら、電話をいただいてきちんと説明できるだろうか、と考えました。 文書にしたほうがよかったのではないか。 そして、文書にするなら先生の指導のもとにそれを作成すべきだとは思いました。 でも、もう「電話をください」と言ったあとです。 そこで引き伸ばしては、親御さんも一体何なのだろうと悩むと思いました。 子どもが課題をやっている間に、要点をまとめ、そして手紙にしました。 詳細は端折りますが、専門家ではないので検査の結果は学習の参考程度にとらえていただきたいこと、 個人情報はきちんと管理すること、所見を書いて親御さんにお渡しすること、 そして、WISCとはどのようなことを調べるのか、を書きました。 お子さんには、「テスト」としてお話したいことなども。 K先生が考えるように、子どもには適切な教育を受けさせてあげなければと思います。 困難があり、支援が必要なら、少しでも早く支援体制を作ってあげなくてはならないと思います。 早くしないと、どんどん勉強がわからなくなってしまう。 自分に自信も持てていないし、もしかしたら不登校になってしまうかもしれない。 そんな気持ちから、焦りがあったと思います。 できる限りの配慮をしたつもりでも、もし欠けている部分があったらどうしよう、 親と子の心理的な負担をどれだけ軽くできるかを研究しようとしているのに、 その私がしたことが負担になっていたらどうしよう、と悩みました。 私の申し入れがどうとらえられているか、と不安でした。 K先生の考えに納得できず、別の方法をとったことから、 ひとりで丸一日考え込みました。 ほかの先生に相談しようと思ったときは、お休みだったりして。 でも、結局K先生にお話ししました。 先生の考えに納得がいかなかったことを話し、自分の考えも話しました。 私のしたことを、先生は責めることはしませんでした。 あなたが自信を持たなくてどうするの?といわれました。 そうやって悩むほうがよっぽど相手に失礼だ、と。 子どものためを思っているならもっと自信を持ちなさい、と。 いけないことをしたとは思いません。 Aちゃんに適切な指導をする義務が私にはあると思っています。 あの手紙は、親御さんには厳しかったかもしれません。 もしかしたら、言葉選びを間違った部分もあるかもしれません。 でも、私がAちゃんの力になりたいということだけは自信を持って言えます。 これから私のすべきことは、 親御さんが納得して、安心できるまでお話をすることだと思います。 言葉選び、最適なアプローチの仕方は、まだわかりません。 それは、私に課せられた課題なのだなと思います。 教師として、子どもに特別な支援が必要と感じたとき、 一体どのように親御さんにお話すればいいのか。 どうすれば余計な負担をかけずに済むのか。 研究テーマでもあります。 念のため、K先生のフォローをしておきます。 たぶん彼の表現には「真ん中らへん」というのがないのだと思います。 話の中にもあるように多少過激と思える発言も飛び出します。 でも、本当は、子供のことをものすごく考えている教授なのです。 重症心身障害児教育の研究に力をいれ、 また、軽度発達障害児の学習支援にも力を入れています。 (まぁ、実際動いているのは学生ですが) 先生自身が子どもみたいなところもたまにありますし、 世話好きが高じて忙しくなり、引き受けたことを学生に押し付けちゃうなんてこともありますが、 お茶目で気のいい先生です。 最初に苦手意識を持ってしまったので、研究室選びは悩みましたよ。 でも、専門性の高さと、研究室の活動への興味、 そして、自分の研究テーマと一致していると感じ、ここに決めたのでした。 正しい選択をしたと思います。 子どもと学生が大好きな先生です。 ちょっとデリカシーがなく、いたほうが混乱することもありますが、 やっぱり先生の経験と知識、専門性は、頼りになるなぁと思うのです。 私はしょっちゅ憎まれ口たたいていますが、けっこう先生のこと好きです。 |