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カテゴリ:その他

Moscerino(モシェリーノ)という言葉を初めて耳にしたときはなんだかおかしかった。

群がって飛ぶ小さな昆虫の総称ということになっているが、わたしはそれをショウジョウバエに対して使われていたのを聞いたのである。

響きがかわいらしかったことと、話し言葉のなかで発音されるとくぐもってムショリーノとも聞こえたりするので、

虫=ムシがムショリーノ? 冗談じゃなくて? という感じだった。

ブドウの収穫期になるとこのショウジョウバエはどこからともなくやってきて、大繁殖する。正確には、収穫期ではなく醸造時である。ブドウをつぶしてアルコール発酵がはじまる頃に、彼らはがぜん張り切りだすのだ。アルコールが大好きなのである。

何気なく手にした本に、

-ショウジョウバエという名前をだれがつけたのかは知らない。少々大げさだが、よくぞつけたという名前である。

ショウジョウとは「猩々」のことである。酒が好きでいつも飲んだくれている、あの伝説上の大きなサルのことである   -『人間はどこまで動物か』日高敏隆著(新潮文庫)

と書いてあって目からウロコ、わたしも「確かによくぞつけてくれた!」と深く感心してしまった。

知らなかった、のです。今まで。みんな知っていることなのかな。

猩々バエ...なんと風雅な。


アルコール醗酵中、とくに開放桶での醗酵を何桶か別々に分けて行っている場合など、この猩々バエが媒体となってワインに好ましくない物質を桶から桶に移してしまうのではないかと造り手から聞いたことがある(カステッラーダのニコだった、確か)。

つまり、いくつか桶があるなかでも醗酵がうまく進んでいるものもあれば、多少揮発酸が高く、わるくすれば酢酸も発生してしまいそうだなんていう調子の悪い桶もある。悪い桶で酔いつぶれたモシェリーノ君がふらふらとやってきてお尻についた酢酸菌などを良い桶にまでくっつけていってしまうのではないか、と。

フランクはさらに、酔っ払って溺れ死んでしまうか、急性アルコール中毒でコロリと逝ってしまうかしたモシェリーノ君の死体の匂いがワインに移ってしまうと思い込んでおり、何かのワインをテイスティングしたときに

「やつだ!」とモシェリーノ(の死体)の香りを断定していた(わたしは信じなかったけど、もちろん)。

というわけで日本では風雅な名前を持つモシェリーノ君もワイン醸造界ではあまり歓迎されない存在なのです。

アルコール発酵が終わるたびにすべてのアンフォラ(テラコッタの壺)の液面に浮ぶ可哀相なモシェリーノ君の死体をティッシュに吸い付けてひとつのこらず取り除くという気の遠くなるような作業を行ったこともある(なぜ自分でやらないのだ、フランク!と思いつつ...彼は細かい作業が苦手である。気が短いのだ)。

レ・トラーメのジョヴァンナ・モルガンテ(キャンティの造り手)は、ひとつひとつの桶にモシェリーノが入り込まないよう目の細かい網でキャップのようなものを手作りして上部を覆っていたっけ。

「なんて女性的な細かい気遣い!」と感動したフランクはすぐさま似たような網を造って真似していた。かぶせるときにどうしても何匹かは入ってしまうので「使えねえ」と怒って放り出していたけれど...(それでまたティッシュである)。

先の本によると、猩々バエは本物の(といっても空想上の存在だけど)猩々のようにお酒が好きで酔っ払うために寄ってくるのではなく、腐ってアルコール発酵をはじめるほど熟れ過ぎた(つまり鳥などに狙われる可能性の低い)果物を探し出すためのシグナルとしてアルコールの香りをキャッチするのだそうだ。だからきっといくらそれがすごい、たとえばマグマのようなワインだったとしても

「なんだワインか、ちえっ」とがっかりされていたに違いないのだ。

そう考えると無念のまま虫けら同然に(!)死んでいった彼らが少しだけかわいそうになるね(←嘘)。

猩々ならば酔って死ねれば本望かと言えなくなってしまった訳だけれど、少なくとも、モシェリーノたちがアンフォラにたどりつく前に、とフランクが天井からつるした無数の超強力ハエ捕り粘着リボン…(ハエだけじゃなく私にもよくくっついた)…あれに張り付いて死んでいくよりは幸せだったんじゃないかな。






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Last updated  2008年02月03日 23時55分21秒
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