This mortal coil / choir invisible
Dさんから質問された。「This mortal coil」って何の引用?そりゃ一種のバンドの名前だよ・・・大元の出典は『ハムレット』の第三独白。'To be or not to be'の台詞だ。To be or not to be, that is the question.「生きるべきか死すべきか、それが問題だ」というのが一番わかりやすい訳だが、『ハムレット』の翻訳はおそらく何十種類もあるから、この有名な台詞の訳もその数だけある。世に在る、世に在らぬ、それが疑問ぢゃ。(坪内逍遥)存う(ながらう)べきか、存わざるべきか、それが疑問だ。(誰だか知らん。台詞もうろ覚え)このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ。(小田島雄志)「そこが思案のしどころだ」なんてのもあったっけ?とにかくいろいろあるのだ。ということとThis mortal coilの関係はというと、この数行後に、'When we have shuffled off this mortal coil'という行があるのだ。要するに「この世のしがらみを振り捨てたとき」、すなわち人が死んだときに、という意味である。(mortalは「いずれ死ぬ」という意味。不死の神々や永遠に続くものに対比して、生物のこと。)大まかな意味はそれでいいんだけど、mortal coil自体の意味は何なのかというと、一言では言えない。意味が多重なのだ。mortalは、いつかは死ぬ運命の、というのが一般的な意味。そこから生物とか、未来永劫存続する天国に対して現世・この世の属性を表す。coilはコイル、つまりぐるぐる巻いてるものである。だからしがらみとか、混乱した現世の状況などを表していると言われている。私は誰に習ったのか忘れたが、この台詞におけるcoilは人間の身体そのものだと理解していた。血管とかぐちゃぐちゃ絡まってるのがcoilなのだと・・。実際、そういう解釈も一部認められている。どの解釈が間違ってるとかいうことではなく、考えられる全部の意味がthis mortal coilというフレーズに含まれているのだ。死すべき運命のこの肉体、この世のしがらみ、混乱した人間世界、etc.そうすると、shuffle off this mortal coilの意味も、生身の身体を脱ぎ捨てる、この世のしがらみから抜け出す、等々の意味を多重に持つことになり、そのすべてが「死ぬ」ことを意味する。↑これは自分のための覚え書き。質問の答は、『ハムレット』からの引用ということでいいんです。第二の質問。「join the choir invisible」の出典は何?見えざる聖歌隊に加わる?知らんわ。(ちなみにchoirは「クワイア」と読む。コーラスchorusと語源は同じらしい。)こういうときのインターネットですよ。すぐ見つかった。ジョージ・エリオットの詩だった。O MAY I join the choir invisible Of those immortal dead who live again In minds made better by their presence: 第一行がそのままタイトルになっている。全部読んでないけど、自分が死んだら偉大な先人たち(たぶん文学者たち)といっしょに天国で神を称える聖歌隊に加われたらいいなあということらしい。そんなわけで、英文学者D氏の疑問は解決したのだが、そもそも彼がなぜこういう問題にぶつかったかというと、this mortal coilの場合は知らないが、join the choir invisibleのほうは、モンティ・パイソンのコント「死んだオウム」でこのフレーズが使われているからだ。[引用]... It's expired and gone to meet its maker. This is a late parrot. It's a stiff. Bereft of life, it rests in peace. ... It's rung down the curtain and joined the choir invisible.このコントには、「死んでる」ということを表す表現が山のように出てくる。日本語だとどうなるかな。「死ぬ」という意味の動詞だけでも1ダース以上あるだろうから・・・。死ぬ、死亡する、死去する、息を引き取る、みまかる、くたばる、逝去する、亡くなる、還らぬ人となる、天に召される、あの世へ行く、お陀仏になる、手がこうなる(はい、幽霊の手やってみて!)・・・。鬼籍に入るとか末期の水を飲むとかいうのもあるな。死んじゃった、三途の川を渡っちまった、閻魔さまの前にいる、お釈迦様といっしょに蓮の花の上にいる、草葉の陰から見ている・・・。だんだん脱線してきたのでやめますw今日はこれまで。ごきげんよう~。