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カテゴリ:書評、感想
アーシュラ・K.ル=グウィン作『ゲド戦記別巻 ゲド戦記外伝』を読んだ。これにて現在出ている『ゲド戦記』シリーズを全て読んだ事になる。今年読んだ中でかなりのヒット作。映画を入り口にしてこのような収穫を得ることが出来た。映画にはこういう良さももあるんだなぁ。
外伝は5つの物語の短編集。一つづつ丁寧に作られている。 「カワウソ」 ロークの発祥を描いた物語。カワウソ(メドラ)と呼ばれたロークの魔法学院創始者の一人にして技師(魔術師)が主人公。 「ダークローズとダイヤモンド」 裕福な商人の息子が主人公の物語。テーマは物事は「一意専心」しなければならないのか。というもの。 「地の骨」 のちに大賢人ハイタカの師匠オジオンが大地震を止めた伝説にまつわるお話。オジオンの師匠ダルスが主人公。 「湿原で」 ある湿原の村に迷い込んできたある男のお話。村では牛の伝染病が起こっておりそれを治療しに来たと男は語り治療するが、男はどこか影を引き摺っている。 「トンボ」 表題の通り主人公トンボ(アイリアン)のお話。5巻へと繋がる内容。 4巻と5巻の間にこれを書いたらしい。出版年を見るとそのようになっている。実際、この巻は4と5の間で読むべきだろう。しかし先に5巻を読んでしまったので最後の物語の筋が読めてしまった。まあ、この作品の面白さは筋だけではないから面白くなくなるわけではないけれど、少し残念だ。 あとがきのように付されている「アースシー解説」もいい。この人はきっちり物語の世界を構築するからとても読み応えがあるんだろう。 自分としては「ダークローズと…」のテーマ「一意専心」、「湿原で」のテーマといえる修羅の性が印象に残った。 ―何かを得るためには他の何もかもを捨てて専心しなければならない―これがダイヤモンドの考え、母親はそれに疑問を呈する―どうして?―と。これは生きてゆく上で少なくとも一度は考えるテーマじゃないだろうか。それに対して答えなどは出せないがダイヤの母親の言葉は好きだ。 人と競おうという精神は向上のために用いればそれは素晴らしい。しかし憎悪、高慢、強欲のために傾けば歯車が狂ってしまう。そんなことを感じた。 『ゲド戦記』シリーズを読み終えてかなりのしっかりとした世界観、心情世界を描いた作品だな、そう感じた。やはり特に印象深かったのはハイタカとアレンの旅(3巻)と力を失ったゲド(4巻)の部分。前者は自分の今置かれている現実を重ねて、後者は一度地元に戻った時のことを思い出していた。 いい作品だった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006/11/19 12:43:11 AM
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