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カテゴリ:日々のつれづれ
「閻王がいる、ですって…!」 城内での戦いの音さえ聞こえないほど奥深くの、 祈りの間にこもっている最中もたらされたその知らせに、 その場にいたミコ達がざわついた。 閻王。 それこそ王国を古から脅かす敵軍の王の名だった。 「…外へ出ます!」 ミコ達と祈りの間から出ると、 思っていたよりすぐ近くに戦いの音が聞こえた。 朝には2層だった戦の場は、半日でだいぶ押し上げられているようだ。 長い回廊を駆け抜け、6層の中庭へと続く長い石段の上に出る。 見下ろすとそこはすでに修羅場と化していた。 敵味方入り乱れ、 …違う、 よく見れば王国の兵は退却しつつの応戦がほとんどだ。 ―――圧倒的不利。 ミコ姫のわたしの頭をよぎっってしまったその言葉。 それでも彼らが踏みとどまっているのは、 上層階にいたわたし達ミコへと近づけさせまいとしているからだ。 ―――アシュラは、どこ…? この状況で奥にいるような人ではない。 目をこらすと、 中庭のほぼ中央に黄金の甲冑をまとったその姿を見つけた。 そして、その眼前に―――。 閻王…! そこだけ次元が切り取られたかのように、 彼らの側には誰も近づいていない。 アシュラと閻王の無言のにらみ合いだけが静かに続く。 その場でそれが見えたのは、きっとミコだけだっただろう。 剣を構えるアシュラの背に、ほの紅く立ち昇る炎、 隙なく身構える閻王の背に、ほの蒼く揺らめく炎、 それこそ古から続く、まぎれもない王と王の正統なる戦い。 何人たりともそこに立ち入ることは出来ない。 例えそれが見えずとも。 そして、―――剣戟。 舞にさえ見えるアシュラの動きに、閻王は翻弄されてばかりだ。 勝てるかも、しれない。 閻王さえ斬れば、敵は引くはずだ。 少しだけ見えた希望にミコ達がため息をつく、 けれどそれもつかの間だった。 近くで戦って倒れた王国兵士の剣が、その手から抜けた。 飛んできたその剣をアシュラが寸前で落とす。 そこに閻王が打ち込む。 無理な体勢でそれを防いだアシュラの剣が負け、勢いよく弾かれた。 腰にさした細剣をアシュラが抜くより先に閻王が剣を振りおろし、 私の悲鳴をあげた、その時だった。 突然、背中に突き刺さった剣に、閻王が叫び声をあげる。 おぞましい叫び声が上がる中、 西日に染まった甲冑を煌めかせて風のように軽やかに駆けよってくると、 暴れる閻王の背から自分の剣を素早く抜きとり、 シヴァは兄の前に立ちふさがった。 「遅れた。悪ィな、アシュラ。」 「シ、ヴァ…」 「さぁ来いよ、化け物!今度は王弟、王国大将軍シヴァが相手してやんぜ!」 ニヤリと、悪鬼のようにさえ見える笑みを浮かべて剣を構える。 「やめろ、シヴァ!」 「シヴァ、だめっ!」 アシュラとわたしの声が重なった。 ダメだ、止めなければ…! 王と王の戦いを邪魔してはいけない! 王以外のモノが王を斬れば、ノロイが降りかかってしまう。 「ミコ姫様っ?!」 制止するミコ達を振り切って石段を駆け下りたわたしが中庭に飛びだした時、 すでに勝負は決していた。 連戦で外市街から駆け戻ってきたシヴァよりも、 閻王が負ったシヴァの与えた背中の傷の方がひどかったようだ。 倒れこむ寸前の閻王を見下ろしながら、シヴァが剣を振りかぶる。 「斬ってはだめっ!」 わたしの言葉に、敵味方の差なく周りの兵たちの動きが一瞬止まる。 それでも、 肝心のシヴァには届かなかった。 あと数歩のところで、シヴァの突き出した剣が閻王の額を貫く。 グズグズと崩れ出す閻王の体から、 仄暗く蒼い光が空へ向かって伸びる。 そしてそれは、真っ直ぐに、 王と王の戦いの邪魔をした罪人へと向かって真っすぐに、 落ちる――! 「―――っっ!」 白銀の甲冑を突き飛ばしたのと、背中に衝撃を受けたのはほぼ同時だった。 喉がやけるような熱さに悲鳴さえ出ない。 ぐしゃりと視界が歪む中、シヴァが目を見開くのが見えた。 馬鹿ね。 つぶやいた言葉は誰にあてたものだったのか。 「リタぁぁぁーっっ!!」 そこでわたしの意識は仄蒼い光に飲み込まれた。 【3】へ続く。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010/07/25 04:31:00 AM
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