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テーマ:辛口映画批評(354)
カテゴリ:マスコミ試写
映画の話 元軍人のウォルトは近所に住むアジア系やラテン系の移民との交流を拒んでいた。だがある晩、愛車が盗まれそうになる事件が起き、実行犯の少年タオを諭すことに。その一件以来、彼はタオの家族と心を通わすようになる。 映画の感想 これは素晴らしい!長きに渡り映画人生を歩んだクリント・イーストウッドの崇高な到達点と言える作品だ。映画は移民国家アメリカが抱える様々な問題を定義しながらも、とてもシンプルなストーリーをここまで力強く、ブレる事無く描き上げたイーストウッド監督の力量をまじまじと感じ取る事が出来る作品だ。 以下ネタばれ注意 本作でイーストウッドが演じるコワルスキーは強烈なキャラクターだ。極度な頑固者の為に家族からも煙たがられ、亡き妻に彼の世話頼まれた新米神父を「頭でっかちな童貞」とはき捨てる毒舌の持ち主だ。自分の住む町で悪さをする者には拳銃をちらつかせ威嚇する。ポーランド移民でありながらバリバリのアメリカ愛国者で、近所から白人がいなくなり有色人種ばかりなった事を嘆いている頑固シジイだ。そんな彼が愛車“グラン・トリノ”盗難未遂事件から隣に住むモン族の少年タオと交流する事で物語は動き出す。 妻を亡くし缶詰やインスタント食品漬けの食生活を送るコワルスキーであったが、交流を拒んでいたモン族に食事に釣られて次第に心を開いてゆく過程がコミカルに描かれる。タオとの交流も何処か「ベスト・キッド」シリーズの師弟関係を思わせる心温まる老人と少年の友情関係が絶妙で、私も映画を見ていて頬も緩み目頭も熱くなってくる。特に「ゾディアック」の容疑者役のジョン・キャロル・リンチ演じるイタリア系の床屋の主人とコワルスキーの毒舌磨きをタオに継承させようとする辺りは、コワルスキーとタオは擬似親子のようである。 映画はモン族間の揉め事にコワルスキーが首を突っ込んだ為に、争いは更に激化すると言う悪循環が描かれるが、この映画を斜めから見ると正に移民国家アメリカの縮図を描いているように感じる。先住民の住む大陸に移民が大挙して押しかけ、アフリカから黒人を奴隷として連れて来て、白人を頂点とする白人至上主義を作り上げたアメリカ国家であったが、いつの間にか白人以外の有色人種が移民として集まり、気がついたら周りは有色人種ばかりになってしまった国である。しかし世界の警察として君臨するアメリカは他国の民族間の争いに首を突っ込み争いを更に激化させてしまう。正に本作で描かれている事は、国のやってる事を個人単位に置き換えた様にも見える。 しかし本作の着地点は、今までのアメリカ映画とは違う道が選択されている。“自国は自分の手で守る”的な発想が多かったアメリカ映画とは正反対の選択がされている所が本作の要であろう。元軍人の主人公が物語の中で度々拳銃に頼るシーンがミスリードとなり、ラストは意表をついた形で幕を閉じる。これは「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「ダーティーハリー」シリーズなど、拳銃で物を言わせてきたヒーローを演じてきたイーストウッドのたどり着いた死生観と言うのも肝であろう。そんな彼のイメージを打ち砕く終着点に胸を打たれた。本作はイーストウッド流のアメリカ国家とアメリカ映画への強烈なアンチテーゼなのだろう。 映画「グラン・トリノ」の関連商品 ★枚数限定&両面印刷★[映画ポスター] グラン・トリノ (クリント・イーストウッド) [DS] ★枚数限定・両面印刷★[初版ポスター] グラン・トリノ (GRAN TORINO) [B-DS] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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