老猟師のお話
秋が深まると、狩猟が始まります。その季節に合わせて、山の斜面や崖を犬と共に猪を追いかけられるように、老猟師は身体を創ります。都会育ちの私には想像すら難しい世界です。そんな灸師に腰と坐骨神経のメンテナンスに訪れます。 ゆっくりと治療する時間に、無くなった妻の話、息子の嫁の話、猟犬の話、昨年の猪の話等の物語を二週や三週に渡り話し続けます。そんな中不思議な話がありました。 山に入る時は何時もお山の神様に「お世話になります、お山の猪を頂きます」とお願いします。そして猟犬を伴い山に入ります。 犬が勝手に猪の臭いを負い始めると理由のない特別な感覚に襲われるそうです。 山が動くと言うか、木々の葉が一斉に動くような感覚です。 別に風が吹いて木々が揺れるのでは無く、自分の気と山の気が合わさる様な感覚です。その感覚が起こった日には必ず猪が獲れるそうです。その話を聞いて身震いを致しました。実は私も同じ感覚で治る人が判るのです。 山の気では無いが、何となくです「ああ、この人は治ると」確信めいた実感が起きます。またお灸のツボや治療箇所、臓腑の陰陽等を「ここですよ、これですよ」と教えてくれる気もあります。 「ご両親と祖父祖母が頭を下げて頼むから、治して上げないと申し訳ないですね」と自然に言葉がでた経験があります。 言霊と言いましょうか「気」呼ぶものでしょうか、科学的には「気とは」空気みたいな物ですが、精神的な面や心の状況も「気」という言葉で置き換える事があります。 気持ち良い、気が塞ぐ、気違い、気晴らし、気が付く、気力が無い、気を感じる等です。 我々鍼灸師は、気を感じる行為を大切に致します。皮膚の表面、顔色、舌色、筋肉の張り具合等から、その人の生活や環境を類推します。その事が猟師の「山が動く」の気と同じく、心の精進が気を感じる力を増して居るのでしょう。