ベニスに死す。
最近また眠れない症候群。 昨夜は眠れないのでPCの前に座って、寝酒のブランデーを飲みつつ 無料動画サイトを漁っていましたら。 Death in Venice やってました。 あれですわよ。 巨匠ヴィスコンティ。 【ベニスに死す】 海っぱただからって。 ベニスでスシ・・・ではなくってよ。 ベニスにシス。 トマス・マンの小説をヴィスコンティが映画化。 大好きな映画ですけれど・・・なぜか見る前にちょっと躊躇ってしまう映画なり。 だって。 トマス・マンに・・・ヴィスコンティですわよ。 眉間にややシワが寄る。 眠れない夜に進んで食指が動くタイプのものでなし。 始まりから、すでにダルダルな雰囲気が漂う映画です。 ちゃんと見なくちゃならないタイプの映画。 ただ、ちゃんと見るとだいぶ面白い映画なり。 オンガクでいえばクラッシックみたいなもんか。 エネルギーを消耗致す。 しかし・・・ オープニングに静かにマーラー交響曲第5番が流れはじめ その高まりとともに・・・音楽はベニスのにじんだような美しき風景とシンクロ。 そうなると、もうどうにもとまらなくなる。 あのオープニングはとても好き。 毎度毎度、最初の15分のあたりで一度 「わたしゃ途中で寝るかもな。。。アッシェンバッハさんがコレラにかかりんしゃる前に・・・」 ・・・と思うのだけれど。 結局最後まで見てしまう不思議な映画。 疲労は承知で、見ずにはおられなくなるのであります。 【年老いた音楽家が、静養にきたベニスで美少年にいれあげて 伝染病にかかって死んじまう】 まあ。 言ってしまえばそんな話ではございますし・・・ 中学生のころにはじめてこれを見たときには、そうとしか考えられませなんだ。 最初に見たときは特に面白いタイプの映画でもなし。 しかし見返すたびに、印象を変えていく映画であります。 己が年をとるたびに、なんだか妙にしんみりと入ってくるんじゃないかしら。 年老いた音楽家アッシェンバッハ。 「美とは努力の末に作り出される」という信念を持ち 感覚的な美というものを否定し続けて生きてきた音楽家であります。 年老い、すべてに疲れ切った彼は、静養のためにベニスのリドを訪れ・・・ そこで・・・美少年のタッジオに出会うこととあいなるわけです。 美しき少年。 健康、若さ、麗しさをすべて兼ね備えた存在。 年老い、病んだ音楽家の目にはそれはパーフェクトな美として映るのであります。 理屈ぬきの圧倒的な美でございます。 まばゆいほどの。 それは彼が否定し続けていた「ただそこに存在する美」でございました。 努力なぞなしに。 ただそこに存在した「美」。 憧憬や畏怖の念とともに、彼はその美少年に恋をしますの。 恋ですわ。 本当の片恋というやつで。 少女のように愛らしい。(容貌はおいておき) 老作曲家はただただ彼をじっと見つめ・・・見守り、彼の姿を求めてさまよう。 それはみじめで、醜くも見えますが。 なんとも幸せそうでもあります。 結果、コレラの蔓延したベニスのビーチにて タッジオが友人らと戯れる様を見ながら、息絶えるのですけれど。 あの恍惚の死に顔といったら。 ヴィスコンティの映画において・・・ あんな幸せな死に方をする人物がおるだろうかしら。 海に浮かぶ水の都ベニスが舞台なせいかしら カメラワークのせいかしら 独特の間のせいかしら 全体を通して軽く船酔いしたような気分になる映画であります。 (彼のたゆたう波のごとく揺れ動く視線をカメラが追いますの。 あれが船酔い気分になる原因では?笑) 気分のいいほろ酔いみたいな。 とにかく圧倒的に美しい映画でございます。 静かで、会話も少なく・・・オンガクもよろし。 ただ。 夜中に「眠れないからちょっと見よう」というタイプの映画でないことは 昨晩よくわかりましてよ。 でもまたきっと見る映画。