中高年の生涯学習

2015/11/01(日)14:39

放送大学の自主規制

放送大学で、ゆゆしき問題が起きている。放送大学には文部科学省の役人の天下りの職員が大量にいるらしいことは周知の事実である。これが今度の問題にどのくらい関わっているかはわからない。朝日新聞が10月21日に報じた記事によると、7月の単位認定試験に安倍政権を批判した文章が含まれていたのは不適切として、学内サイトに掲載の際、該当部分を削除した、ということだ。削除されたのは、佐藤康宏東大教授の「日本美術史」。戦前、戦中に風刺画を描いて弾圧された画家の名前を問う問題だった。問題の画家は村山知義。削除された文章は「現在の政権は、日本が再び戦争をするための体制を整えつつある。平和と自国民を守るのが目的というが、ほとんどの戦争はそういう口実で起きる。表現の自由を抑圧し、情報をコントロールすることは、国民から批判する力を奪う有効な手段だった」という問題の前書きにあたる部分のようだ。受験した一人の学生から、「現政権を批判するような文章があり、問題だ」というメールが届いた。来生(きすぎ)新・副学長は「放送法の規制を受け、一般大学より政治的中立性を配慮しなければならない。問題文は公平さを欠くと判断した」と削除理由を説明した。学長は、コンピュータの仕組みなどを解説する授業を行っているが、この来生副学長の授業は見たことがないので、主に管理の仕事をしているのだろう。文部科学省の天下りかもしれない。発想が役人的である。放送大学は、放送を担当する総務省と大学を担当する文部科学省の範疇にある大学である。総務省は「法に触れない」と言ってるようだ。そうすると来生副学長が一人で決めてしまったようで、学内で論議が行われていないのか不思議である。佐藤教授の「日本美術史」は日本の古代の埴輪から現代の前衛美術まで、テレビというメディアの特性を活用し、なかなか見ることができない美術品を見せるという所に主眼をおいた授業である。佐藤教授は上野の国立博物館の学芸員だった。 天上がりで大学教授になり、東京大学と放送大学で授業をしていた。もとより一流の学芸員による美術解説を堪能できる講義になっている。実に贅沢な授業である。佐藤教授は今年度で客員教授を辞任するという。来年の3月まで放送授業は放映されるので、見てない方は是非見てみることをお勧めする。(放送時間は下記)問題の村山知義は前衛芸術家で知られる。「忍びの者」という小説を書き、これがテレビドラマ化されたので、ご覧になった人もいるかもしれない。前衛美術集団「マヴォ」を結成、雑誌「マヴォ」も創刊したこともこの授業で紹介されていた。村山知義の息子の亜土はギャラリーTOMを作り、視覚障害者に美術品に触れる体験をさせる超ユニークな美術館を作った。村山知義はマルチ芸術家だった。憲法違反の悪法である安保法案には刃をもって噛みついただろう。「忍びの術」でめった切りである。放送大学は大学のはずである。このような問題を削除して、なかったことにするのではなく、オープンに論議すべきである。政治学上、安倍政権とは何なのか、村山知義の芸術的意義とは何なのか、公共施設の「政治的公平」とは何なのか、安保法制の問題点とは何なのか、大学の自主規制とはどこまで許されるか。論議のテーマは多量にある。佐藤教授の削除された文章「表現の自由を抑圧し、情報をコントロールすることは、国民から批判する力を奪う有効な手段だった」は放送大学の自主規制に向けられた文章のように読める。なにもしないなら放送大学は、大学の名称を削除して「放送」だけにすべきである。これではなんのことだがわからない存在になってしまうが。日本美術史 テレビ(地上波12チャンネル)月曜日13:00~13:45 集中放送 平成28年3月6日~12日 16:45~2コマづつ放送 放送大学登録生は視聴室で申し込めば終了科目も1ヵ月視聴可能。自宅には持ち帰れない。  

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